代行 - 皇 尚人②
「ねぇ、新庄篤史、知ってる~?」
何なんだ、こいつは? 見た目は不知火だが、本人じゃねぇ。
あぁ、もしかして今回の敵はドッペルゲンガーってことか? 面白そうだが、さっきから俺の直感が逃げろって言ってるんだよな。
こんな奴無視してさっさと新庄のところへ向かいたいが、そう簡単にはいかねぇか。
はぁ、仕方ない。俺の圧倒的トーク力で何とかしてやるよ。
俺は余裕そうな態度を取り、目を見開きニヤリと笑ってみせた。
「逆に、お前はどこまで知ってる? 後、俺の質問に答えろ。お前はドッペルゲンガーかぁ?」
これぞ、皇流話術・会話主導権略奪“逆に質問返し”だぁ♪
相手からの質問に、“逆に”をつけてそのまま返すことで会話の主導権を強引に握ることができる。
後は俺が質問攻めをし、相手が答えることしかできなくなれば完全にこっちのものだ。
奴は厨二臭いコートのポケットに手を入れたまま、空の笑顔を作って答えた。
「うーん、テキストしか知らないんだよね~。特質とかはわかるけど顔は曖昧なんだ。後、僕はドッペルゲンガーじゃないよ? 僕は、“EvilRoid - Undead”の左腕から分離したものだよ!」
Undead…、よくわからねぇが、こいつに新庄の居場所を教えるべきじゃないな。
直感がどうかとか関係なく、得体の知れねぇ奴に教えるのはヤバいだろ。
顔とかはよくわかってないみたいだし、俺が案内しない限り、こいつが新庄を見つけるのには時間がかかるはずだ。
「そうか、それは残念だなぁ♪ 俺も新庄とかいう奴のことは知らない。用はそれだけか? 俺は急いでるから行くぜ?」
先に俺が新庄の家に行き、こいつが敵ならあのバットで潰させる。その作戦で行くぜ。
不知火もどきの横を通ろうと、俺は自分のチャリを前に押した。
キモいが、こいつの前を通らねぇと新庄の家には辿り着けないんだよ。
正直、心臓バクバク言ってるぜ。嘘がバレたら殺しにくるかもしれない。
だが、俺のポーカーフェイスは完璧なはずだ。ましてや人間でもないよくわからない奴に見抜かれるほどやわじゃない。
U「そっか…。じゃあ、こうする!」
クソッ…、キモっ!
こいつとすれ違う際に感じた絶妙なキモさ。それに身体が反応し、チャリを手放して後ろに飛び退いた。
シャッ……!
ほとんど反射的な行動だったせいで、俺は体勢を崩して地面に尻餅をついてしまう。
そして、尻餅をつくかつかないかのところで、手放したチャリが縦真っ二つに切れて地面に倒れ込んだ。
ドサッ!
痛ってぇ! アスファルト硬すぎだろ!
チャリの近くで腰を落とし、右腕を縦に振り下ろしたと思われるUndeadの手足の指は、細くて鋭い鉤爪のように変化していた。
U「成体変化・鉤爪」
こいつ、ただ死なねぇだけのモブキャラじゃなかったのかよ!
考えてる暇はない。早く立たねぇと次が来る!
倒れたチャリの目の前にいた不知火もどきが、一瞬にして俺の目の前に……っていうキモさが身体を駆け巡る。
立ち上がる余裕はなく、尻餅がついた状態から四つん這いの体勢に変えて地面を蹴った。
シャッ!!
いつも通り、俺の勘は見事に的中。
「クソが、キモいんだよ!」
動きを見てから反応なんて鈍くさいことしてたら、俺は死んでいただろうな。
奴の鉤爪は、俺が尻餅をついていた場所に振り下ろされた。
U「あれぇ? なんで避けれるの? もしかして君、特質持ってる? どの人なんだろう」
手足が元に戻った奴は、鉤爪を振り下ろした時の体勢のまま、こちらを向いて首を傾げる。
ちなみに、鉤爪に変化する際、靴が張り裂けて足は剥き出しになったはずだが…。
なんでかその靴も元通りだ。
おいおい、それが元に戻るんなら、チャリも戻せよクソチビ。
今、こいつに殺意と言う名のキモさはない。やっと話し合う気になったのかぁ?
だったら、ちょっと言わせてもらうぜぇ♪
俺は腹這いになっている身体を起こし、奴と向き合った。
「お前、チャリぶっ壊してんじゃねぇよ! 明日のバイト、明後日からの学校、歩いて行けってか! お前、人間じゃなさそうだが、弁償できる金あんのかぁ?」
U「アハハハハハッ!」
俺が怒鳴ったのが面白かったのかしらないが、奴は腹を抱えて大きく笑う。
今、気づいたがこいつも若干人工物のようなキモさがあるな。あの世界ほどじゃないが。
見た目は人間だが、誰かに造られた物ってことか?
