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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•設立編
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依頼:政府のお使い - 鬼塚 琉蓮①

【廃部を言い渡される前の日】



どうして、こんなことになったのかって? こっちが聞きたいくらいだよ。


迷彩服を着せられた僕は、遠隔で操作できる戦闘機に乗せられ、ある場所へ輸送されているんだ。



御影みかげ鬼塚おにづかくん、ちょっと頼みがあるんだけど良いかしら?』



自警部じけいぶという名のボランティア部2軍みたいな部活を立ち上げたあの日、御影みかげ教頭は僕に声を掛けてきた。


『あ、はい…』


頼みって何だろう? 僕に頼むくらいだから、重たい物を運んでほしいとかかな?


そんなことを思いながら、二つ返事をした結果がこれだ。


もう一度言おう。


僕は今、この狭苦しい戦闘機に乗せられ空を飛んでいる。迷彩服とマシンガン (多分本物) を渡された状態で。


今日の放課後、御影みかげ教頭の車に乗って目隠しをされたんだ。


御影みかげ『もう目隠しは外して良いわよ』


いつの間にか着けられていた右耳のイヤホンから、さっき彼女の声が聞こえてきた。


そして、目隠しを取ったらこの有様だ。僕は気づけば雲の上。


どうりで途中からゴーゴーうるさかったわけだ。ふざけんなよ、マジで。


内容も聞かないで返事をするんじゃなかった。これ今日中に帰れるのかな?


明日の授業、どうするんだよ…。


ていうか、帰れないと流石にお父さんに怒られる。門限とかはないんだけど…。


スマホを持ってないから、遅くなるっていう連絡すらできない。


そして、御影みかげ教頭が言っていた“頼み”の内容も目隠しを外したときに説明された。



今回、僕に課せられた依頼は…、






“とあるテロ組織の制圧と、そこに捕らわれている人質の救出”だ。






ボランティア部2軍の端くれが受ける依頼じゃないだろ…。


ガチのボランティア部でも河川敷の草むしりとかゴミ拾いするくらいだと思うけど。


テロ組織を1人でどうにかしろなんて突拍子もない話だけど、戦闘機に乗せられている時点で冗談とは思えない。


御影みかげ『他の自警部じけいぶのみんなも、鬼塚おにづかくんのように今日から依頼をこなしているわ。一緒に頑張りましょう』


言葉を失って硬直している僕に、彼女は珍しく優しい口調でそう言っていた。


『ちなみに、どんな依頼ですか?』


みんな、こんな危なっかしいことをしてるんだろうか?


みんなが受けた依頼に対する率直な興味と心配から、僕は彼女に尋ねた。


そして、返ってきた答えがこれだ。



お餅配り、畑仕事、弁当の配達。



ただのボランティア活動じゃねぇかよ、クソヤロー。


なんで僕だけ国と人命背負わされてんだよ。


僕は田舎のいち高校3年生だぞ。今年、大学受験も控えているんだ。


それに、こういうのは大人の仕事じゃないのか?


「あの…、先生。こういう任務って軍隊の人たちがした方が良いと思うんですけど…。ていうか、普通に怖いし…」


僕はいつの間にか着けられていたイヤホンを経由して、御影みかげ教頭に問いかけた。


御影みかげ『軍隊を派遣し、真っ向から戦うと必ず死傷者が出る。抗争に人質を巻き込んでしまうかもしれない。でも、鬼塚おにづかくんなら大丈夫。貴方なら敵を難なく一掃し、人質たちを無傷で助け出せるでしょう』


いやいや、ちょっと待って。


何その漠然とした“大丈夫”って…。何処をどう見てそう判断したんだ?


銃弾とかミサイル喰らってもへっちゃらだとか思われてる?


生まれてこの方、そんなもん1回も喰らったことないから怖いんだけど。


「あの…、色々と自信ないので辞退したいです。普通に撃たれたら死にそうだし、加減ミスってアジトどころか大陸ごと吹き飛ばすかもしれないし…」


やらかした光景を思い浮かべながら話したせいか、僕の身体は自然と震える。


すると、イヤホンから溜め息のような音が聞こえてきた。



御影みかげ『この任務は責任重大よ。軍隊ではなく貴方を派遣することを政府は決定した。そちらの方がより確実かつより安全に任務を進められるからという結論に至ったの。それを貴方の気分でやめるなんて、ふざけたことは言わないで』



何かもっともらしく言ってるけど…。


うん、理不尽だ! 雲龍うんりゅうのクソジジイもそうだったけど、政府の人ってみんなこうなのかな?


民主主義国家なら、僕の意思を尊重してほしいんだけど。


持ってる特質的に、人とは思われてないのかもしれない。


御影みかげ『それに、今回は他人事じゃないのよ。先日、吉波よしなみ高校の生徒も拉致された。この映像を見てちょうだい』


彼女がそう言った直後、僕の目の前に少し青みがかったホログラムの画面が現れる。


その画面には有名な動画投稿サイトが表示されていて、ある動画が流された。


一般公開されていると思われるその動画のタイトルは…、




“【ゲーム実況】ガチのテロ集団相手にリアルFPSやってみた【世界よ、これが真のVRだ】”




投稿者のアカウント名は、“田舎の石油王”。


タイトルで全てわかったよ。見なくてもよく理解できた。


田舎の石油王と名乗る吉波よしなみ高校の生徒がガチで赴いて拉致られたんだろうな。



『こんにちはこんばんは。田舎の石油王こと野渕のぶち 英王ひでおうです』



再生された動画には、砂漠を背景にど真ん中に立つ人物が映し出されていた。


前髪パッツンの坊ちゃん刈りで丸顔、そしてぽっちゃりとした体型の彼は、吉波よしなみ高校の制服を着ていてマシンガンを持っている。


さつみたいな名前だな。金をいっぱい持っているということを暗に伝えたいのだろうか?


