合流 - 文月 慶⑪
皇がUndeadを煽ってから暫くの沈黙が流れた。
自我のなさそうな奴の増殖体ですら、空気を読んでいるかのように固まっている。
仮に奴らが恐怖して動けないのだとすると、それはあの3人の中のあいつが原因だろう。
全身に血を被った新庄篤史。僕が今まで造ったものの中では最強の破壊力を誇る金属バット“轟”を扱える人間。
こいつのことは元々好きではなかったが、久々に彼を見て印象は更に最悪なものとなった。
あの返り血はいったい何だ? まさか人を殺したんじゃないだろうな?
そして、小柄だが強者のオーラを放っているもう1人は…、
鬼塚「え……お父さん?」
僕の隣にいる鬼塚の反応からして、彼の父親で間違いないだろう。
思わぬ助っ人に僕は口元が緩む。
鬼塚が最強の特質を持っているなら、その父親も恐らく同等の強さを秘めているに違いない。
まぁ、親子揃ってメンタル的な問題があるかもしれないが…。
3人は横並びになって立っている。その後ろには彼の父親が運転したと思われる軽自動車が。
僕から見て左から……脳筋不良の新庄篤史、直感の皇、鬼塚の父親といった具合だ。
U『う~ん、どうやったのかはわからないけど残念だったね!』
ブチブチブチッ!
冥漿紅峠の頂上にいるUndeadはそう言って、左手で右腕を掴んでもぎ取った。
皇を追わせる際にもぎ取った左腕とは反対の右腕。
基本、奴ら“EvilRoid”には1体につき1つのコアがある。
それを破壊さえできれば、たとえ無敵のDestroyでも機能を停止させられるわけだ。
ただ、Undead本体の場合は例外だ。
奴はもぎ取った自身の右腕を真下に落とした。この時、既にもぎ取った右腕は再生している。
U『さぁ、第2ラウンドだよ! 精々、がんばってね♪』
皇たちに分離体を再び仕向けるつもりだろう。
奴の右腕は、落下中に先ほどと同様にぼこぼこと細胞分裂のようなものを繰り返し、Undeadと全く同じ姿に変化。
そして、冥漿紅峠の中に着地すると同時に、皇たちがいる方向へ走っていった。
U『あ、君たちも動いていいよ』
奴がそう発言した瞬間、硬直していた増殖体が一斉に動き出し、的場たちに襲いかかる。
的場『休憩終わりかよ! ランダムヘッドショット!! ノオオオオォォォォン!』
機関銃乱射を再開する的場。
男虎『あまりに短いハーフタイムだったなぁ! 灰燼・腥風の構!』
龍風拳特有の構えをとり直し、竜巻を発生させる男虎先生。
皇たちが合流し、人が増えている。今度は失敗しないでくれ…。
的場はたまたま助かったが、生身の新庄や皇を竜巻に巻き込むと死ぬ可能性がある。
剣崎『2人を援護する必要は無さそうであるな。ならば自分の身を守るのみ! 刻裂真剣!』
剣崎はどっしりと構え、近づいてくる増殖体たちを粉々に切り刻んでいった。
D『待ちなさい! 彼らは1度、分離体を撃破しています。同じことをしたところで…』
増殖体に埋もれて姿は見えないが、Destroyの声が僕のイヤホンに届く。
恐らく分離体を皇たちに仕向けたUndead本体に言っているんだろう。
だが、峠の頂上にいるせいでDestroyの声が届いていないのか、奴はにこやかな表情で、彼らに迫っていく分離体を見つめている。
P『おい、チビ野郎! 兄貴の言うことが聞けないのかぁ?!』
こいつも埋もれていて何処にいるのかわからないが、久々に声を聞いたな。
逃げる気のない僕らの隔離といった意味のなさすぎる役割のせいで存在を忘れるところだった。
ガキ大将の取り巻きみたいな発言をするPlantの小物感は否めない。
皇、お前はいったいあの不死身の化け物にどう対応した?
