総力戦 - 新庄 篤史①
「おらっ! 邪魔なんだよ!」
俺は今、この気色悪い裸の奴らをバットで蹴散らしながら、ただただ真っ直ぐに突っ走っている。
あの超強ぇおっちゃんに頼まれたんだ。こいつらと戦っている人たちを援護してくれって。
ただ、こいつら…、
「クソッ! 退けよ!」
走っている俺を人間じゃありえねぇ速さで囲い込む裸の集団。
ざっと10人くらいを俺は身体ごと1回転させてバットで薙ぎ払った。この動きにも後で名前付けねぇとな。
こいつらは…、割と俊敏な動きで翻弄してくる。身体能力が低いってわけじゃないみてぇだ。
油断すると殺されちまうかもしれない。
す……何だっけ? 名前忘れたけど、コーラ好きなあいつが言ってたことは本当だと実感しつつあった。
こいつらや、俺や超強ぇおっちゃんと戦った服着た小さい奴は、一見人間みてぇな姿をしているけどそうじゃない。
人間だったらよ、こんだけ機敏に動けるはずねぇし、身体の一部を槍とか爪に変えて攻撃なんてしてこねぇよな…。
「あぁ、キリがねぇ!」
俺は声を上げながらバットを絶えず振り回し、迫り来る無数のこいつらを蹴散らしていく。
幸い、服着ている奴とは違って再生はしないみてぇだ。
あぁ、ジャージしか着てねぇからめちゃ寒い。バットを握る手がガタガタと震えてかじかむ。
今日はマジで最悪な日だ。
「おらあぁ!」
俺はバットを振り続けながら考える。
あのバスが転がりながら突っ込んでくるまでは最高の1日になると思ってたんだ。
『ついにここまで来た。前人未踏のパスダイのラスボス戦…』
こたつに頭以外を突っ込んでいた俺は恐る恐る起き上がった。
緊張で汗ばむ手でスマホを強く握り締める。
ラスボス戦まで何年もかかった。中1の時から毎日欠かさずやってたんだよ。
そして、ラスボスを後1発で倒せるというところに追い詰めるまで寝ずに3日もかかったんだ。
『後はこのパズルをこっちにズラせば……俺の勝ちだ!』
スマホの画面に表示されているパズルのピースを親指でタップし、適切な位置へスライドさせようとした瞬間だった。
ドオオォォォン!!
大地震かってくらい家が横に揺れて、俺のスマホは手元から遠くへと吹き飛んでしまう。
バキッ…
『あ………』
当たり所が悪かったのか、液晶はバキバキに割れて画面は真っ暗になってしまった。
ざっくり話すとこんな感じだ。
マジで最悪。あのす……何とかの顔を見たときバットでぶん殴ってやろうかと思った。
怒りを抑え込んだ俺を誰か褒めてくれよ。やり込んでたゲームのデータが消えたのに暴力振るわなかった俺ってすげぇだろ?
「くそったれえええぇぇぇぇ!」
バキッ!
俺は湧き上がる怒りに任せて、目の前にいる裸のこいつにバットを振り下ろした。
あぁ、イライラするぅ!
なんでデータ消えたんだよ! 俺が何したってんだ!
つか、こいつら何体いるんだ。あのテロリストが造った鬼の数の比じゃねぇ。
ぶちぶち潰していってもキリがねぇし、戦ってる人らがどこにいるかもわからねぇ。
俺がただ闇雲にバットを振り回していた時…、
バチイィィンッ!
何かすげぇデカいもので地面を叩きつけたかのような音が響き渡った。めちゃくちゃ思い切り叩いたのか一瞬地面がぐらついて、俺はふらっと転けそうになる。
何だよ、今の音。
何となくそれは上から来た気がして、俺は空を見上げる。
「は? ブロッコリー?」
俺の真上で鞭のようなものが何個もうねっていた。その鞭のようなものの先端には必ず黒いブロッコリーみてぇなのが着いている。
これもこいつらの仲間の仕業なのか?
サッ……!
「チッ、考えている暇はなさそうだな!」
俺がボーッとブロッコリーを眺めている間にも奴らは動いている。
俺は再びバットを構えて裸の奴らを倒すことに集中。
バチイィィンッ!
また同じ音だ。地面も揺れはするけど、もうふらつかねぇぞ!
