日誌 - 皇 尚人①
「あぁ!! クソッたれえぇ!」
椅子に座ってゲームのコントローラーを握り締めていた俺は、怒りに任せて絶叫しちまった。
水瀬「だから、逃げてばかりじゃ勝てないって」
隣の椅子に座り、同じコントローラーを握る水瀬は、穏やかに笑いながらそう言う。
あの機械共との戦いを終えてから数日後…。
今、俺は水瀬の家でこいつの格ゲーに付き合わされているんだ。
「けっ、やったことねぇ初心者殴って楽しいのかぁ?」
俺は余裕そうに笑う水瀬を睨みつけた。
水瀬「いや、結構やり込んでるってみんなから聞いてるよ」
俺の発言に、苦笑しながらそう答える水瀬。
クソッ、バレてたか。
あぁ、確かにこのゲームは大人気で結構やってるぜ。
的場と朧月が入院していた時に、ちょこちょこ病室に行ってやってはいたが…。
的場の野郎、強すぎて勝てねぇから面白くねぇんだよ。
そして、あいつを鍛え上げたと言われている剣崎には1ダメージすら与えられねぇ…。
水瀬ならボコれると思って家に乗り込んできたんだが、こいつもまぁまぁやり込んでやがる。
クソが……俺の使ってるキャラが弱ぇのかぁ?
棘の着いた厳つい甲羅を背負って凄まじい火を吹く緑の怪獣が、なんで配管工のおっさんに負けるんだよ。
水瀬「ちょっとごめん。お腹痛いからトイレ行ってくる」
ハハッ、さっきの笑顔は何処へやら♪
こいつはお腹を押さえて苦しそうにしながら立ち上がった。
調子に乗って、俺をボコりまくったからバチが当たったんだぜぇ♪
「おぉ、そうかそうか♪ 便器に顔面突っ込んで懺悔でもしやがれ」
腹を押さえながら、部屋のドアの前へ行った水瀬は俺の方へ振り返る。
水瀬「水の理で便器の水操ってぶっかけるよ? まぁ、今できるかわかんないんだけど…。あ、いててて……」
こいつ、特質みてぇなのが芽生えて調子に乗ってるぜ。
だが、かなり限界が来ていたのか、皮肉を言い返したらすぐにドアを閉めて小走りでトイレに向かっていった。
水瀬の部屋に1人取り残された俺は、ただただ格ゲーの画面を眺めている。
ムカつく上に、暇になった俺がじっとするわけねぇよなぁ?
俺も椅子から立ち上がり、水瀬の部屋を歩き回った。
勉強机の引き出しや本棚、ベッドの下など、奴の部屋を隈無く詮索する。
何か黒歴史とか、弱みを握れるものはねぇかぁ?
俺を格ゲーでボコったお返しに、お前を社会的にボコってやるぜぇ♪
いや、さすがに可哀想か。仕方ねぇ、弱みを握ってパシリにする程度にしてやるよ。
水瀬、俺はお前と違って優しいから手加減してやるぜ。
そう思って、弱みになりそうなものを部屋中探し回ったが、そんなものは見つからなかった。
タンスや本棚の裏、カーテンの後ろ。そういう場所にさえ何も隠されてはいない。
ゴミ箱もひっくり返したが、空になったコーラのペットボトルしか入ってねぇ。
しかもこれは全部、俺が飲んで捨てたコーラだ。
「はぁ、面白くねぇな」
俺は溜め息を吐きながら、椅子にどんと座り込んだ。
あいつが戻ってくる気配もねぇ。めちゃくちゃ気張ってるじゃねぇか。
…………。
あまりにも暇だった俺は身体を反転させ、後ろにある本棚に目をやった。
さっき隈無く見たからわかるが、上から下までほとんどマンガで埋まっている。
面白そうなのはないかと思って見たが、だいたい読んだことある奴ばかりだな。
1巻から最新巻まで丁寧に並べられているマンガを目で追っていると……、
「修学旅行日誌ぃ?」
一番下の段の右端にある少し分厚い白無地の本を見つけた。
こんなもの、さっきあったか?
まぁ、あれだな。卒業文集的な奴の修学旅行バーションって感じか。
中学のものか高校のものかはわからねぇが、少なくとも俺は書いてない。クラスによっては課題になってたのかもしれないが。
俺は椅子から立ち上がり、修学旅行日誌と書かれた本を手に取った。そして、大雑把にパラパラとページをめくっていく。
“学びの多かった修学旅行 - 水瀬友紀”
“平均的な修学旅行 - 文月慶”
“遅刻してみんなに迷惑かけたこと - 新庄篤史”
“現代の修行旅行は生温い - 剣崎怜”
“ノオオオオォォォォンと絶叫、スペースコースター - 的場凌”
知ってる名前もちらほらいるな。
全員、当たり障りのない文しか書いてねぇ。
高校の修学旅行の日誌か。俺らが行った場所と一致している。
この課題が出された日、俺は何かで休んでいたのか? 全く覚えがねぇ。
俺はページをめくりながら、椅子に座った。
面白いことが書かれているわけでもねぇから、適当に読み飛ばしていたんだが…。
“恐怖の修学旅行日誌 - 皇 尚人”
このタイトルと名前に、俺は首を傾げた。
この作文があったのは最後の方のページだ。
記憶が飛んでない限り、俺はこんなもの書いてない。誰かが俺に成りすまして書いたのかぁ?
だとしたら、流石は俺のゴーストライター。読み手の興味を引きつける中々面白そうなタイトルじゃねぇか♪
仕方ねぇな。勝手に書いたのは気にくわねぇが、読んでやるぜ。
俺は時間潰しのつもりで、タイトルと自分の名前が書かれた作文を読み始めた。
【恐怖の修学旅行日誌 - 皇 尚人】
“__1日目はふつうでした。”




