凶敵 - 文月 慶⑯
壮蓮さんらによって、動きが止まったDestroyを破壊しようと迫っていく鬼塚。
これで終わるはずなのに、ずっと胸騒ぎがおさまらない。
都合や調子の良いときにいつもニヤけている皇も、今は腕を組んで真剣な表情で彼らを見守っている。
自信がないというわけではなさそうだが、自分の直感を信じ切ってはいない様子だ。
一度、冷静に考えよう。
確かに“BREAKERZ”、彼らの有する特質や憑いた神の力は強力だ。
ここ半年間で、剣崎のように磨き上げた者も何人かいるだろう。
実際、Destroy以外のEvilRoidは、鬼塚の力を無くしても撃破に成功している。
この結果には各々自信を持って良いとは思うのだが__
鬼塚がある程度、迫ったところでDestroyはこう言った。
__最強の特質と止められるかということに関しては全く別の話な気がする。
D『この程度の力で本当に止められるとでも?』
この発言を聞いて絶望したのは、僕だけじゃないだろう。
皇じゃないが、僕の嫌な予感が的中してしまった。
今の発言に鬼塚は怯んだのか足を止め、Destroyは続けてこう言う。
D『右腕に関しては違和感がありますが、それ以外は……、人間の動きを止めようと必死に表皮を這う常在菌程度の脅威でしかないでしょう』
こいつは敢えて動かなかったんだ。
理由は簡単だ。抹殺対象者が逃げることなく、自ら自分の元へ集まってきていたから。
わざわざ動く必要がないと判断した奴は、こちら側の作戦が上手く行っているように見せかけた。
後は纏わり付いた彼らを一掃すれば、奴の任務とやらは完了する…!
「全員、早く離れろ! そいつは……余裕で………動ける…!」
僕は彼らに撤退を命じた。これだけやって、敵がものともしてないのは屈辱だろうが関係ない。
本当のことを伝えて、あいつらを一刻も早く離れさせないと………殺される。
小型カメラのマイクに不具合がなければ、僕の声は彼らに届いたはずだが。
彼らや両脚に巻きついた赤いブロッコリーに離れようとする様子はない。
D『無駄です、文月慶。現在、私に触れている者には微弱な電気を流して離れないようにしています。このまま私は身を捻り、グラウンド諸とも消し飛ばします』
そう言って、腰をどっしりと落とし、地面を踏み込んだDestroyは上半身をゆっくりと捩っていく。
腕にしがみついていた壮蓮さんと男虎先生の足は地面を引きずった。
壮蓮『別に逃げる気はない。力尽くで止めるという作戦を…』
男虎『儂らは全うする!』
子どもからすれば実に頼もしい先生と保護者だと思うが、言葉通りになるほど奴は弱くない。
身を捻り切った後、奴は両腕を少し上に持ち上げた。発言に反して、2人の身体はいとも簡単に浮かされる。
新庄『クソッ、止まれよ! なんで俺……力入んねぇんだよ!』
唖毅羅『止ま゛れ゛え゛ぇぇ!!』
奴の肩に金属バットを押し当てて嘆く新庄と、背後からのし掛かり首を更に強く締め上げるゴリラの獅子王。
樹神『返せよ、お小遣い返せよおぉぉ!』
そして、恐らくブロッコリーを介して、お門違いな発言をグラウンド中に響かせる樹神。
D『私にしがみついていない抹殺対象者も逃げはしないでしょう』
ガキンッ! バキッ! ボキッ!
は? 何、無謀なことをやっている?
剣崎、朧月、的場……!
恐らく朧月の力で、Destroyの目の前に移動した彼らは意味のない攻撃を仕掛けた。
半分に折れた刀で繰り出した剣崎の尾蛇剣舞は、Destroyに命中するも、刀の方が粉々に砕ける結果に。
朧月の持っていたナイフも同じく、頑丈すぎる装甲の前に粉砕された。
そして……、的場によって振り下ろされた弾切れになった機関銃も当たり前だがぶっ壊れた。
的場『ノ、ノオオオオォォォォン!』
あまりにも硬かったのか、的場は手首を押さえて絶叫する。
朧月『くっ………!』
剣崎『あれだけやったのに、まだ鍛錬不足であるのか…!』
力の差に、僕らは改めて絶望しただろう。
だが、グラウンドにいる彼らに自分の命を優先して逃げるという選択肢はないらしい。
だったら……!
