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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
RESET Project編
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総力戦 - 獅子王 陽④

新庄しんじょう「ぐはっ……!」



ゴリラになっている僕の前で、新庄しんじょうは血を吐いて地面に倒れ込んだ。


ちょうど的場まとばの放った最後の銃弾がPlant(プラント)のコアを撃ち抜いたタイミングだ。


「じ…じん゛じょ゛う゛…!」


僕はゴリラから人間に戻るのを忘れ、太い毛むくじゃらの腕を伸ばした。


新庄しんじょう篤史あつし、あまり話したことはないけど、彼のことは知っている。


放課後に時々ある生徒会の会議で散々、名前が挙がっていたから。


鬼ごっこが始まる前から、彼は生徒会界隈では有名だった。


肌身離さず金属バットを持っている危険な生徒。常に目つきが悪く、近寄りがたい存在。


授業態度ももちろん良くはない。爆睡しているかスマホをイジっているかのどちらかだった。


僕にとっては印象最悪の彼だったけど、身体を張ってPlant(プラント)と戦っていたんだ。


理由はわからないけど、学校の平和や僕ら生徒の安全を考えてくれたのは間違いないと思う。


剣崎けんざき獅子王ししおう氏、生きていたのだな」


半分に折れた刀を持った剣崎けんざきは目に涙を浮かべていた。


僕が生きていたことに泣いてくれるのは嬉しい限りだけど、新庄しんじょうが死んでしまうかもしれない。



あきら……」



僕が自分の名前を呟くと、身体中に生えていた体毛は毛穴に吸い込まれるように無くなっていき、太い筋肉質な腕や足も細くなっていった。


そして、僕は本来の姿に。


もこもこした黒のダウンジャケットにダボタボのベージュのズボン。服装も健在だ。


ゴリラになるときに服なんか張り裂けるんじゃないかって思うだろうけど、元に戻ったとき裸だったら色々まずいだろ?



新庄しんじょう……!」



人間に戻った僕は、もう一度彼の名前を呼んで駆け寄った。


そして、彼の上半身の横に両膝を着いて胸骨に両手を添える。


人命救助の際に行う心臓マッサージ。中学の時から毎年習っている。


失敗はしないし、ちゃんとできるはずだ!


だから……だから……、



「目を覚ましてくれ、新庄しんじょうおぉ!」



学校の屋上でのあの出来事が脳裏に蘇る。


すめらぎ立髪たてがみ樹神こだま剣崎けんざき日下部くさかべ……!


もう誰も死なせるわけにはいかない。


何もできずに絶望するのは、もう嫌なんだ!


僕は想いを込めて、胸骨を圧迫した。



ーー 新庄しんじょう篤史あつしが倒れた理由は、死蝕毒素ヘドロフォラファンによるもの。毒によって倒れた彼に心臓マッサージは意味をなさない。その一部始終を見ていなかった獅子王ししおうあきらは彼が倒れた原因を知らなかったのだ。



カシャンッ


心臓マッサージを繰り返す僕の近くで折れた刀を落とす剣崎けんざき


剣崎けんざき獅子王ししおう氏が心臓マッサージをするということは、私の役割は……接吻……であるか?」


茫然ぼうぜんとした様子の剣崎けんざきがそう話すけど、耳を傾ける余裕はない。新庄しんじょうが意識を取り戻すまでは…!


胸骨を圧迫し続ける僕の隣で彼は続けてこう言った。


剣崎けんざき「まさか、私のファーストキスが血塗れで意識を失った男になろうとは。誠に遺憾である。3次元の彼女とまではいかなくとも、せめて初めては私の推しの2次元の美女としたかったものだ」


剣崎けんざき、嫌なのはわかるけど人工呼吸を頼む! ちょっとでも生き返る可能性を上げたいんだ!」


僕は間違って胸骨を折らないよう注意しながら、彼にそう頼む。


こんなグラウンドのど真ん中にAEDがあるはずない。人工呼吸が嫌なら、保健室に取りに行ってもらいたいけど、Undead(アンデッド)の増殖体たちが待ち構えていて動けない…!