Undeadはたまたま逃げ切れたとしか思ってなさそうだが、僕は何かしらの方法で1体目の分離体を倒したと思っている。
U2『成体変化・鉤爪』
分離体は走りながら、手の指の先端を赤黒い鉤爪のような形に変化させた。
さぁ、見せてもらうぞ。
皇、お前の戦い方を…。
まぁ、完全に放任するのは不安だから鬼塚を向かわせるつもりだ。
「鬼づ……」
隣にいる彼に声を掛けようとしたが、言葉が詰まってしまった。
鬼塚「お、おおお父さんが………お父さんが来た……」
鬼塚が頭を抱えてその場に屈み込み、身体を強く震わせながらぶつぶつと呟いていたからだ。
おい、嘘だろ…? 実の父親が来たくらいで戦闘不能になるのか?
最強の親子が揃ったことで勝利を確信しつつあったんだが…。
参観日に親に来られるのが猛烈に嫌な性格なのか、それとも厳しい教育を受けてきてただただ怖がっているのか。
理由はわからないが、ふざけないでくれ。君を治療するのにどれだけ掛かったと思っている。
皇『おいおい、まさかとは思うけどよぉ♪』
あの癇に障るいつもの口調の皇の声が聞こえて、僕は鬼塚からグラウンドの方へ視線を移した。
分離体の身体能力も不知火の成体並だ。常人の走行速度を超える速さで走り、もう彼らのすぐ近くまで迫っていた。
3人とも焦っている様子はない。
血まみれの新庄は、金属バット“轟”をバッターのように構えて分離体を見据えている。
そして、皇は奴に背中を向けた。
今まで身体で隠れて見えなかったが、あいつのすぐ後ろには青色のバケツが置いてある。
皇はそのバケツを両手で持ち上げ、目の前まで来ていた分離体に……、
皇『同じやり方で殺せるとか思ってねぇよなぁ、クソチビィ♪』
中に入っていた透明の液体を思い切りぶっ掛けた。
そして、すぐさまあいつは後ろに飛び退く。
皇『やれ、新庄!』
その液体が何なのか大方予想はついた。
現在、2月の真冬。恐らくあの液体は、新庄の家から調達している。
越冬に欠かせない必須の液体…、灯油だ。
どうやら分離体は何をかけられたのかわかっておらず、お構いなしに新庄へ鉤爪による攻撃を繰り出した。
その攻撃は目で追えない速さだったが…、
新庄『ホームランスイング!!』
新庄による金属バット“轟”での脳死のフルスイングを前には意味を成さない。
鉤爪は腕もろとも焼き切られ、奴の身体にバットが命中。
ドッ…………!
次の瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの爆音と共に燃え盛る炎が舞い上がった。
分離体の身体は跡形もなく飛び散り、球状のコアが剥き出しの状態に。
その様子を一部始終見ていた鬼塚の父親らしき人物は、真顔で炎に近づき銀色のコアを手に取った。
何の感情もなさそうな真顔から興味津々な表情へ変わり、まじまじとコアを見つめている。
皇『あの、壮蓮さん! 早くそれ壊してください! 血針っていうクソみてぇな技飛んでくるから!』
珍しく焦った顔をして鬼塚の父親の名前を呼ぶ皇。
なるほど、壮蓮と言うのか。
あいつの焦る姿は気味が良い……とか言っている場合じゃない。
奴の言っていた血針と言う技は僕も知っている。
粉々に刻まれたとき限定だが、不知火が剣崎に対して使ったことのある技。
分離体も恐らく同様の技を使ってくるようだ。
細かく飛び散った奴の血肉は不自然に浮遊し、彼ら3人を球状に囲い込む。
早く破壊しないと、壮蓮さん以外は死んでしまうだろう。
皇『クソッ……なんで直立不動なんだよ! 魂抜けてるんすか、壮蓮さん!』
壮蓮さんは鬼塚の父親で間違いない。
直立不動は鬼塚家のDNAに刻まれている。
不自然に浮遊していた分離体の血肉は一斉に3人へ迫っていった。
皇『壮蓮さああぁん! クソがああぁぁぁ!』
新庄『おっちゃん! 何してんだよ!』
「壮蓮さん! 早くそれを破壊するんだ!」