「鬼塚、迷わず奴をやれ! 力加減がどうとか言っていたら全員死ぬぞ!」
イヤホンを介した僕の声は、小型カメラを通じて鬼塚に届いたはずだが…。
現在、絶賛直立不動中の彼に動き出す気配はない。
クソ……クソ……! 何が足りない?
やるべきことはやっただろう?
皇の、鬼塚が安心して特質を発揮できる作戦の考案も癪だが悪くはなかった。
不知火を除いた全戦力の中で今、やる気のない奴はいない。グラウンドにいる奴ら全員、本領を発揮している。
これでも……これだけやっても埋まらないというのか…? 圧倒的力の前には何をしても意味を成さないと…。
皇『ハッ……そう焦んなよ文月』
真っ黒になった軽自動車にもたれかかり、いつの間にかコーラを手にしている皇がそう呟いた。
この距離からの目視ではよく見えないが、あいつは恐らく悟った顔をしている。僕も初めて見る表情だ。
皇はゆっくりとコーラが入ったペットボトルの蓋を開け、軽く1口飲んでからこう語る。
皇『人生ってのは、何事も焦ると上手くいかねぇんだよ』
切なくそう呟いた皇の目線はDestroyにはなく、雲1つなく晴れ渡った空を儚い表情で見上げていた。
同い年のクセに、貫禄のある人生論を語りやがって…。
奴の発言や行動の意図はいつも読み取れないが、今回は手に取るようにわかる。
ようは……、諦めたということだ。
この戦いを……生きることを。
皇はグラウンドから目を逸らし、校舎に背を向けて空を見上げる。そして、2リットルのコーラを片手に最期の晩酌を始めた。
壮蓮『力不足ですまない。琉蓮、みんなをこいつから引き剥がして逃がすのだ。お父さんには構わなくていい』
男虎『儂のことにも構わなくていい! 今度こそ……今度こそ……、儂は生徒たちを守り抜くのだ!』
直立不動の鬼塚に訴えかける壮蓮さんと、持ち上げられた身体で必死に足をバタつかせて抵抗しようとする男虎先生。
身体を捻ったままのDestroyは、2人の発言を聞き、周りを見渡してから口を開いた。
D『残念ながら、今回も貴方は生徒を誰1人として守れないでしょう。“死なせない”という意味で言っているのであれば…』
そして…、
ドオオォォォン…!
更に深く腰を落とした奴を中心に、グラウンド全体に大きく亀裂が入る。
D『奥義を決行します』
グラウンドや校舎だけではなく、辺り一帯が大きく揺れ出した。
恐らく捻った身体を反対方向に回転させ、この学校ごと吹き飛ばす気だろう。
いや、小林と辻本がここにいるから、校舎を壊す気はないかもしれないが。
足元がぐらついた僕は、保健室の窓枠に手を着いた。
「鬼塚、頼む…! もうお前しかいないんだ。最悪、君の手加減で誰かが死んでも君を責める気はない。何もせずに全員死ぬより遥かにマシだ。だから、頼む鬼塚! あの時のように戦ってくれ…!」
こんなに揺れているのに彼は、バランスを崩すことなく棒立ちしている。
僕の声がそもそも届いているかも怪しい。仲間が死ぬということを予期して、人の話を聞くどころじゃないのかもしれない。
D『奥義決行__最凶輪廻』
これが恐らく最期に聞く、特質の技の名前になるだろう。
まぁ、悪くはない。厨二臭すぎず、ダサすぎずバランスの良い名前だと思う。
奴の技が強大すぎるゆえに痛みを感じることなく、一瞬で逝けるのは不幸中の幸いだ。
ゴゴゴ……………。
それにしても、随分と溜めのある技だ。壮大な威力を引き出す代わりに時間を要するのか?
