都市伝説 - ブラックアイコン
※本エピソードは三人称視点になります。
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現在、授業が終わってから1時間ほどが経過。
吉波高校の体育館裏で、制服を着崩した3人の生徒がタバコを吸っていた。
彼らは吉波高校の生徒であり、周りからは不良と言われている。
あまり食べれてないのか元々小食なのかはわからないが、明るめの茶髪に痩せた頬が特徴的な日裏 玲愛。
吉波高校一の問題児と名高く、南国の血を引いていて体格に恵まれている吉持 肩八狼。
そして、この学校の全不良を仕切っている番長だと噂されている西 比帝斗の3人だ。
気怠そうな表情に鋭い目つき。日裏とは対照的に恰幅が良く、筋肉と脂肪両方を持ち合わせている図体から繰り出される一撃は相当なものになるだろう。
素人同士の喧嘩は、体重差で全てが決まる。不良をまとめる番長の座に、彼がいても何ら不思議ではないわけだ。
西「で、一昨日勝手にインストールされたこのアプリがヤバいってのか?」
西は咥えていたタバコを吐き捨て、足で火を消しながらそう言う。
彼はポケットからスマホを取り出し、いつの間にかインストールされていたアプリのアイコンを2人に見せた。
日裏「噂ではな。でも押しても起動されねぇし、誰かがホラ吹いたってだけじゃねぇのか。言うてただのバグだろ」
ヤンキー座りをした状態でタバコを吸う日裏が答える。
吉持「おい、舐めてんのか? 俺のスマホには入ってねぇんだけど? 携帯会社ぶっ殺すぞ!!」
眉間にしわを寄せ、怒号を上げる吉持。
自身のスマホを振りあげ叩きつけようとしたが…。
さすがにそれはまずいと思ったのか、心の内から湧き上がる破壊衝動をぐっと抑えたようだ。
日裏「俺にも入ってねぇ。てか、入ってる奴の方が少ねぇよな。そいつらの中の誰かがテキトーな噂を流したんだろ」
彼が言うように、その謎のアプリが突然現れたのはほんの数人しかいない。
突如、吉波高校の十数名のスマホにインストールされた謎のアプリ。
西が日裏たちに見せていたスマホの画面には、タイトルも何もない真っ黒なアイコンが表示されていた。
西「つか、押しても何も起こらねぇしよ。マジでうぜぇ、消すのもできねぇって…。邪魔でしかないんだが」
西はぶつぶつと文句を言いながら、何の気なしに黒いアイコンをタップする。
西「…………!」
日裏「ん? どうかしたのか?」
驚いた顔をした西を見て、日裏は立ち上がった。
喧嘩最強クラスの彼だが、驚くのも無理はない。
“貴方は本検証の数少ない対象者に選ばれました”。
今まで何をしても反応のなかったブラックアイコンが起動し、真っ黒な画面に白い文字で小さくそう書かれていたからだ。
だが、西は肝の据わった不良。驚いたのも束の間、彼はニヤリと笑い2人にスマホの画面を見せつけた。
西「お前ら、肝試しやってみっか? これがマジでヤバいアプリか…、試してやろうぜ」
日裏「起動したのか。何のアプリか知らねぇが、クソみたいな噂をここで否定してやるよ」
吉持「お、おう。全然恐くねぇ…。俺の消える魔球で幽霊ぶっ殺してやる…」
全く動揺した様子を見せない冷静な日裏と、いつもの威勢を感じられない吉持。
彼らは西の持つスマホの画面を覗き込んだ。
西が画面をタップすることで、次のメッセージが表示される。
“次に表示される3枚の写真の中から好きなものをお選びください”。
このメッセージを読み、無言でタップする西。
彼ら3人からは、僅かな緊張を感じられる。
メッセージ通り、3つの写真が表示されたが…。
日裏「…………飯? 好きな食い物選べってことか?」
若干の緊張感が漂っていた彼らだったが、写真を見て拍子抜けしたようだ。
画面には左から、ラーメン、カツ丼、カレーライスの写真が並んでいる。
西「ケン、好きなの選んでいいぞ」
ケンとは、彼らが呼んでいる吉持のニックネームだ。
西は自身の左側にいる吉持に対し、スマホを傾けた。
吉持「お、おう…」
掠れた声を発しながら、小刻みに震える人差し指をカレーライスの写真に持っていく吉持。
吉持「な、何ガン飛ばしてんだよ、うんこ野郎…! ケツに指突っ込むぞ…!」
彼はあまりの恐怖から、意味のわからない脅迫をしながらカレーライスの写真をタップした。
3つの写真は消え、再び白い文字で書かれたメッセージが現れる。
“ご協力ありがとうございます。5秒以内に到着いたしますので、少々お待ちくださいませ”。
日裏「5秒以内…? 何かが来る?」
彼は……いや、彼らは恐らく何かを感じ取っていた。
吉持「さ、寒い」
春には似合わない冷ややかな空気を…。
日裏は2人から距離を取り、辺りを警戒する。
彼にとって、この嫌な気配は、西を良く思っていない不良の襲撃を予感させたからだ。
対して吉持は、全身をガクガクと震わせながら、筋肉質かつ大きな身体を必死に西の背中に隠そうとしている。
日裏「3………2………1………。5秒経ったぞ」
鋭い目つきで警戒を続ける日裏。
しかし、不良の襲撃は疎か、何かがやって来る気配もない。
そもそも、人目につかない体育館裏とはいえ、死角になる箇所はほとんどなかった。
襲撃は日裏の杞憂に終わったんだ。
西「おい、ケンしがみつくなよ。噂はただの噂でしかなかったな。元々幽霊とか信じるタチじゃねぇしな」
スマホをポケットにしまいながら、腕にしがみついた吉持を振り払う西。
そんな2人を見る日裏の目は、絶望に近い色をしていた。
額から溢れ出る汗には構わず、彼は2人に忠告する。
日裏「おい…、2人とも。ゆっくりこっちに来い。絶対に振り返るなよ」
彼らの後ろに、それはいた。