彼らの絶叫と同じタイミングで僕もイヤホンに手を当ててそう叫んでいた。
直立不動とかいうしょうもない理由で死者を増やしてたまるか。
壮蓮『………は! すまない。これは……ダイヤモンドか?』
皇『早く壊せえぇぇ!!』
無数の血針が直前まで迫る中、彼は金銭欲にまみれたような表情で首を傾げていた。
皇の声にようやく危険を察知して、彼はコアを握り潰す。
まさに危機一髪。
彼らの肌に触れるかどうかの瞬間に、血針の効力はなくなり3人は分離体の血を全身に浴びることになった。
皇『これで3人とも殺人犯みてぇになったな。1歩間違えたら被害者側になってたぜ…』
壮蓮さんを見ながらそう語るあいつの目は史上最大級に冷ややかだ。
そんな眼差しを向けられる彼は潰れたコアをポケットに仕舞いながら、もう片方の手で頭をぽりぽりと掻いた。
壮蓮『すまない。全壊した体育館の損害賠償、まだ払い終わってないんだ。目の前のダイヤモンドに思わず目が眩んでしまった』
眩んでしまった? いや、現在進行形で眩んでいるだろ。
しれっとポケットに入れたのを僕はしっかり見ていたぞ。
U『キィーー! 何あれ、意味わかんないんだけど!』
まさか瞬殺されるとは思ってなかったのか、黄色い声を上げて歯を食いしばった。
何も考えずに分離体を送るからそうなるんだ。1体目がやられている時点で、同じことが繰り返される可能性を考えるべきだったな。
奴は両腕の肘から手の先までを赤黒い剣のようなものに変化させ……、
シャキンッ!
自身の両足を切り落とした。
両足は落下し、奴の上半身は一瞬だけ宙を舞うが、すぐに再生して棘の先端に掴まる。
D『何を……! Undead、無駄に消耗するのは止めなさい!』
U『1体で無理なら2体で殺す!』
やはり、Destroyの声は峠の頂上まで届いていない。
いや、届いたとしても冷静さを欠いた今のUndeadは言うことを聞かないだろう。
奴は彼の指示を聞かずに、2体の分離体を皇たちの元へ向かわせた。
Destroyの言っていた無駄に消耗するなとはどういうことか。
さっき、僕はコアについて説明したな。1体につき1つのコアが存在すると。
だが、Undeadだけは例外だ。
奴は頭、胴体、右腕、左腕、右脚、左脚の合計6カ所にコアがある。
これら全てのコアを破壊しないと、Undeadを倒したことにはならない。
あの2体が皇たちに破壊される前提で話すとすると、奴のコアは後、頭と胴体の2つだけだ。
鬼塚家の血を引く壮蓮さんと対峙する時点で、分離体に勝ち目はない。
僕は思わずニヤリと笑い、皇に向かってこう言った。
「皇、そいつらを処理しろ」
的場たちと交戦している増殖体の群れの中を走り抜け、2体の分離体は彼らの元へ。
壮蓮『金が……金がやって来る』
ダイヤモンドに目が眩みまくっている壮蓮さんが皇と新庄を差し置いて前に大きく出る。
自分の出る幕はないと思ったのか、皇は軽自動車のドアを開けて助手席に座り込み、ポップコーンとコーラを食べ始めた。
1体はある程度、距離のあるところで留まり、地面に手を着く。
もう1体の方はまだ走り続け、壮蓮さんに迫っていった。
U3『成体変化・冥漿紅峠』
U4『成体変化・趨豹跳虎』
ドドドドドオオオォォォォン!!
手を着いた分離体の前方に大きな赤黒い棘が炸裂し、壮蓮さんに迫っていく。
もう1体の方は、手足を獣のような形に変化させ四足で走りながら、後ろから来た赤黒い棘を避けるように真上に飛躍した。
壮蓮『大人しくダイヤを寄こせ』
奴ら分離体の前に仁王立ちしている彼は低い声でそう言う。
こんな危機的状況におかれても、彼はコアを纏ったダイヤのことで頭がいっぱいのようだ。
そもそも鬼塚家の連中からすると、大して危険な状態というわけでもないのか。
彼は右手に拳を作り、目の前に勢いよく生えてきた棘に向かって軽く突き出した。
壮蓮『壮撃』
とんっ……
バキバキバキバキバキ……!