なんでかわからないけど、僕らのいる場所へ近づいてこないのは不幸中の幸いだ。


剣崎けんざき獅子王ししおう氏の言うことは正しい。抵抗はあるが仕方ない。新庄しんじょう氏との口づけを交わすとしよう」


彼は震えた声でそう言い、こちらにゆっくりと歩いてきた。


口づけって言ってるけど、ちゃんと息を吹き込んでくれるよな? ただ着けているだけじゃ意味ないから…。


彼は恐る恐る近づいてきて、僕とは反対側の方で両膝を着いて顔に両手を添える。


胸骨を圧迫し続ける僕と、顔を徐々に近づけていく剣崎けんざき



朧月おぼろづき「ちょっと……失礼………」


「うわっ…!」



突然、朧月おぼろづきくんが隣に出現して僕は驚き、飛び退いた。


もしかして、AEDを持ってきてくれたのか? って思ったのも束の間。


プスッ


彼はポケットから注射器を取り出し、新庄しんじょうの左胸に針を突き立てたんだ。


「え、ちょっと何してんの!? 殺す気?」


朧月おぼろづき「刺す場所は……どこでもって………」


そう言って、彼は注射器に入っている赤色の液体を新庄しんじょうの身体に注入した。



剣崎けんざき新庄しんじょう氏、私の大切なファーストキスを……受け取るがいい!」



赤い液体が注入されたのと、剣崎けんざきが絵で描かれているタコのような口をして勢いよく迫っていったのはほぼ同じタイミングだった。



新庄しんじょう「う、うわああああぁぁぁぁぁ!!」



目を瞑っていた新庄しんじょうはパチリと目を開け、意識を取り戻した。


新庄しんじょう「来るな、ボケえぇ!」


彼はそう叫びながら手元にあったバットを持ち、剣崎けんざきのこめかみ目がけて振り上げる。


「ぁ……」


一瞬の出来事に身体は動かないし、声も出せなかった。


その金属バットは確か特殊なもので、もの凄い破壊力があるんだっけ? そんなものを頭に当てたら、弾け飛んでしまう…!


