総力戦 - 新庄 篤史④
俺と悠の身体には、しなやかな黒いブロッコリーが絡まっている。1ミリも身動きできねぇという絶対絶命な状態だ。
Plantの気分次第で俺たちは殺されちまう。
「後5秒…。言わないなら、1番苦しい死に方にしてやるよ」
ブロッコリーに縛られた俺たちを見て、ずっとニヤついているPlant。
縛りつけられた俺たちが何もできねぇと思って調子に乗ってんな。
だけど、実際にそうなんだよ。動けねぇだけじゃない。吸った量は違うかもしれないけど、2人とも毒を吸ってんだ。
この絡まるブロッコリーを何とかしたところで、ぶっ倒れるかもしれねぇ。
P「後3秒。睨んでないで何とか言えよ。どうでっかぁ、今の気持ちは?」
こいつ、小せぇな。自分がヤバいときにはギャーギャー言うクセによ。ちょっと都合良くなったらすぐに調子に乗りやがる。
小せぇ上にタチも悪りぃ奴だ。はっきり言ってこういうの大っ嫌いなんだよ。
もう1回、言うぜ。俺たちは絶対絶命のマジでヤバいピンチって感じだ。頭デケぇくせに器の小せぇこいつが調子に乗るのは仕方ない。
P「はい、0おぉ! おい、マジで腹立つなぁ。せめて、べそ掻いて命乞いしてこいよ。俺をイラつかせたお前らにはブロッコリー史上最大の苦痛を味わわせてから殺してやる!」
ずっと睨みつけていたからか、俺にブチ切れる頭でっかち。
そうやってすぐ調子に乗ったり、気ぃ抜いたりするから、お前は後ろを取られんだ。
さっき空高く飛び上がったあいつは拳を作り、Plant目がけて落ちてくる。
俺はそれを確認して、奴に思い切りメンチを切った。
「俺はお前に10秒もやりたくねぇ。とっととくたばれ、ブロッコリー野郎!!」
P「はぁ!?」
俺の目力にビビったのか知らねぇけど、奴は驚いたような顔をした。
もう奴のすぐ真上に来ているそいつに対して俺は声を上げる。
「やれえぇぇ!
ウホオオォォォォ!!」
何度でも言うぜ。俺と悠は絶対絶命ガチでマジのピンチだった。
グラウンドでテロリストの鬼に囲まれたときと同じくらいにな。
でも、あのときもそうだ。運転の上手い剣崎、よだれの水瀬にデカいゴリラのウホ。
みんなで協力したから絶対絶命のピンチを乗り越えられたんだ!
今回だって、俺1人じゃこいつを倒せてないかもしれない。ムカつくけど、こいつは強いんだ…!
だけど、どんなに強い敵でもよ…、みんなで戦えば絶対絶命の状況でも何とかなる。
鬼の軍団やレーザー撃ちまくってくる先生も、みんながいたから勝てたんだよ!
P「ウホ…?」
背後に気配を感じたのか、奴は屈んだ状態で後ろに振り返った。
今、気づいても遅ぇよ。後もう少しでゴリラの拳が届くだろう。
奴の頭のすぐ上から、2メートルを超えるデカいゴリラ、ウホが迫っていた。
マジで久しぶりだな、ウホ。
テロが終わった後、どこに行ってたのかわからないけど、俺たちの危機に駆けつけてくれたんだな!
P「お前、さっき死んだんじゃ…?」
ゴリラが降ってきていることにビビったのか、奴はウホに釘付けになっていた。
「いけえぇぇ! ぶっ飛ばしてやれぇ!」
俺の声が届いたのか、ウホは思い切り殴ってやろうと言わんばかりに、拳を握り締めた太い右腕をぶんぶんと回し始める。
そして、拳が届くところまで迫ると、腕を回すのを止めて拳を顔の隣まで引いた。
唖毅羅「終焉万象回帰開闢猩擲」
バキバキバキバキッ!!
P「あ゛あ゛っ…!」
ウホの逞しい右腕がPlantのデカい頭に直撃。金属っぽくて硬そうな頭は粉々に破裂して消し飛んだ。
そして、多分だけど、こいつらの弱点の銀色の球が露出して奴の首の上で浮遊している。
あの小さい奴と同じなら、あれをぶっ壊せば俺たちの勝ちだ!
「ウホ! その銀色のボールみてぇな奴をぶっ叩くんだ!」
俺がそう叫ばなくてもウホはわかってたみてぇだ。あいつはもう一度、右手に拳を作ってこう言った。
唖毅羅「冥府へ゛還れ゛、野菜の゛帝王よ゛」
今日のウホは鼻息が荒い。仲の良い俺たち人間を傷つけられて怒ってるんだろうか。
てか、こいつ喋れたっけ…?
こいつが喋れるかどうかは置いといて、こっからが大問題なんだ。
俺と悠はまだ動けねぇ。あの球を壊せるのはウホだけだ。
ウホは日本語を喋ってすぐに球をぶん殴ったんだけどよ…。
ゴンッ!
唖毅羅「ホオオオォォォォォン!! ゴリ゛ラ゛でも゛無理があ゛ぁぁ!」
ウホは真っ赤に腫れた右手を押さえて転げ回った。
嘘だろ、そんな硬ぇのかよ…! “じいちゃん2世”なら簡単にぶっ壊せたってのに。
だったら……!