殴るというよりは、軽く当てるといった感じだろう。
彼の拳が目の前の棘に触れた瞬間、全ての棘は粉砕し、呆気なく崩壊していった。
皇『ヒャッハー♪ 迫力満点! これがマジの4D映像だぜぇ♪』
車のドアを開けたまま、助手席に腰を掛け、ポップコーンとコーラを堪能しながら盛り上がっている皇。
やることないなら、さっさと帰った方がいい。巻き添え喰らって死んでも文句は言うなよ。
冥漿紅峠を繰り出した分離体は、驚いたような素振りをしつつも次の攻撃に移行する。
右手で左腕をもぎ取り、もぎ取られた左腕は赤黒い槍のようなものへと変化。
Undeadがゴリラの獅子王に使った技と同じものだろう。
U3『成体変化・凝棘!』
シャッ! チクッ…。
そう言い放ち、壮蓮さん目がけて槍を投擲する分離体。
槍は凄まじい速度で一直線に飛んでいき、彼の左胸へ見事に命中したが…、
壮蓮『懐かしい。乳首当てゲームか。すごい、1発目で大当たりだ』
案の定、全く効いていないみたいだな。
本来なら槍が心臓を貫通し、絶命していただろう。
左胸に当たった赤黒い槍は虚しくも地面に転げ落ち、壮蓮さんは感心したような声を出しながら胸をさすった。
そして、先ほど真上に飛躍したもう1体の分離体がすかさず攻撃を仕掛ける。
Undead本体が自身の両脚を切り落としたときに使った成体変化と同じものか。
U4『成体変化・黒腫刀!』
奴は肘から手の先までを剣の形に変化させ、上空から壮蓮さんに向かって振り下ろした。
カキンッ!
U4『…………え?』
2つの刃は彼の頭に命中したが、あまりの硬さに刀の方が真っ二つに折れてしまう。
これも本来なら頭から足の先まで両断できていたはずなんだろうが…。
ここまで歯が立たないのを見ていると、敵味方関係なく不憫に思えてくるな。
壮蓮『これもまた懐かしい。真剣白羽取りか。よく遊んだものだ』
そもそも彼に攻撃されているという自覚はあるのか?
壮蓮『だが…悪いが遊んでいる暇はない。
__壮撃』
バキッ!
彼は黒腫刀を振り下ろした分離体の左胸を右手で貫いた。
奴の身体を貫いた右手には、壮蓮さん待望のコアが掴まれている。
それを握り潰してから右手を引き抜き、動かなくなった分離体を投げ捨てた。
そして、何食わぬ顔で先ほどコアを入れた方とは逆のポケットにそれを仕舞う。
よほどギリギリの生活をしているみたいだな。
ボコッ! ボコボコボコボコボコボコ……!
