1日目 - 文月 慶①
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「忠告はした。それでは、3日後に。後、壊してもいいと言ったが。耐久テストであらゆる銃火器を試したが傷一つ付かなかったので戦うより逃げたほうが賢明だと思う。それではよろしく」
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制服のまま家を飛びだしてこの秘密基地へ。
ここは山奥、誰も見つけられないところにあるとだけ言っておく。
学校に鬼を送り込んでから30分。
この短時間でほとんどの生徒を確保。素晴らしい、上出来だ。まさかここまで上手くいくとはな。
樹神、お前には感謝するよ。お前が叫ばなければもっと手こずっていたかもしれない。
ちなみにこいつが叫んだのは予想外だ。こいつは計画に加担しているわけではない。
残るは後数名。奴の“叫び”に耐えた奴、聞こえなかった奴。そして今日、休んでいる奴が2人と行方不明が1人。
今日中に全員捕まえたいところだが、休んでいる奴は仕方ない。この鬼ごっこは3日続く。
学校に来たときに捕まえればいい。幸いなことに2人しか休んでいないからな。
1人は明日、捕まえる。もう1人は……。
放置だ。あいつを捕まえるなど絶対に不可能だ。
そもそもあいつがいないこの時を狙って計画を実行したんだ。
行方不明の奴ももういい。人質が1人くらい減っても大差ないだろう。
さて、“叫び”を聞かなかった奴らを捕まえるか。このロボット…この鬼はある程度、僕が操作している。
どうやってだって?
計画を実行する前に、空中で浮遊する球状の超小型カメラを町中に配置した。蟻くらいのサイズしかないが360°超高画質で映る。
吉波高校の生徒が映ったときに知らせてくれるセンサー付き。
このカメラ越しに状況を確認して、鬼たちに指示を出しているというわけだ。
“叫び”を聞かなかった奴らの中には変人みたいな生徒がいた。
『モヒカッター! モヒカッター! あれ? 今日は調子悪いのか? こういうときに限って出ないぞ! 絶体絶命のピンチだ!』
例えばこいつ。
自身のこめかみ辺りに手を添えて振り下ろすと言う不審な挙動を繰り返しながら叫んでいる。
いや、マジで何をやっている? モヒカッター?
“モヒカン”と“カッター”を合わせているのか? ただのスポーツ刈りにしか見えないが…。
確かハッキングした学籍簿のデータによると…。
こいつの名前は、立髪 斬斗。
名前が名前だから勘違いしたんだろうな、可哀想に。
「捕まえろ」
普通に捕まった。2体の鬼に腕を掴まれ、カプセルの中に入れられようとしている。
『お! 何だ? このカプセルは? 痛い? 痛いのか? なぁ! 怖いぞ? 痛いと怖いぞ!』
うるさいな。別に痛くないから大人しくしてくれ。
このカプセル型の転送装置も僕が造った。小型化して持ち歩くことができ、転送したいものに応じて大きさを変えられる。
僕は発明家だ。自分で言うのもあれだが、才能はあると思っている。
僕の発明を否定したり奪ったりする奴は誰であっても許さない。
『あぁ、我が崇高なる堕天使シリウス様! いつものように私に飛ぶ力をお貸しください!』
こいつは恐い。さっきからずっと両膝を地面について天を見上げ、訳のわからないことを叫んでいる。
日下部 雅。
今は窮地に立たされ、情けない姿を晒しているが…。普段のこいつはもっと大人びていて落ち着いた雰囲気を持っている。
悪く言いかえればキザな奴、気取っている奴と言った感じか。
こいつは小学校のときからの同期だ。こんな気の狂ったことを言う奴ではないはず。
なんでこうなった?
飛ぶって何だ? 人間が生身で空を飛べるわけないだろう。
非現実的なことが目の前で起きて、おかしくなってしまったのか? そうだとしたら僕の責任だ…。申し訳ない。
『やはり芋ですか? 芋を食べないとオナラは出ないのですか? 教えてくださいシリウス様!』
「……。捕まえろ」
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今日中に捕まえるのは後2人か。
水瀬、お前は校門を出て外に逃げることができた唯一の生徒だ。
あの至近距離で“叫び”を喰らったにも関わらず走り続け、逃げのびた。
だが、町中にカメラを配置している。学校内にいないお前を追うのはもう1人の後だ。
今、カメラに映し出されている生徒の名は、新庄 篤史。
鬼に完全に囲まれ、逃げ場を失っている。
何ヶ月切らなかったらそうなるってくらいの長髪に、何故か破けている着崩された制服。
鬼を睨みつけるあの目は、人を殺す直前のものに近いだろう。
奴は、典型的な不良。そして、いつも金属バットを持ち歩いている。
あれで何人殴ったのだろうか。言葉の通じない暴力脳筋野郎は大嫌いだ。
“叫び”に巻き込まれて倒れていたが、順番が最後になったため回復して立ち上がっている。
しかし、学校に送り込んだ全ての鬼に囲まれているあの状態はほとんど捕まえたようなものだ。
あいつをこちらに転送した後、水瀬を追わせる。
計画はとても順調だ。何も起こらなければ良いが…。