だとすれば、彼らを引きつけたのにも納得がいく。これだけ猶予があれば、朧月の力で安全な場所まで運べるからな。
ゴゴ………。
揺れが収まりつつあるが、奴は身体を限界まで捩ったまま動き出す気配がない。
なんだ…? 溜めているのではなく、機能が停止しているようにも見えるが。
僕は目を細めてDestroyを凝視していると…。
皇『ハハッ……焦ると上手くいかないことも、落ち着いて対処すりゃ何とかなるんだよ。人生ってのは、そんなもんだぜ』
向こうの空を見上げる皇がそう言った。
あいつは未だに悟ったような諦めたような口調だが、Destroyが静止している辺り、何かが起こっているのか?
『飛行していると思われる2つの生体反応を10キロメートル圏内で確認。こちらに接近中です。生身で飛行している辺り、何らかの能力を持っているでしょう』
皇が空に向かって渋い名言らしきことを言った直後に流れる“FUMIZUKI”の音声。
その飛行している奴と、Destroyが硬直したことに何か関係があるのか?
敵か味方か……、それとも全く関係のない第3勢力かもしれない。
『飛行速度が一気に上昇。接近まで残り5秒程度です』
“FUMIZUKI”の計測はあまりあてにならないが、こいつがそう言ったと同時に皇が両手を広げ、遠くから飛んでくる2つの人影を歓迎した。
皇『待ってたぜぇ♪ 救いを手をなぁ♪ やっぱり今日の俺は、すこぶる運が良いみたいだぜ!』
飛行していた2人の人物はグラウンドの敷地内に差しかかったところで止まる。
羽衣のような服を着た男女の姿。
1人はわかるが、もう1人は……誰だ?
男の方は、軽く両手を広げた状態でグラウンドにふわりと降り立ちながらこう言った。
『やぁ、お待たせ。文月慶、遅れてすまないと日下部が言っていた。新庄は連れてこれなかったけど、もっと凄いのを連れてきたともね』
『ちょっと待って!? 凄いのって私のこと!? わ、私は何の変哲もない普通のJKよ! 何も見えない……じゃなくて普通のものしか見えないから!』
若干違和感のある羽衣姿の日下部に対し、丸顔の自称女子高生は取り乱しながらそう語る。
男子高生と女子高生の和やかな日常会話らしきものが空中で繰り広げられているが、そんな悠長な状況ではない。
「2人ともここにいるなら警戒しろ。グラウンドの中央にいる銀色の奴の力は想像を絶するほど強大で、僕らを殺そうとしているんだ」
今、小型カメラは見えないだけで、グラウンドのどこにでも存在している。
空中にいる彼らに話しかけることも不可能ではないが…。
『え、何? 何か声だけ聞こえたんだけど! 私に視えない幽霊なんているの?!』
『文月慶の声が近くに。校舎からここまでかなり離れているというのに…。音の神辺りに君も憑かれたのかい?』
いきなり僕の声が聞こえたことで慌てふためく2人。
まぁ、そっちの女子高生の反応は妥当だが…。日下部、僕のことを知っているお前が何かしらの技術だと判断できないのはどういうことだ?
それとも、今は日下部の方ではないのか?
D『この力……神憑ですか? 貴方たちは………何者?』
男虎先生や獅子王、樹神の赤いブロッコリーに巻きつかれたDestroyの身体はやはり動かない。
奴は口だけを動かし、辛うじてといった具合で音声を発した。
そして、グラウンドに足を着けた2人は奴の問いに対し、名前を名乗る。
シリウス『幻影の神憑、日下部雅に憑いたシリウス、またの名をファントムと……』
やはり今はシリウスが直接身体を操っているようだ。
賢明すぎる判断。日下部自身、強敵がいることを勘づいていて身体を貸したに違いない。
シリウスは自分たちの名を名乗ってから、彼女の方へ目をやる。
すると、彼女とシリウスの着ていた羽衣は光の粒子のような物になって分散し、日下部の私服姿と彼女のグレーのパーカーが露わになった。
御門『至って普通のJK、御門伊織よ! 今の羽衣も私の力じゃないからね!』
御門 伊織。初めて聞く名前と姿だ。彼女と面識のある奴はこの中にいるのだろうか?