こいつらを何十体倒したのかはわからないけど、最初の音からそこまで時間は経っていないはずだ。
俺は裸の集団に応戦しながら、チラッと上を見る。
「は? ブロッコリー消えてんじゃん」
こいつらがうようよ寄ってくるせいで一瞬しか見れなかったけど、先端にあった黒いブロッコリーがなんでか無くなっていたんだ。
あ? ブロッコリーなんて気にせず戦いに集中しろって?
そう言いたいのはわかるけどよ…。上空でブロッコリーがうねっていることなんて普通に生活しててあると思うか?
ねぇよ、そんなこと絶対に。
つまり、めちゃくちゃ珍しいことが俺の真上で起きてるんだ。
普通、気になって仕方ねぇだろうよ!
「あぁ! お前ら空気読めよ! 一瞬で良いから止まれって! 俺にブロッコリーを見せやがれぇ!」
俺は怒り任せにバットを振り回す。
こいつらは確かに人間離れした動きをしてくるけど、“じぃちゃん2世”と俺の足元には及ばないみてぇだ。
P「ぎゃあああああ!!」
ちょうど俺の前方から凄まじい叫び声が聞こえてきた。
俺は何も考えてはなかったけど、ちゃんと前には進んでいたんだ。
今度は悲鳴か? 誰の声だ? 結構近いけど聞いたことがねぇ。
まさか……!
壮蓮『ここは任せて、彼らを援護してあげなさい』
俺にそう言ったおっちゃんの言葉が頭をよぎる。
クソッ、俺が着く前にやられちまったのか?!
「オラッ、退けえぇ! みんな、今行くぞ!」
俺は邪魔なこいつらを薙ぎ倒しながら、猛ダッシュで悲鳴が聞こえた方向へ駆けだした。
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P「あぁ、クソ……俺のブロッコリーが」
「おい! 大丈夫か!?」
微かにだけど、嘆くような弱々しい声が聞こえてくる。その方向に向かって俺は声を投げかけた。
バキッ……バキッ……バキッ。
「人じゃない…?」
裸の集団をバットで倒しながら、ようやく声の元まで辿り着く。
悲鳴を上げたのはこいつだったのか?
そこには、屈んで右手の指を地面に突き刺している全身銀色の頭でっかちがいた。
見たことあるような気がするぞ? もしかして俺とこいつ、ダチじゃねぇよな?
後なんでか知らねぇけど、こいつ見てるとイライラしてくる。めちゃめちゃ真剣な時に足を引っ張られたような…。
P「あぁ、クソ……痛ぇよ。マジで痛ぇよ。けど、これは俺にとって必要な痛みなんだ」
奴はどこかが痛いのか、空いている左手で顔を覆って悶えている。
ていうか……、
俺はこいつのいる空間をざっと見渡した。
不思議な空間って言ったら良いのか?
俺とこいつのいるこの場所には、なんでかあの集団が入ってこない。
綺麗な円状に距離をとっていてまるでリングに上がったような気分になる。
それもまぁまぁな広さだ。俺とこいつとの間には最低でも5メートルはあるよな。
その俺らをぐるっと囲ってるって感じだ。
仲間同士で接近しすぎて相討ちにならないようにするためか?
俺は右手に持ったバットを強く握り締めた。
「おい、頭でっかち」
こいつが敵なのは間違いねぇ。まず、どう見ても人じゃねぇし。
俺が声をかけると、奴の小言は止んだ。
P「あぁ? 誰だよ」
奴はゆっくりと、顔を覆っていた左手を下ろしていく。
やっぱり見たことねぇ危ない奴を前にすると、緊張するんだな。
俺は固唾を飲んで奴を見据えた。
それに対し奴は俺の顔とバットを舐め回すように見てからこう言う。
P「金属バットに金色の髪。お前、新庄篤史だな?」
「あぁ、そうだけど」
P「ふぉ~!」
こいつは口を“お”の形にし、甲高い声を上げて左手をぐっと握り締めた。
無駄にテンションが高ぇ。ノリの良いダチ感出して油断させる気か?
P「あいつらに攻撃するのは止めだ! 全てを破壊する新庄篤史。お前を殺せばDestroy兄貴に褒めて貰えるぅ!」
そう言って頭でっかちは、人間みたいにニヤリと笑った。
デス……何とか? よくわからないけど、俺を殺そうとしているのは間違いない。
俺はバットを担いで、奴を睨みつける。
P「俺は“EvilRoid - Plant”。お手柔らかにな、金髪不良」
あぁ、デスとか何とか覚えらんねぇよ! もっとわかりやすい名前にしてくれ。
いや、悪態ついてる場合じゃねぇ。
こいつやこいつの兄貴ってのは、鬼を学校に放ったテロリストよりイカれてる。
「殺す……か。俺のダチや知り合いも全員殺す気なのか?」
俺は横目で裸の集団を確認しながら、Plantとやらに問いかけた。
あの集団と戦ってる人たちって、まさか俺の知り合い? 吉波高校の生徒だったりするのか?