突如、もう1体の分離体の身体がぼこぼこと細胞分裂らしきものを開始した。
細胞分裂でできた新たな脂肪に口元が覆われる寸前、奴はこう告げる。
U3『成体変化・大食漢』
見る見る分裂は加速し、人型の原型を留めることなく肥大していった。
最終的にどんなものになったかと言うと…、スライムのような粘り気のある巨大な肌色の物体。
全長、全高ともにおよそ5メートルは優に超えるだろう。
これといった形はなく、固体と液体の中間のような物体だ。
この成体変化の名前が、なぜ大食漢なのかを理解するのに時間はかからなかった。
スライム状のあの物体から、無数の手のようなものが出てきて壮蓮さんの元へ向かう。
あまりの速さに反応できなかった……いや、反応する気のなかった彼は四肢を掴まれ身動きできない状態に。
いや、身動きできないというよりは抵抗する気がないようにも見えるが…。
壮蓮『これは、遊びではない? ついに殺しに来たか』
彼は無数の手に掴まれた自身の身体を見てから、前方にある肌色の巨大な物体を睨みつけた。
最初から殺す気満々だったと思うが、あれほど力の差があればわからないのかもしれない。
そして、肌色の物体は無数の手で捕らえた壮蓮さんを自身の元へ引き寄せる。
ある程度、引き寄せたところで彼に向いている面の場所に切れ目が入り、人間の口のように大きく縦に開かれた。
良いのか…? そんなものを食って…。腹を壊すどころの話じゃすまないと思うが。
壮蓮さんはその物体の中に興味があったのか、それともコアを覆うダイヤモンドを探すためか、抵抗することなく呑まれてしまった。
大きく開いた口のようなものは完全に閉じてしまい、切れ目も見当たらないためもう外側から助けることは難しそうだ。
新庄『お、おい……おっちゃん』
ここまで余裕な雰囲気だったために傍観していた新庄も、流石に心配になったのか1歩前へ踏み出した。
金属バット“轟”であの物体を破壊し、助けようか思案している様子だ。
皇『動くな殺人犯。キモくなったら俺が言ってやるぜ』
助手席に片足を上げて座り、ポップコーンを頬張りながら新庄を制止する皇。
“キモい”というあいつ特有の感覚はいまいちわからないが、皇の直感的には、壮蓮さんは無事らしい。
直感関係なく、鬼塚家の者ってだけでまず負けることはないだろうと僕も思う。
新庄『で、でもよぉ……』
新庄は奴の直感を信じられないみたいだ。
彼が後方の車に乗った皇と、前方にある肌色の物体を交互に見ていると…、
ドーンッ! ドーンッ!
それはいきなり大きく跳ね出した。
食あたりでも起こしたか? 心なしか苦しんでいるようにも見える。
何度か大きく跳ねていたが、徐々に跳ねる高さも小さくなっていき、最終的には動きを止めた。
グラウンドの中央付近で的場たちが増殖体と交戦している最中、こちらではひと時の沈黙が流れる。
ぐちゃっ……
動きが完全に止まった肌色の物体は内側から引き裂かれ、中から潰れたコアを持った壮蓮さんが現れた。
壮蓮『あれだけ広いと探すのに苦労するな…』
粘液のようなもので若干ベタついている彼は苦言を呈しながら、当たり前のようにコアをポケットに仕舞う。
U『きぃええええぇぇぇぇぇぇ!』
“EvilRoid”に感情があるのかは定かではないが、峠の頂上にいたUndead本体は頭を抱え、上に向かって奇声を上げた。
呆気なく自身の分離体が破壊されたことへの悔しさからかはわからない。
ドオォォン!
またか…。今度は何の音だ? これまでの音と比べると少し小さい気がするが。
よく目を凝らすと、Undead本体が峠の頂上で落下はしないものの項垂れている。
D『凶撃。これ以上、消耗されると本当に困りますので機能が一時停止する程度の風圧を加えました。私があの者を抹殺するまでじっとしていてください』
なるほど、また奴が動いたのか。変わらず大量の増殖体に紛れてどこにいるのかわからないが。
流石は機械、鬼塚と違って力加減は完璧か。少しでも加減を誤れば奴は跡形もなく消し飛んでいただろう。
当の鬼塚は、父親の出現が原因で未だに戦闘不能。
クソッ…、鬼塚とその父親が協力して戦えれば、Destroyを打倒できるだろうに…!
説得するしかないのはわかっているが、戦う気のない鬼塚を動かすのは至難の業だ。
D『Plant、この場にいる彼ら全員に逃亡の意思はないようです。隔離は止めて、あの技に移行してください。私はあの者を討ちにいきます』
奴の声が再びイヤホンを介して聞こえてくる。
ついに役割のせいで存在感が薄かったPlantも動き出すのか。
隔離は止めて奴も攻撃にシフトしてくるだろう。増殖体の処理に手いっぱいな状況でそうなるのはまずい。
予想できる技が1つある。
樹神の特質で最も殺傷能力の高いのは、血戦革命だ。
それに相当する、あるいはそれを凌駕する技を繰り出してくるに違いない。
P『へいへ~い、兄貴ぃ! 任せてくだせぇ!』
今まで暇だったのか、新たな役割を与えられたPlantは少し嬉しそうな声色でこう言った。
P『黒花帝国・闇骸一揆』