シリウス『そ、そうだね。あれは僕の放屁で作られたオナラの衣さ』
御門『………! 違うわよ! そんな汚いものと一緒にしないでくれる?』
そして、なぜだか口論になる1人と1柱。
御門はなぜか自身の能力を隠したがっている。剣崎のように、何かコンプレックスでもあるのか?
シリウス『なぜ口裏を合わせないんだい? 女心は秋の空とはよく言ったものだね』
日下部に憑いたシリウスは、両手の平を上に向けて首を傾げた。
警戒しろと言ったが、聞く気は全くないようだ。地上に降りても緊張感の無さは変わらない。
まぁ、今合流した2人がそうなるのも無理はないか。1番の脅威、Destroyの動きが止まっているからな。
だが、この一時の安寧も直に終わることになる。
ギギギギギ………
軋む音を立てながら、奴の身体が動き出したからだ。
捻った身体を反対方向に回転させようと徐々に動き出している。
これには日下部に乗り移ったシリウスも驚いた顔をして、手の平を奴に向けた。
シリウス『なんで動いているんだい? 僕の赤い放屁は物理的な力を自在に加えられるはずなのに。この放屁の押さえつけにまさか力尽くで抵抗しようと言うのかい…?』
赤い放屁。初耳で神憑でも何でもない僕には見えないが、普通なら抵抗できないものなんだろう。
物理的な力を自在に加えられるということは、相手が動こうとしている力に反発するよう同程度の力を加え続ければ完全に止められるはずだ。
相手が鬼塚の特質を持つ最凶のDestroyでなかったらの話だがな。
その放屁に力尽くで抵抗し動き出すことがあったとしても、それがDestroyであるなら、何ら不思議ではない。
ギギギギギ…………!
徐々に動きが速くなっている気がする。
シリウスの焦る表情からもわかるように、奴は赤い放屁とやらに対応しようとしているんだ。
シリウス『ありえない…。どんなに強い力を加えてもそれを上回ってくる…! そして、上回る速度も上がっているみたいだ』
額に汗を滲ませながら、目を細めるシリウス。
僕は何を傍観している…? 奴が適応しないうちに鬼塚に破壊させればいいじゃないか。
そして、恐らく赤い放屁以外の押さえ込みは大して意味を成していない。
御門『…………。わかったわよ。手伝うわ』
僕が鬼塚に指示を出そうとしたタイミングで、彼女が渋々といった様子で口を開く。
そして、両手を軽く広げてDestroyを見据えた。
御門『解術・狩衣装束』
黒い光のようなものが彼女に集まったと思った瞬間、別の服装へと変化する。
浮遊していたときの羽衣でもなければ、グレーのパーカーでもない。
かなりブカッとした袖に、黒い袴のような服装。恐らくあれは、平安時代にいた陰陽師を模した恰好だろう。
彼女も……神憑の部類に入るのか? 特質とはかけ離れている能力だが。
陰陽師姿に変身した彼女は右手に、黒い紙に赤い血のようなもので書かれた模様が入っている呪符を出現させる。
ギギギ……!
動きが早まるDestroyに対し、その呪符を突きつけた。
御門『呪術・邪念憑殺』
ギギギ………バキッ!
D『…………!』
動きが止まりそうな様子はないが、装甲が剥がれるような音がイヤホンを介して聞こえてくる。
『Destroyの装甲に僅かながら損傷を確認。原因は不明です』
御門が何かをしたのか? ただ呪符を突きつけただけで何か変化が起こったような感じはしない。
ほんの僅かだが損傷させられて動揺するDestroyと、奴とは対照的にニヤリと笑って余裕を見せる御門。
御門『あれだけの邪念が纏わりついて、その程度の霊障で収まるなんて頑丈ね』
彼女の言っていることはよくわからないが、そう言い終えたと同時に突きつけていた呪符が白色に変化する。
御門『変術・思念質量転換』
ドオオォォォン…!
