修学旅行1日目 - 皇 尚人②
“__1日目はふつうでした。2日目、あの場所に言ってから僕らの修学りょこうはたのしくてハチャメチャなものになりました。”
最初の文を読んだ俺は、思わず眉をひそめた。
俺のゴーストライターは小学生かぁ?
読み辛ぇな、平仮名多すぎだろ。
その上、小学生の頃に宿題で無理やり書かされていた日記レベルに文章が拙い。
まぁ、読むのダルくなったら止めるだけだ。
器の広い俺は、渋々続きを読んでやることにした。
拙い上に情報量も少ねぇこの文章…。情景を想像するのはマジで大変そうだぜ。
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【修学旅行1日目】
“__1日目は待ちに待った修学りょこうの日です。はじめてしんかんせんに乗りました。速かったです。”
はぁ、マジかよ。
吉波高校からバスに乗り、俺たちは新幹線のある県外へ向かった。
そして、生まれて初めて乗る新幹線を少し楽しみにしていたのも束の間…。
乗車券に書いている座席通りに座らなければならないんだが……、
「修学旅行、最高~! 盛り上がっていこうぜぃ! フォーー!」
面倒臭ぇ奴らと一緒になっちまったぜ。
新幹線に乗ってからやたらテンションの高いこいつの名前は、岡崎 泰都。
身長200センチの巨体を活かし、ラグビーで活躍しているらしいな。
クソッ、ここまでデケぇと身体が勝手に萎縮しやがる。
ちなみに修学旅行に行ったのは1年の頃だ。この時は、特質や神憑なんてものは知らなかったし、“BREAKERZ”として戦った経験もねぇ。
今となったら、ただデカいだけの奴にビビるなんてことはないのかもしれないが…。
それにこいつをどうにかしたところで、騒音は止まねぇんだよ。
何故なら……、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!」
身長180センチを超える坊主頭が俺の前の席で絶え間なく叫んでいるからだ。
こいつは確か、國吉 旺我。
確かに俺も修学旅行を楽しみにしていた1人だが、こいつ……もう少し喜びを自粛できねぇのかぁ?
こいつらが近くの席にいるせいで、俺の楽しみは消え失せてしまったわけだ。
それに、乗ってみてわかったが、新幹線はただの速い電車でしかねぇ。
いくら新幹線が速いとはいっても、そこそこの距離を移動するみたいだからな。予定表を見た感じ、目的地到着には1時間半くらいかかるそうだ。
おいおい……、このクソみてぇな空間でそんな長時間耐えろってかぁ?
せいぜい俺の身長は175センチあるかないかくらい。こいつら2人には体格差で不利になる。
クソッ、耐える以外の選択肢がねぇ…!
岡崎「フォーー! フォーー! フォーー! はい、みんなも一緒に~?」
國吉「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!」
いや、無理だろ! 耐えたらこっちまで狂っちまうぜ!
クソッ、こいつらマジで狂ってやがる。他の乗客と俺への迷惑を考えろよ。
周りを見渡すが、近くに座っている大人たちが注意しようとする気配はない。
いくら大人でも、こいつらの体格にビビってしまってるってことかぁ?
俺がこの先1時間半のことを考えて憂鬱になっていたとき、ある人物が後ろから小走りでやって来た。
そういや、こいつのことを初めて知ったのはこの時だったな。
「ヤバい……ヤバい……! トイレ、どこじゃ!」
若干焦った顔で通路を走り、こちらにやって来る的場 凌。
こいつは、俺の座っていた席を横切り、國吉の絶叫をものともせず前へ進んだ。
岡崎「アガッて来たぞぉ! やりらふぃー!」
ちょうどそのタイミングで、テンションが最高潮に達した岡崎がリーチの長い腕をぶんぶんと振り回しながら踊り始めたんだ。
そして……、
バコオォッ!!
的場「ノオオオオォォォォン!」
顔面に奴の手がめり込んだ的場の身体は、大きく回転しながら豪快に宙を舞う。
そして、通路に身体を打ちつけたこいつは、股間を押さえた状態で失神した。
岡崎「あぁ! また殺ってしまった…!」
國吉「あ゛あ゛………! え、おい……大丈夫か?」
前科ありげな発言をしながら頭を抱える岡崎と、絶叫をピタリと中断させ心配そうな顔をする國吉。
修学旅行テンションでラリっていた2人は理性を取り戻し、白目を剥いて倒れている的場の元へ駆け寄った。
岡崎「まずい、手足が直角に折れている。また先生に怒られる…」
國吉「大丈夫、少し落ち着け。これは関節といって、元々曲がるようにできている部分だから」
パニック状態で目を泳がせる岡崎の肩に、國吉の手が優しく置かれる。
國吉「わかる、お前の気持ちわかるよ。修学旅行楽しみだったんだよな。その楽しみが実現してお前は気持ちを抑えられなくなったんだ。だけど、俺たちはもうすぐ大人になる。喜ぶのは良いけど、周りに迷惑をかけちゃいけないんだ! あの掛け声、相当うるさかったよ。次からは気をつけて。先生を呼んでくる」
至極真っ当な意見だと思うが、1番うるさかったお前が言うなバカヤロー。どさくさに紛れて責任なすりつけやがったな。
岡崎「うん、反省する。もう“やりらふぃー”って言わない」
やらかした岡崎を優しく叱った國吉は、先生のいる車両へと歩いていった。
的場自身は災難だったろうが、こいつがぶっ飛んでくれたお陰で、俺の鼓膜と車内の平和は守られたってわけだ。
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あぁ、あの出来事を思い返していたせいで全然読めてねぇ…。
たまたま手が当たっただけであの威力。あの時、抗議しようかと迷っていたが、何も言わないでマジで良かったぜ。
ガチのパンチを貰ってたら病院送りは確実だっただろう。
まぁ、読まずに思い返していたとは言ったものの、日誌にも1日目のことは新幹線が速かったこと以外、何も書かれてないんだがな。
俺の記憶が正しければ、確か初日は自由時間が多かった。名所の観光ついでにお土産買ったり各自で飯食ったりしてた感じだ。
印象的な事がなく、あまり覚えてねぇっていうのが正直な感想になるぜ。
んで、2日目は確か……、
俺は修学旅行2日目に行ったところを思い出しながら、次の行を読み始めた。
“__2日目に行ったところでいちばんびっくりしたのは、ゴリラ回し劇場でした。”