俺は右手を押さえて倒れているウホを呼びかけた。
「ウホ! 俺のバットなら球を壊せる! だからこのブロッコリーを解いてくれ!」
朧月「ヤバい………来る………!」
俺がウホに声を掛けたタイミングで、隣で縛られている悠が怯えたような震える声を発する。
何をビビってんだ?
俺は首を上に傾けた悠が見ている方向を目で辿った。
Plantの両脇にそびえ立つ空を突き破るんじゃねぇかってくらいデケぇ黒いブロッコリー。
地面にしっかりと生えた太い茎から生えている小さなブロッコリーたちがうねっている。
そうだ、この頭でっかちはまだくたばってねぇ…! やっぱりあの球を壊さねぇと。
まだ何か攻撃をしてくるかもしれねぇ。
朧月「ヤバい……ヤバい………!」
現に悠が何かに気づいて焦ってんだ。
「ウホ、まだこいつは生きている! 早く俺のブロッコリーを解いてくれ!」
まだ戦いは終わってないことに気づいた俺は、ウホに注意を促した。
朧月「ヤバい…………あぁ……」
シュッ……!
ビビる悠に悶えるウホ、そして……、
剣崎「尾蛇剣舞走式・刻裂真剣」
あの集団の中からよだれの水瀬の声が聞こえたと思った瞬間、奴はこのリングの中に折れた刀を構えて現れる。
俺から見て水瀬は右側にいるんだけどよ、何かあいつの後ろに道が出来てたんだ。
裸の集団がわざわざ通したのか? あそこから通ってきたのか?
でも、普通に考えたら通さねぇよな。あいつら、めっちゃよだれが嫌いなのかもしれない。
剣崎「もう一度、走式! 刻裂真剣!」
水瀬はこのリングに入ってきた瞬間そう叫んで、気づけば今度は悠の隣に移動していた。
俺の前でみじん切りされたみてぇなブロッコリーの破片が雪みてぇに舞っている。
「水瀬、助けに来てくれたのか!」
俺の呼びかけに水瀬は刀を振り抜いたかのように伸ばしきっていた右腕を下げながらこう答えた。
剣崎「剣崎だ。名乗ったことを忘れてはないようだが、致命的な間違いである。後ほど病院を紹介しよう」
変わらねぇな、あのときと。ぐちぐちうるせぇけど、良い奴ってのはわかってるぜ。
「うるせぇよ。後でぶっ飛ばしてやる」
気が抜けたのか思わず、表情が緩んぢまう。
俺の言葉には応えず、彼は振り返って空いた道を見据えてこう言った。
剣崎「的場氏、獅子王氏の落下地点を正確に教えてくれたこと感謝いたす。ついでに敵の弱点も見つけた。空いた道が塞がる前にその最後の1発でコアを撃ち抜くのだ!」
すかさず今度はあの集団の中から凌の声が聞こえてくる。
的場「了解じゃ。ラスト1発、絶対に外さん!
超目視__イーグルショット!」
バンッ!
ーー
【イーグルショット】
片目を瞑った状態で狙いを定め、確実中の確実に当てるときに使う技。
一点を集中して狙い撃つため、エイムショット等よりも精度は高く、より遠くの標的を捉えることが可能。
片目を瞑った的場凌の射程は自称地球全体とされる。
仮に射程距離が無限の銃を持っていたとすれば、彼は銃口を前に向けて銃弾を発射し、地球を一周させ自身の後頭部に確実に当てることも可能なのだ。
しかし、地球全体が射程というのはあくまで自称で信憑性はかなり低い。
ーー
今のデケぇ音は? 凌が銃を撃ったのか?
聞き慣れない銃声のような音が聞こえたと思った矢先、Plantの首の上で浮いていた球に小さな穴が空いていた。
倒せたのかわかんねぇけど、俺はここで身体が自由に動かせることに気づく。
一応、バットで叩き潰そうと思って立ち上がった瞬間…、
「ぐはっ……!」
あの小せぇ奴の返り血を浴びて真っ赤になった自分のジャージに血を吐いて、俺はここで意識を失った。
ーー 新庄篤史は、的場凌が銃でコアを撃ち抜いたと思っていたが明確には違う。
朧月「…………」
ーー ゆっくりとコアに迫っていく銃弾を見つめる朧月悠。
正確には、的場凌が放った銃弾に彼の力が関与して破壊に至ったのだ。“EvilRoid”のコアは、機関銃の銃弾を1発当てたくらいで壊れるほど脆くはない。
ちなみに、何故縛られていたのに彼は動けたのか。実を言うと、的場凌が銃弾を放ったときには彼らは解放されていた。
闇骸一揆の攻撃を剣崎怜が刻裂真剣で粉々にする際、すでに2人に絡まったブロッコリーを斬り落としていたのだ。
憔悴しきっていた新庄篤史がそれに気づいたのは少し後。
朧月「…………」
意識を失って倒れた彼に駆け寄る剣崎たちを傍観する朧月悠。
神出鬼没や瞬間移動のような能力に、謎めいた攻撃手段。
ーー そんな彼に力が芽生えたのは、かなり前の話だ。