こちらの技も、彼女から何かが発せられた様子はなかったのだが…。
身体を無理やり回転させようとしていたDestroyは、何かにのし掛かられたかのように、両膝と両手を着いて地面に這いつくばった。
奴がいきなり倒れ込んだ反動で、押さえようとしていた獅子王たちは、後方に仰け反りながら手を離す。
さっき言っていた微弱な電流はもう流れていないようだな。
札を突きつけただけで奴の動きを封じ込めたあの女はいったい…? 普通の女子高生じゃないのは明らかだ。
シリウスの放屁と御門の謎の力によってDestroyは動けずにいる。
もう二度と来ないであろう大チャンスの到来だ。
「鬼塚、やるんだ! 奴は動けない。罠ではなく、今度は本当だ!」
僕は保健室の窓から身を乗り出し、イヤホンを介すことなく直接声を張り上げて彼に指示を出した。
鬼塚『う、うおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
震える声で叫びながら、不恰好に走りだす鬼塚。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
Destroyに迫る彼が1歩前に踏み出すたびに地面は大きく陥没していく。
普段のように力を加減する余裕はないのだろう。自身と同じくらい強大な敵を倒すことに緊張しているからだ。
イヤホンを介さずに出したこの指示が、最後になってくれ!
ドンッ! ドンッ!
凄まじい足音と共に迫っていく鬼塚を、横目で見据えるDestroy。
全く動けずにいる奴だったが、途切れ途切れに言葉を発した。
D『相性……問題…………、止む………得ない………』
なんて言っている? 聞き取れないが、力尽くが通用しなくなった奴に残された手段はないはず…。
D『“EvilRoid - Aqua”………起動』
忘れていた…。奴の発言であることを思い出す。正確には覚えていたが、誤作動だと思い、当てにしていなかった。
『およそ10秒後に5体の“EvilRoid”がグラウンドに到着します』
“FUMIZUKI”が5体来ると言っていたのに対し、実際に現れたのは4体。
今回は誤作動ではなかった。
残りの1体は__
プシューーーッ!!
ひれ伏したDestroyと迫る鬼塚の間に位置するところから多量の水が噴き上がり、それと共に跳び上がった銀色の物体に皆、注意をひかれる。
__奴は地中で待機していたんだ。
“EvilRoid - Aqua”と呼ばれたそいつの身体はDestroy同様銀色の装甲で包まれているが、下半身は人魚のように魚の尾の形をしていた。
鬼塚『ひっ……み、水!?』
地中から湧き上がった水を目の当たりにして、急ブレーキをかけて足を止める鬼塚。
そんな鬼塚には目もくれず、地面を突き破って現れた人魚型の“EvilRoid”は一瞬空中に留まってこう言った。
A『水の理・水都建栄』
ドドドドド………!
奴がそう言った瞬間、滝のような音が辺り一帯に響き渡り、校舎やグラウンドのあらゆるところから多量の水が天を突き抜ける勢いで噴き上げる。
なんだ……この技は? 誰の特質が元になっている?
考える暇も動揺している暇もなかった。
この透き通った水は保健室の床をも突き破り、僕の足元からも勢いよく噴き上げる。
グラウンドから隙間なく噴き上げてきた大量の水は、瞬く間に校舎やグラウンド全体を呑み込んだんだ。
気づけば僕らは水の中。
“準不死身”状態だからか、僕自身息苦しさはないが、水中では声を出すことができず指示が通らない。
当然、僕以外の人は息ができずに苦しんでいるはずだ。
溺死させるのが狙いか。恐らく泳いで浮上しようとしてもAquaがそれを許さないだろう。
この状況、どうすれば…。学校が水に沈むことは一切想定していなかった。
何も対抗できずに僕らは終わるのか?
錯覚かはわからないが、保健室の窓から見えたグラウンドには、古代に建てられた巨大な建造物が透明感のある水によっていくつか象られていた。