だけど、その心配は杞憂に終わる。


剣崎けんざきが上体を僅かに後ろへ反らしてバットをかわしたからだ。


そういえば、彼は目がめちゃくちゃ良いんだった。格闘ゲームをやりすぎて、緩い速さの攻撃は止まって見えるとか。


いや、そもそもFluid(フルイド)の音速級の攻撃をさばいていたんだ。今更、普通の人のバットの攻撃なんて何てことないだろう。


剣崎けんざき新庄しんじょう氏、止まって見えたぞ。まぁ、当たっていれば私は死に、君は少年院行きになっていたがな…」


新庄しんじょう「何しやがんだぁ! てか、あの頭でっかちはどうなった!?」


あえて間一髪で避けたのか余裕の笑みを浮かべる剣崎けんざきと、声を荒げながらキョロキョロと辺りを見渡す新庄しんじょう


彼らのやり取りを見て、僕はホッと息をついた。緊張で強ばっていた身体の力が抜けるのを感じる。


彼が息を吹き返してホントに良かった。


ここはあの訳のわからない世界じゃなく多分現実だ。今、死んだらそこで終わりなんだ。


さっきまで意識を失っていて状況をよくわかっていない新庄しんじょうに、剣崎けんざきは軽く説明する。


そして、僕の方へ目を向けて不思議そうな顔をした。


剣崎けんざき「生きていたのは誠に嬉しいが、あの状態からどうやって…。心臓に穴が空いていたではないか」


確かにそれは疑問に思うだろう。僕自身も唖毅羅アキラの状態で死にかけたのは初めてだから、まだあまりわかってないんだ。


「それを話すのは後にしよう」


今回わかった僕の能力について話すのは後回し。


彼にそう言って、僕はうじゃうじゃといる増殖体の群れに目を向けた。


あの中でまだ男虎おのとら先生と的場まとばが戦っている。


先生は体力に限界が来ているだろうし、的場まとばのマシンガンは弾切れ。


助けに行くのが先決だ。何故かここには増殖体が入ってこない。


もう一度、唖毅羅アキラになって彼らを助けに行こう。2人とも固まって居てくれたら助かるけど。


「先に2人を連れてくる」


僕は彼ら3人に背を向けたままそう言い、増殖体の群れへ近づいていった。


新庄しんじょう「そういえば、ウホはどこに? 礼を言わねぇと。あいつ、俺らがピンチのときに駆けつけてくれたんだ」


僕が言った後に続いて新庄しんじょうは言う。そんな彼に対し、僕は足を止めて振り返った。



「礼なら良いよ。僕ら生徒や学校のために戦ってくれてありがとう。これからは、僕のこと……ウホのことを……、“あきら(唖毅羅アキラ)”と呼んでくれ!」



意味がわからなかったんだろう。きょとんとした顔をする彼から目を離し、僕は太陽を直視した。


太陽を見ただけでは何も起こらない。


僕のこの特質の発動条件は…、



唖毅羅アキラあぁ!」



自分の名前を呼ぶことだ。


新庄しんじょう「へ? は? へ? どういうこと…? ウホがゴリラで、人間があきら?」


目の前で変身したのにも関わらず、彼はわかっていないみたいだ。ていうか、余計に混乱している。


まぁ、特質自体見慣れないものだから仕方ないか。


ドンッ!


再びゴリラに変身した僕は、地面を蹴って大きく跳躍した。


群れる増殖体を真上から見下ろす形になる。


…………いた。


男虎おのとら先生と的場まとばを見つけるのにそう時間はかからなかった。


彼ら2人は背中を合わせて無限に迫る増殖体たちに応戦している。



男虎おのとら「背中は預けたぞ、的場まとばあぁ!」


的場まとば「ノオオオオォォォォン! こっち来るなああぁぁぁ!」



拳から竜巻を出し続ける男虎おのとら先生と、弾の切れたマシンガンの銃口を持って増殖体をバシバシしばいている的場まとば


いや、先生、守ってやれよ! あんたの背中に隙なんてないと思うけど?!


銃で殴られた増殖体は全く怯んでいない。このままじゃ的場まとばは四肢を引き裂かれてしまう。


空中にいるゴリラの僕は身体を前に傾け、彼らの間に降り立った。


男虎おのとら「な、なんだあぁ!?」


的場まとば「助かった! 早う飛んでくれぇ!」


彼らの言葉には反応する余裕はない。降り立ってすぐ、両脇に彼らを抱えて飛躍した。


もう安心だ。後は、このまま剣崎けんざきたちの所へ戻るだけ。


男虎おのとら「離せ、この忌々しきけだものめぇ!」


え、最初に変身したところ見せたよね? そんなこと言われると傷つくんだけど。


そして、彼は僕を言葉で傷つけるだけには留まらなかった。


男虎おのとら龍風拳りゅうふうけん!!」


捩りながら繰り出す先生の突きが僕の顔に迫ってくる。


ヤバい、これ当たったら死ぬ!


Fluid(フルイド)の身体が一瞬でぐちゃぐちゃになった突きと同じなんじゃないの?



「ウ……ウホオゥッ!」


ブンッ!



命の危険を感じた僕は、抱えていた男虎おのとら先生の身体を剣崎けんざきたちの居る所に向かって投げつけた。


男虎おのとら「うわああぁぁ! 人でなしいぃ!」


どすうぅぅん!!


