友人、神の力を手に入れる①
あぁ、滾る全能感。
完全に適合したことを知覚する。これで我は人間から真の神に。この世界に存在する全てを掌握した。
物体に限らず【時間】【空間】【事象】【精神】【生命】など。今、この世界のあらゆる要素が我が手にある。
「**、今すぐ神の力を放棄して投降しなさい! どちらにしても神を取りこむなんて人間の身体じゃ持たないわ!」
後方から女の声がして、我は振り返る。**とは我の名のこと。
確かに普通の人間の身体では持たないのだろう。だが我は選ばれた存在なのだ。
そして、彼女──御門伊織は我が神を取りこむきっかけになった者。
「投降しないなら、力づくであなたを殺して神を取りだす」
ほぉ、面白いことを言う。人間風情が我に敵うとでも?
彼女の後ろにいる10人。“BREAKERZ”と呼ばれる不届き者の集まりだ。彼らは我が人間だった頃の友人でもある。
確かに今、地球上で我を討ちとる可能性が最も高いのは彼らに違いない。それは認めよう。
“BREAKERZ”が我の元に来る前、世界中の軍隊が集結し一斉にかかってきた。
世界中の人間が団結すること。これは我の大いなる目的の1つ。
我自身が人類の脅威になることでそれは達成されたのだ。
しかし残念ながら世界中の軍隊が団結しても我の足元には及ばなかった。あのときは完全に適合していなかったにも関わらずだ。
「良いだろう。全力でかかってこい、我が友人たちよ」
我は彼らにそう言い放ち、手を天に掲げる。
見せてやろう、神と人間の絶望的な差を…。
「投降する気はないのね…。BREAKERZ、彼を止めてください。どうかお願いします……」
彼女が頭を下げると、彼らは1人を除いて一斉に向かってくる。
君たちがどれくらい持つか楽しみだ。
我はそのまま指を鳴らした。乾いた音が響き渡り、我の頭上に黒い球体が現れる。
誰もが知っているであろう物質。突然の出現のため理解しがたいかもしれないが、これは紛れもなくブラックホールだ。
壮絶な引力で地表を抉り、彼らを含めた付近の物体全てを呑み込もうとしている。
これに対抗できなければ我の勝利だ。我は手加減をしない。刃向かってきたものには容赦なく罰を与える。
「まずい! このままじゃ全員、吸い込まれる」
「大丈夫。僕が何とかする。これを止められるのは多分、僕だけだから…」
正義感の強い男、景川慧真。これを食いとめようというのか。我に対して1番戦力にならない君がこれをどう対処する?
他の者たちが必死に彼のしようとしていることを止めようとするが、彼はそれを振り払い、ブラックホールに自ら接近した。
「ふおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
何をしている? 素手でとめようとしているのか?
彼は吸い込まれることも身体が分解されることもなく普段の地声より1オクターブほど高い断末魔の声を上げながらブラックホールに触れている。
不思議な現象だ…。
「み…ん……な……後は……頼ん…だ」
彼はそう言い残し、ブラックホールと共に消滅した。
素晴らしい、見事だ。我との力の差が埋まることはなかったが、神の力によって生成したものを自身の肉体で相殺するとは…。
普通の人間にできることではない。やはり“BREAKERZ”の一員。ただ者ではない特性を持つ者。
彼ら1人1人には何かしら特徴がある。異能力であったり、圧倒的な力や速さ、生命力など…。
その能力のことを彼らは総じて“特質”と呼んでいる。
しかしながら、その素晴らしい“特質”を有する者たちが束になったところで____
「がはっ…」 「くそっ…」
____神には到底及ばない。
我の足元に瀕死の者、戦闘不能の者、既に息絶えた者たちが転がった。
さて、残るは後2人。
1人は変わらず遠くから戦況を見守っている。どうやら直接、闘う気はないようだ。とても賢明な判断だ。
我は人類や世界の滅亡を望んでいるわけではない。向かってこない者に害を加える気はない。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。私のせいで……こんなことに……」
“BREAKERZ”を率いていた御門伊織は地面に座り込み静かに泣いている。
何も泣くことはない。君は我にきっかけを与えることで間接的に世界を救済したのだから。
彼らは自らの意志で我に立ち向かい、自ら死の運命を選んだのだ。自分を責めてはいけない。全ては彼ら自身の選択だ。
「僕……僕は……何をしている? なんで動けない? み、みんな…死んでしまった…。ぼ、僕は……」
実質、彼が最後の1人だと思っていたが…。どうやら戦意喪失しているようだ。
BREAKERZ最強の男、臆病な鬼塚琉蓮よ。君とはそれなりの勝負になると思っていたのだが……拍子抜けだ。
我は向かってこない相手には手を出さない。しかし、君も最初は勇猛果敢に挑んできた者たちの1人だった。
実力差に圧倒され途中で闘いを投げ出すのは少し卑怯ではないか?
悪いが君に棄権する権利は与えない。ここで死んでいただこう。
我は身体を小刻みに震わせている鬼塚の元へ歩いていく。
「やめて! 彼に闘う気はない! これ以上、殺さないで!」
どの口が言っている? 君も我を殺す気でいただろう。全く同じことをしようとしているだけだ。
我は御門の言葉を無視して、最後の1人を見下ろし拳を作った。
「これで終わりだ」
最強の男に拳を振り下ろす直前──。
ふと脳裏に浮かんだ。ふざけた特質で、理不尽な異能を持つ悪党たちを打ち負かした高校時代。
もう5年ほど前になるのか。
我は忘れない。彼らと共に笑った、あの日のことを。
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