それなら諭吉的な名前にした方が良い気がするけど。


野渕のぶち『本日はですね、父親の金とコネで、テロリストが蔓延はびこるこの地に特別に降り立ちました』


おいおい、せめて私服で行けよ。風評被害ハンパねぇよ。まぁ再生数10回程度だから問題なさそうだけど…。


マシンガンを持ち、明らかに作った笑顔でそう語る彼を見て僕はそう思った。


野渕のぶち『あ、やらせじゃないですよ。これやらせとかいう奴、マジゴミなんで』


いきなり口調が荒くなる吉波よしなみ高校生の野渕のぶち英王ひでおう


大丈夫、僕は信じるよ。だって、国が動いてるもんね。


能力持ちとか神憑かみつきとか変な機械とかがやって来てるの、こいつがネットでヘイト買ってるとかじゃないよな…。


野渕のぶち『とりあえず、今回はガチのテロリスト相手にガチの武器でヘッショ決めまくりたいと思いま~す。言っとくけど、BPEXビーペックス、ランクプラチナなんでマジ舐めんなよ?』


※ヘッショ…ヘッドショットの略。


彼は何故かキレ気味にそう言い、カメラに背中をむけて砂漠を歩き出した。


ふと思ったんだけど、これ誰が撮影してるんだろう? 金で友達を釣ったとか?


御影みかげ『全く…、面倒なクソガキね。吉波よしなみ高校の存在、広めないでほしいんだけど』


何もない砂漠を歩く野渕のぶち英王ひでおうに対して舌打ちする御影みかげ教頭。


政府としては、特質や神憑かみつきの存在は隠しておきたいんだっけ? 今は国民の不安を煽るだけになるからだとか何とか…。


そういう意味で広めるなと言ったのか、吉波よしなみ高校の教頭として責任を取らされるのが面倒なのかはわからない。


「まぁ、偽名なだけマシですよね…」


僕はイラだつ彼女の声に、小声でそう返した。


御影みかげ『いいえ、本名よ』


マジかよ。石油王のクセにネットリテラシーの欠片もないのかよ。


「え、この札束みたいな名前がですか?」


僕は食い気味に、そう問いかけてしまった。


石油王と掛けてるんじゃなかったのか?


御影みかげ「嘘のようで本当の名前よ」


淡々とした口調で返す御影みかげ教頭も、最初はびっくりしたのかもしれない。


野渕のぶち『全然いませんね。アジトも見当たりません』


動画の中の野渕のぶちはしばらく歩いていたけど、テロ組織とはまだ遭遇していない。


もしかしたら、相手にすらされていないのかも。いや、マシンガン持ってるしさすがに無視はされないか。


野渕のぶち『もうカメラの充電ないし、歩いていても仕方ないんでこうします』


彼はそう言った直後、マシンガンの銃口を空に向けて…、




ドドドドドドドドドドドドドドッ!




反動がヤバかったのか身体を360度回転させながら、銃を撃ちまくった。


野渕のぶち『う、うわああぁぁ!』


そして、バランスを崩して坂になっていた砂の上を転がる野渕のぶち


野渕のぶち『おい、振動おかしいだろ! どこでオフるんだよ! エイムも合わねぇし!』


彼は怒鳴り散らしてマシンガンを叩きつけた。


いや、あの…、本物とゲームは違うから。銃とかFPSに詳しくない僕でもさすがにわかるよ…。


後、タイトルに“真のVRだ”みたいなこと書いてたけどそれも違うから。


君がやっているのは、Vヴァーチャル・RリアリティじゃなくただのRリアリティだ。細かいこと言って申し訳ないけど…。


野渕のぶち『え、ちょっと…。ヤベっ…』


突然、乱れ始める映像。カメラを持ってなり振り構わず全力で走っているんだろう。



ドンッ!



そして、割と大きめに聞こえた銃声。


動画はそこで終わっていた。



…………。



「これ、死んだんじゃないですか」


少しの沈黙の後、僕は自分でもわかるくらい冷めた声でそう言った。


御影みかげ『一応生きているわ。身代金の請求が来ているけど、払いたくないから無理やり取り返す。だから、頼んだわよ。失敗は許されないし、もう月も壊したらダメ。地球破壊はもってのほかね』


彼女の強い口調がイヤホンから聞こえてくる。


二つ返事なんてするんじゃなかった。


かなりの速度で飛んでいたこの戦闘機は、徐々にスピードを落としてホバリングする。


御影みかげ『着いたわ。ちょうどこの下に敵のアジトがある。下手に着陸して壊されると勿体ないから、ここから飛び降りてちょうだい』


御影みかげ教頭はどこまでも辛辣な人だ。


僕のことを投下する爆弾か何かだと思っているに違いない。


彼女の発言から数秒後、僕が座っているコックピットのガラスが開かれた。


顔を撫でる強風がちょっと鬱陶しい。


まぁ、僕の場合、ここから飛び降りても多分、死ぬことはないだろうな。


僕は強風に晒される中、無言で立ち上がり、雲を見下ろした。




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