空中でそう叫んだ男虎おのとら先生は地面に叩きつけられて何度か転がる。


まぁ、確かに今僕は人じゃないけど…。


問答無用で人の頭破裂させようとしたあんたも人のこと言えないよ。


てか、あれだけ凄い武術を使えるのに受け身は取れないのか。取れると思っていたから思い切り投げたんだけど…。


ストッ…


大胆に着陸することになってしまった先生とは反対に、僕と的場まとばは安全に降り立った。


あきら……」


敵と誤解されて攻撃されないよう、僕はすかさず自分の名前を言って元の姿へ。


目を丸くして固まっている新庄しんじょう


相変わらず表情が変わらない朧月おぼろづきくん。


大の字になって倒れている男虎おのとら先生に、隣にいる的場まとば


そして……、


剣崎けんざき獅子王ししおう氏、聞かせてくれ。あの状態から生還したすべを」


真剣な表情で僕を見据える剣崎けんざき


彼らを1人1人見渡して、僕はホッと一息吐いた。


増殖体と戦っていたみんなは、とりあえず無事だ。身体に目立った傷は見当たらない。


この場所なら少し余裕を持って話せそうだ。それでも、いつ襲ってくるかわからないから僕は手短に自分の特質を説明した。



「結論から言うと、僕はミンチとかにされない限り、太陽のもとでは実質不死身のようなものなんだ」



僕はあのとき確かに胸を貫かれた。


左胸に穴が空いたと思った瞬間、例えようのないほどの激痛が走り僕は落下した。


そして、落下する僕の下に待ち構えていたのはUndead(アンデッド)が繰り出した無数の赤黒い棘。


その真上に落ちたゴリラ化した僕の身体は串刺しに…。


刺さったところからはドクドクと血が溢れ出し、当然だけど意識は遠のいていっていた。


視界が真っ暗になるのに、そんなに時間はかからなかったよ。


あぁ、今度こそ本当に死んでしまうんだ。


僕は雪辱を晴らせなかった。


あの時の不知火しらぬいに悪気は無かったと思う。結果的に僕らは新・生徒会に勝てたわけだし。


だから、わだかまりがあったとしても不知火しらぬいに復讐しようなんてことは一切思っていない。


だけど、Undead(アンデッド)不知火しらぬいに似た……いや、彼以上に凶悪な敵だ。


奴をこの手で破壊することで、心に溜まっている無力感から解放されると思っていたのに…!


そんな思いが募ったのか、ゴリラの僕の目から頬にかけて熱い涙がつたっていく。


なんて僕は無力なんだ。今回は太陽が出ていた。バリバリの快晴だったのに!


今回も負けるのか? 今回も殺されるのか?


空に手を伸ばそうとしたけど、身体は動かなくなっていた。それどころか痛みすらもう感じない。


死ぬと思ったその時、何も見えないはずの僕の前に大きなゴリラが現れたんだ。


“__名を呼べ。なんじの…我の名を呼んだ暁に、なんじの身体は復活の刻を迎えるであろう”。


このゴリラの声なのか? この真っ暗な空間に、低くて渋い彼の声らしきものが反響する。


確かに僕はいつもゴリラ化するとき、独自のセリフを唱えていた。あれと何か関係があるのだろうか?


そもそも僕の顔を覗き込んでくるこのゴリラはいったい何なんだ?


たくさんの疑問が頭に浮かびながらも、僕はダメ元で彼の言うとおりにしようと口を開いた。




「ウホッ」




まずい、体力に限界が来ていて言葉を発せない…!


ゴリラ化した僕を覗き込むゴリラは怪訝な顔をした。



“__巫山戯(ふざけ)ている場合ではない! 即刻に叫ぶのだ、なんじの名を”。


違う、僕だって真剣だ。だけど、もう言葉を発せないんだよ!


「ウ……ウホッ……」


どんなに頑張っても出てくるのはゴリラの声だ。人語にならない…!


“__直になんじの魂は天界へ召される。その刻が来たる前に叫ぶのだ。もなくば、なんじは雪辱を晴らせぬまま生涯を終え、未練の残った魂は現世を彷徨さまよい続けるだろう。それで良いと言うのなら我は何も言うまい”。


ダメだ…! 僕はここで死ぬわけにはいかない。


Undead(アンデット)を倒し過去の自分に打ち勝つため、生徒会長として生徒や学校を守るために…。


立ち上がらなくちゃいけないんだ!


彼の言葉で僕は奮起したんだと思う。


最期の力を全部喉に集中させ、僕は声を振り絞った。



「ぁ…………きぃ…………ら………」



僕が弱々しく消え失せそうな声で自分の声を発した瞬間に、晴れ渡った空が視界に入る。


ドサッ


いつの間にか人間に戻っていた僕は、無数に生えている赤黒い棘の根元の隙間に挟まっていた。


痛みは全く感じない。左胸からはないはずの心臓の音がする。


不思議に思った僕は右手で左胸に触れてみた。穴が塞がっている?


いったい、どういうことだ? なんで僕は無傷で生きているんだ?



“__(なんじ)よ、それも我らの特質だ。陽光に照らされる限り、幾度でも名を呼ぶといい。は我らを導かん”。



あのゴリラの声が脳裏に響いてくる。


待って、僕のゴリラもまさか神の力だったりするのか? いや、でも特質って言ってるし…。


「助けてくれてありがとう。でも、君はいったい…?」


僕は棘に挟まった状態で彼に問いかける。



“__我の正体は、なんじの記憶に。なんじが最初に名付けた我の名は、うら獅子王ししおうなり”。



この言葉以降、彼の声が聞こえてくることはなかった。


うら獅子王ししおう、覚えている。


中学時代、絶賛厨二病だった僕はゲームのアカウント名を“うら獅子王ししおう”にしていたんだ。


もしかして僕の場合、厨二病がそのまま特質に昇華したってこと? 


そんなこと、普通ありえる? その説でいくと、全国の厨二病に能力が芽生えることになるんだけど。


だけど、なんでゴリラなんだろう?