確かコーラのあいつは言っていた。毎週、ヤバい敵が来て、そいつらと戦いながらみんな授業を受けているって。
凌、剣崎……後、よだれすげぇ垂らしていた水なんとかって奴!
あいつらが今、戦っていて殺されるかもしれねぇなら…。
P「まぁ、お前のダチが抹消リストに入ってるならな」
ニヤニヤと笑うこいつの顔が憎たらしい。人の命を何だと思ってやがるんだ!
バチッ! バチッ!
クソ痛ぇ静電気がバットから流れてくるのを感じる。
俺もそうだけどよ、じいちゃんも怒ってんだよな。
バットを握る力が強くなればなるほど静電気も強くなっていく。
「お前らが俺のダチ殺すってんならぶっ飛ばす!」
俺は勢いよく地面を蹴って、屈んだPlantへ向かって走りだした。
P「あぁ、熱い熱い。パチンコやってるときの人間みたいに熱いよお前」
バチバチと電気の音を立てながら迫っていく俺に対し、奴は左手を扇いで余裕をぶっこいている。
P「まぁ、とりあえず死んどけよ!」
シュッ……!
ザクッ!
P「ぎゃあああああ!! 何なんだよもう!!」
…………は? こいつ、1人で何やってんの?
Plantが突然悲鳴を上げて痛がりだした。
全く理解できねぇ。どう見ても隙だらけだけど、ぶっ叩いて良いのか?
若干迷いながらも1歩を踏み出すと、何か柔らかいものを踏ん付けた。
「うわっ!」
妙な感触に俺は思わず飛び退いて、奴から距離をとってしまう。
俺が踏ん付けたのは、いつの間にか身の回りに落ちていた頭1個分くらいある黒いブロッコリーだった。
何なんだよ、さっきから見かけるこのブロッコリーは。
しかも、黒いし…。絶対腐ってるだろ。
ーー 新庄篤史。彼自身は全く気づいていなかったが…。
てか、寒くね? 急に冷えてきたんだけど。全身の鳥肌はヤバいって。
そう思った矢先、俺の真後ろから囁くような声が聞こえてきた。
ーー 彼を目にも留まらぬ黒ブロッコリーの襲撃から守ったのは…、
朧月「大丈夫……?」
「うおっ!? ビックリさせんなよ!」
ーー 神出鬼没の恐霊、ナイフを片手に持った朧月 悠だった。
朧月「ごめん……。でも………危なかった」
いったい何処から……いや、いつ俺の後ろにいたのか全くわからねぇな。
まぁ、悪気はなかったみたいだし謝ってくれたから許してやるよ。
暗い表情をしている背の高い彼の肩に俺は手を置いた。
「気にすんなって! ビックリしただけだからよ」
つか、なんでこんな鳥肌ヤバいんだ? 一気に冷え込んだよな。
俺の返事には反応せず、彼は悶絶しているPlantに目を向ける。
朧月「君の周りを……守るから……。君はそれで……あいつを」
彼は風に掻き消されそうな声でそう言って、Plantを指さした。
細かいことはわかんねぇけど、協力してくれるってことだな。
コーラ男の言っていた特質ってので助けてくれる感じだろう。
まぁ、何であっても、1人で戦うより2人で戦ったほうが良いに決まってる!
「ありがとうな! こんな人殺すような奴ら、ぶっ飛ばしてやろうぜ!」
俺は左手を顔の前でぐっと握り締めた。
ずっと暗い表情だった彼は、若干だけど笑ったような気がする。
朧月「朧月………悠。念の為…………名前を……言っておく」
「新庄篤史だ! よろしくな………………悠!」
ごめん、苗字なんだけど、風で掻き消されて聞こえなかった。
朧月「うん………行こう。僕は…………後ろから援護する」
俺は悠の言葉と力を信じて、Plantの元へ駆けだした。
P「あぁ、さっきから痛ぇよ。マジで……ぶっ殺してやる!」
奴の怒声がこのリング内に響き渡る。
そして、奴は左手の指も全て地面に突き刺した。




