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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•設立編
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依頼:弁当配達 - 朧月 悠①

自警部じけいぶが設立され、勝手に入部させられてから8日目。


ついに、僕に依頼を受けるよう水瀬みなせって人から連絡が来た。


この1週間、音沙汰なかったからもう廃部になったのかと思っていたけど、そうではなかったみたいだ。


いくつか依頼が来ている様子だったけど、他のことはよく知らない。



“__待ってくれよ、ゆう。本当に引き受けるのか? こんなもののために私は力を…”。



腕時計の姿をした誰にも見えない時神ときがみの声が僕の脳裏を伝う。


相変わらず、彼は臆病だ。


いざという時は存分に力を使っていいと言っていたけど、些細なことにはあまり使いたくないらしい。


上の神に気づかれたくないからだ。



“__大丈夫。そんな派手な能力じゃないから”。


“__あぁ、見てくれはな。人間は気づきにくいだろうが、神から見れば一目瞭然なんだよ。こちらでいう光や音の…”。


ピコンッ



スマホの通知音が、彼の返答を遮るかのように鳴る。


自分の教室の真ん中で待機していた僕は、ポケットからスマホを取り出して画面を確認した。



“本検証における依頼を受信しました。直ちに時間をとばしてください”。



事前に依頼の内容や手順は聞いている。


僕は動じることなく、心の声で時神ときがみに語りかけた。






()()()()”……と。






音のない静寂な世界が僕を迎える。


ゆっくりと流れるこの世界に足を踏み入れたのはいつぶりだろうか。



“__仕方ない。私も力を貸すと言ったからな。ゆうの友達作りのためと思って協力するよ”。



乗り気じゃなさそうな時神ときがみだったけど、渋々力を使ってくれたようだ。


自分の時間をとばした僕には、かなりの余裕がある。


初依頼かつ初めての仕事だけど、落ち着いてゆっくりこなせば失敗はしないはず。


今回、僕が請け負った依頼は……、






“能力を使っての高速弁当配達”だ。






僕はスマホに表示された通知をタップし、黒いアイコンのアプリを開く。


文月ふづきって人が片手間に創ったと言っていたこのアプリ。まだ名前は決まってないらしい。


“恐怖の弁当便”と“恐ろしく速い時空を超えた出前 (通称:時空出前) ”の2択で迷っているって言っていたっけ?



“当アプリは配達者用になっております。手を上に向けて前に出してください”。



手順を前もって知らされている僕は、アプリの指示に従って左手を前に出す。


すると、小さな粒状のものが辺りから手の平へ集まり、瞬く間に白いお皿に乗ったカレーライスを形成した。もちろん、スプーンも着いている。


“BrainCreateブレインクリエイト”というアプリの機能を落とし込むことで、注文を受けた料理を瞬時に生成できるようにしてあると彼は言っていた。



“注文を送信した端末の場所を特定しましたので、位置情報を送ります。現実時間5秒以内に配達を完了させてください”。



左手がカレーライスで塞がっている僕は、片手でスマホを操作してアプリ内に表示されている位置情報を確認した。


ここは……、学校だ。体育館辺りを指している。


正直、近くで良かったと思う自分がいる。


時間をとばしていると言っても、速く動ける訳じゃない。周りから見たらそう見えるだけで、僕からすれば普段歩いたり走ったりしているのと感覚は変わらないんだ。


もし、隣町からの注文だった場合、僕は自転車を漕いで向かうことになる。


運動をあまりしない僕にとっては、かなり辛いものになるだろう。


“__時神(ときがみ)、1つ目の配達はすぐに終わりそうだよ”。


僕は彼にそう伝え、カレーライスを持って体育館へ向かった。



__________________




日裏ひうら「おい…、2人とも。ゆっくりこっちに来い。絶対に振り返るなよ」


僕の目の前で背中を向けて立っている2人に、痩せた彼は緊迫した様子でそう言った。


カレーライスを注文したのは、この人たちで間違いないのだろうか?


体育館の中には誰もおらず、周辺には彼らしかいなかった。


痩せた彼が振り返るなと言ってから、誰も動きだす様子はない。


そうだ、これは普通に聞けばわかること。


注文していれば受け取ってくれるし、していなければ違うと言う。



「出前……………一丁」



僕はカレーライスを少し前に突きだしてそう言った。


思ったより出なかった声に対し、2人は振り返り……、



ザッ!


西かわち「お前…、いつの間に!」



1人は顔を引き攣らせながらも身構えた。


そして、もう1人の体格が良い方は……、



吉持よしもち「で、出たあああぁぁぁぁぁぁ!!」



僕を見るや否や、泣きそうな顔をして痩せた彼の方へ走っていった。


違った? 注文したのは、この人たちじゃない?


