FILE 1:強引な旅立ち
静かな森で、二人の人間が倒れていた。
「・・・っは、・・・はぁ・・・。ど・・・ぅです、か、師匠・・・ッ!」
あがった息を整えながら、一人が上体を起こした。どうやらまだ少女のようだ。師匠と呼ばれた人間は、年老いた女性だった。
「はー・・・はー・・・。げほっ。ごほごほッ! ・・・はぁ・・・」
老女の呼吸は回復することなく、咳き込んでしまう。慌てて、少女は駆け寄った。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「はー・・・はー・・・。わ、私も齢なので・・・」
苦笑いを浮かべながら、老女は言う。しかし、師の身体を不安に思っていた少女の表情が、笑顔に一変した。
「・・・ぁ、あたし勝ちました! 師匠に勝ちましたよ!」
思わずガッツポーズをする少女。反対に、老女の方はぎくりと冷や汗をかく。
「そ、そうですね・・・。でもまだ・・・」
「ということは! 約束でしたよね! あたし、早速旅に出る支度をしてきますね! よーしっ」
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「それでは、行って参りますね! ソフィー師匠!」
ソフィーと呼ばれた老女が引きとめようと小屋へ走り込むと、すでに荷物を持って少女は玄関に立っていた。
「もう用意したのですか!?」
少女――セキアは師を驚かせたことに満足なのか、終始笑顔だった。
「ふふふっ。実はしてあったのです。・・・ということで、今まで有難うございました! いってきますッ」
ソフィーの横をするりと通って、玄関から飛び出した。あまりに素早いこうどうだったので、しばらくソフィーは呆気に取られてしまった。
しかし、我に返ると慌てに慌てる。
「ま、待ちなさい! ・・・なんてこと・・・! あの子にはまだ闘い方をすべて教えたわけではないのに・・・。ごほっ・・・。っこうしてはいられないわ」
そうひとりごちたあと、小屋の中へ入り、急いで電話をかけた。
「・・・あ、もしもしっ!? 私よ、ソフィー。・・・えぇ、えぇ、そうなの。――――を出してもらえる?」
ファラルシア・タウニー国の、ファラルシア城とその城下町は、ある呪いで現在石化していた。草花も動物も、人々も―――。
しかし、その呪いから、たった一人だけ護られた者がいた。
ファラルシア・タウニー国の王女、セキア・ティ・ファルシア。
伝説では、自分の持っている魔石“ブルーティアー”を辺境の地にある“精霊の泉”へ捧げれば、呪いは解かれると云う。
国が動かなくなってから十年経った今、成長し、一人で生きていく術を身につけたセキアは、国を救おうと師の下を発った。
旅が、今、始まる。