ゴリラのキャラクターが出てくるゲームにハマってはいたけど、僕は別のキャラを使っていたから関係ないと思う…。


今回、僕の特質について新しくわかったことがある。


太陽を見て名前を言えば、いつでも人間とゴリラに切り替えられるのは知っていたし、今までもやっていた。


それに加え、切り替わる前に負った傷や消耗した体力は引き継がれないということがわかったんだ。


頭を吹き飛ばされたり瞬殺されたりしない限り、名前を呼べばいつでも万全な状態に戻れるということ。



「太陽が出ている間だけという条件付きだし、不知火しらぬいのような完全な不死身ではない。でも、僕には腕力や脚力、更には野生の勘を持ち合わせているって感じ」



あの時何が起こったのかを一部始終話していたら少し長引いてしまったけど、僕の話はこれで終わり。


新庄しんじょう「つまり……お前はウホって名前で、あのゴリラはあきらっていうのか?」


彼らの表情を見る限り、新庄しんじょう以外はわかってくれたようだ。


生徒会長をやっていて良かったよ。人前で考えを整理して話すのに慣れているから、ちゃんと伝えることができたんだと思う。


新庄しんじょうの隣にいた剣崎けんざきは目を瞑り、残念そうに首を大きく振った。


剣崎けんざき獅子王ししおう氏、君も逆で覚えられてしまったか。新庄しんじょう氏は名前を覚えにくい上に、1度覚えると修正が利かない頭なのだ」


新庄しんじょう「前から思ってたんだけどよ。いつもぐちぐちうるせぇんだよ、水瀬みなせ


剣崎けんざき「いい加減に覚えないか! 傍から見るとややこしいのだ!」


目つきの悪い血塗れの新庄しんじょうと、堅物の剣崎けんざきが割と大事なことで言い争っている。


新庄しんじょう、元気そうで良かったよ。


朧月おぼろづきくんが左胸に挿した注射器は、多分文月(ふづき)が作った治療薬か何かだったんだろう。彼はほんとに何でも作れるよな。


少しばかり睨み合っていた剣崎けんざきがこちらを振り向いて、表情を緩めた。


剣崎けんざき獅子王ししおう氏が生きていたことで、今のところ、ここで死傷者は出ていないことになる。だが、しかし……」


彼の緩んだ表情は一瞬にして強ばり、耳に手を当て辺りを見渡し始めた。


ドオォォン……!


さっきからそう遠くない所から聞こえてくる爆発のような音。


剣崎けんざきはそれに警戒しているんだろう。


今残っているEvilRoid(エビルロイド)は、Destroy(デストロイ)Undead(アンデッド)の2体。


Undead(アンデッド)はあの赤黒い棘から動いていない。


だとすれば、誰かがあの凶悪なDestroy(デストロイ)と応戦している…! あれとまともにやり合えるのは、鬼塚おにづかくんくらいだ。


だけど、一騎打ちで倒せるほど簡単な相手じゃない。早く増殖体とUndead(アンデッド)を片付けて、Destroy(デストロイ)との戦いに参加しないと。


剣崎けんざき「1つ質問があるのだが。獅子王ししおう氏、あのゴリ……失礼。唖毅羅アキラはどこまで跳び上がれる? あの棘を軽く越えられそうであるか?」


彼は、ここからでも見える1番太くて長い赤黒い棘を指さしてそう言った。


あそこの先端にはUndead(アンデッド)本体が掴まっている。


あれくらいなら跳び越えられると思う。現に僕は1度あれよりも高く跳び上がってUndead(アンデッド)へ攻撃しようとしていたし。


「うん、助走をつければ余裕だ」


僕が首を縦に振ると、剣崎けんざきはニヤリと笑ってこう言った。




「この四面楚歌な状況を打開する秘策を思いついた」




的場まとば「あ、勝院しょういんが起きた」


男虎おのとら「忌々しき猛獣め! っていないだとおぉ!?」


的場まとばが指さす先には、やかましい男虎おのとら先生が…。


秘策か…。ちょうど先生も起きたことだし、作戦会議でもしようか。


そう思ったんだけど、彼の次の一言で僕はそれを実行するべきか悩むことになる。




剣崎けんざき「かなりのリスクではあるが…」




その言葉に反して、彼はいつになくニヤニヤと何かを企むかのように笑っていた。




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