日裏ひうら「ケン、落ちつ……グハッ!」


ケンと呼ばれた彼は、痩せた彼をラリアットで吹き飛ばし、自転車置き場の方へ全速力で走っていった。



“__いきなり後ろに立つのは良くなかったかもな。いつもの如く、彼らは君を恐がっている”。



時神ときがみの言葉で、ようやく彼らの行動を理解した。


みんな恐がっているのか。特に体格の良いケンはそれが顕著に現れている。



西かわち「立て、玲愛れお! バイクで逃げるぞ」



痩せた彼、玲愛れおはフラつきながらも立ち上がり、恰幅の良い彼と共に自転車置き場に向かって走り出した。


西かわち「あいつ、オーラがヤベぇ。格闘技か何かやってんのか? ボコるにしてももっと人数がいる…!」


どれだけ僕のことが恐いのか…。誰も僕が持つカレーライスには目もくれない。


自転車置き場まで行った彼らを見て、僕はスマホを確認した。


位置情報が動いている辺り、注文したのは彼らで間違いないはず。



ブーンブンブンブンブン!!



暴走族がふかしてそうなバイクの爆音が聞こえてきて、僕は頭を上げる。


グラウンドから見える狭い一本道を爆音と共に原付バイクで走り抜ける3人の姿が。


ケンと呼ばれる彼は小さなバイクに乗って気が大きくなったのか、こちらに中指を立てていた。


高校生だし、お金なかったのかな?


てか、あれって音を出せないようにはできないのだろうか? 仮に僕から逃げているとして、音を鳴らすのは悪手だと思うけど。


アクセル全開みたいだけど、精々時速50キロくらいかな。こちらも()()()()追いつけないこともない。


どうしようか。時神ときがみはあまり力を使いたくないようだけど…。


僕は、左手の上でぬるくなったカレーライスを見つめた。


小食な僕にとって、この量を食べきるのは難しい。かと言って捨てるのも良くないと思う。



キキィーー!! ガシャーンッ!!



…………!


甲高い悲鳴のような音の後に、重々しい衝突音が木霊する。


顔を上げた僕の視界には、宙を舞う彼らと3つのひしゃげたバイク。そして、狭い一本道にはそぐわないダンプカーが止まっていた。



“__とりあえず、()()()()!”。



僕はカレーライスを捨て、反射的に彼らの元へ走り出してから時神ときがみにそう伝えた。



__________________




ザッ…


ゆっくりと宙を舞う彼らと原付バイク。


そして、ダンプカーの運転席で今にも泣き出しそうな顔をしている……村川むらかわ先生。


通りでどこかで見たことあるダンプカーだと思った。校舎裏の先生用の駐車場に毎日駐まっているあのダンプカーだ。


村川むらかわ先生の車だったのか。


僕は宙を舞う3人とダンプカーの間で思案する。



“__これは助けられないな。重傷は確実。全員死んでもおかしくない”。



時神ときがみの言葉が脳内に響いた。


確かに彼の言うとおりだけど、そうなるとまずいことになる。


自警部じけいぶは些細な問題1つでも起こすと、廃部になってしまうんだ。


人が死ぬのは些細どころの話じゃない。



“__時神(ときがみ)、このまま彼らを病院に連れていっても良い?”。



彼は僕の心の声に、少し間を置いてからこう答える。



“__あ、あぁ、ゆうのしたいようにして良いぞ”。



戸惑った様子の彼だったけど、渋ることなく了承してくれた。


力を頻繁に使うと、上にバレるリスクが上がると言っていたのに。


でも、車にぶつかった直後の状態で病院へ送り、すぐに手術ができれば彼らは助かるかもしれない。



“__ありがとう。ごめんね”。



僕は礼を言ってから、地面に向かっている彼らを背負い、吉波よしなみ総合病院へ向かった。



__________________




多分…、ここに置いておけば大丈夫だろう。


受付の前で浮遊する3人の身体。


まだ彼らは車に弾かれ、落下の途中ということになっている。


僕が自分の時間を()()()、彼らは受付の前に叩きつけられるだろう。



“__行こう、時神ときがみ。僕が病院から出たら、()()()。医者が僕を恐がれば、手術どころじゃなくなるから”。



僕は受付に背を向けて病院を出た。


病院からある程度離れたところで、僕の世界は音と速さ(スピード)を取り戻す。


同時に遠くから聞こえてくる救急車のサイレン。



“__(ゆう)、変わったな”。



変わった? 何のことか僕にはわからないけど…。


僕にそう発した腕時計の彼は、どこか切ないけど嬉しそうでもある。



“__そうかな。普通だよ”。



僕はそんな彼に返事をし、夕日が指す方向にある施設に向かって歩き出した。






【 依頼:弁当配達 ー 中止 ー 】




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