笑いがおさまった奴は、真顔になり再び殺意を放ってきた。
U「面白いことを言うんだね! さっき決めたんだ。新庄篤史と彼を連れてくる人間が誰かわからないから、今この町にいる人間全てを殺して回るって♪」
ハハッ、マジかよ♪ こいつ、かなりのゲスじゃねぇか。
こういう奴、俺みたいなまともな常識ある人間には全く理解できないぜ。
なるほど…、俺たちパンピーをあの世界に送り込んだのはこいつが理由か。
なら文月、今回は見逃してやるよ。お前の校章は捨てないでおいてやる。
こういう頭おかしいのがいたら、パンピー匿うのが当たり前だよなぁ♪
俺は不知火もどきを指さし、定番のあの笑顔を作った。
「誰が誰を殺すだってぇ? お前は俺に負けるんだよバカヤロー!」
あのキモい世界にいたときとは違い、俺は今すこぶる冷静だ。口から出任せで喧嘩を押し売りしてるわけじゃねぇ。
これは意図的に煽ってるんだよ。
今、背中を向けて新庄の家まで走ってもあの速さじゃ追いつかれてしまう。
だから、あえて相手を煽って攻撃させる。
乗るかどうかは奴次第だが……、
U「うぅ~! ムカつく~! 死ね、殺す!」
クソガキは単純だから乗るだろうなぁ♪
奴は両手に拳を作って歯を食いしばり、わなわなと震えている。
あぁ、キモさ全開…。来るぞ…。
奴の身体に変化はないが、直感通り人間離れした瞬発力で詰め寄ってきた。
俺はさっきの縦に爪を振り下ろす攻撃を警戒し、右側に身体をずらす。
だが、鉤爪とは違うみてぇだな。
奴は人並み程度のジャンプ力で跳び上がり、右腕をピンと伸ばした状態で拳を作った。
U「成体変化・巨礫鎚」
奴の拳は丸く膨張し、赤黒く変化する。大きさは樹神のアフロ1個分くらい。かなりデカいってことだ。
その無駄にデカくて重そうな拳が弧を描くように上から振り下ろされた。
だが、俺は既に身体をずらしていてその攻撃は当たらない。
さぁ、後は反撃だぁ♪ お前の顔面、ぶん殴ってやるぜ……って言いたいところだが。
奴のアフロみたいな拳は空を切り、地面に叩きつけられようとしている。
ハッ…、なるほどな。だから、そんなところもキモかったのか。
地面と奴の拳が触れる直前、俺は足に力を込めて跳び上がった。
ズドオォォン!
地面には円状の亀裂が入り、ぱっと見でもわかるくらい震動する。同時に俺は空中で左手に拳を作り、肘を目いっぱい引いた。
U「へ? なんで……?」
お前も充分キモいんだがなぁ………、
「地面もキモかったんだよ、バカヤロー!」
限界まで後ろに引いていた俺の拳は、唖然とした奴の顔面を思い切り打ち抜いた。
バキッ!
奴の身体は吹き飛び、大の字になるようにその場に倒れ込む。
赤黒く変化した拳はかなり重かったみたいだ。地面に食い込んだまま動くことはなく、奴の右手首から引き千切れる形となった。
さてと…、ようやくやりたいことができるぜぇ♪ 手間取らせやがって。
俺がしたいのはただ1つ。
それは…、
こいつから逃げること。
俺は新庄の家の方向へ向かって走りだした。
1発ぶん殴っただけで倒せるような相手とは思ってない。奴がダウンしている間にあいつを呼びに行くんだよ。
あの金属バットさえあれば、何とかなる。
てか、左手クソ痛ぇな。人の顔面て思ったより硬いんだな。鎮痛剤があれば今すぐ飲みたいぜ!
あのとき、なんで跳んだかって? 多分、跳ばずに避けただけなら俺はやられていただろう。
奴も真のバカじゃなかったってわけだ。躱されても問題ない攻撃を繰り出した。
あの一撃は鉤爪と比べて瞬発力はないものの、かなり重々しく威力がある。
地面に接触した瞬間、普通の人間だと転倒しちまうレベルの震動が起こるだろう。
それを直感で察した俺はジャンプしたってわけだな♪
まぁ、解説はこのくらいにしておこう。
奴が目覚める前にできるだけ距離を……ってマジかよ。
目覚めるの早すぎだろとか足が速いって感じの話じゃねぇ。
さっき地面がキモいって言って跳び上がったんだが…。
そのとき以上のキモさが、それも俺の周り全体に…。全てを呑み込もうとする黒い何かが、俺の足元を中心に広がっていくような感覚に襲われ、背筋が凍りつく。
こういったキモさは、今まで感じたことがない。死に対する恐怖か何かかぁ?
何かが足元からやって来るのはわかるが、こんな広範囲どうしようもねぇだろ!
あまりの恐怖に幻聴が聞こえたのかもしれない。後方から微かにだが、奴の声が聞こえた気がした。
U「成体変化・冥漿紅峠」
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