第九十八話
第九十八話
ダンジョンマスターマダラメと勇者サイトウが、外馬を賭けた後半戦が始まりすでに六回のゲームが行われていた。
六回のゲームを経て、コインはサイトウの前に積み上げられ、逆にマダラメの前からは目減りしていた。
全ては、サイトウの賭け方の変化によるものだった。
舌を噛み、仕草を誤魔化すという作戦もあるが、サイトウの賭け方は、明らかに前半戦とは異なっていた。
全く別物と言っていい手際に、サイトウのリードを許してしまった。
「どうした? あれだけ大見栄を切っていたくせに、連敗続きだな」
大きくリードしたことに、サイトウが余裕の笑みを見せる。
賭け方は別人と言っていいほど変わったのに、話し方や態度はサイトウそのもの。マダラメのように偽物と本物が入れ替わったというわけでもない。サイトウは確実にサイトウのままだった。
「勝負は長い、すぐに挽回してやるさ」
マダラメは短く言葉を返しただけで、その顔に焦りの感情はない。まだ追い詰められる程ではないということだろう。
二人のやりとりを見て、カイトは少し迷った。
このまま二人の決着がつくまで、静観するという手もある。また、勝負に介入し、負けているマダラメを掩護するという選択肢もあった。
少しだけ考えて、カイトは決断を下す。
(愚問だな)
カイトは自らの迷いを切って捨てた。
そして始まった七回目のゲーム。
マダラメは手札がいいのか、早々にコインを五十枚レイズした。対するサイトウは視線をテーブルから正面に向けた後、勝負せずあっさりと降りた。
すでにコインを大量にリードしている以上、サイトウに無理をする必要はないからだ。
「コール」
カイトはマダラメのレイズに対してコールした。カイトのコールに、マダラメが一瞬だけこちらを見る。
カイトは視線を合わせず、前だけを見た。
次のベットラウンド、カイトはさらに百枚のコインをレイズした。
カイトの手札は、すでに9と3のツーペアが出来上がっている。
これはかなり強い手札だ。
前半戦のマダラメなら、ここで早々に降りていたことだろう。しかし今回は降りずコールした。
マダラメとサイトウが取り決めた外馬は、十回のゲームを行い、その獲得コイン数で勝敗を決めるというルールだ。
このルールだと相手に大きくリードを許した場合、終盤は巻き返しのためには簡単に降りることが出来ず、周りのレイズに付き合わなければいけない。
ゲームが進み、手札の良さからカイトが勝利し、マダラメはさらに多くのコインを失うこととなった。
この勝負の結果に、サイトウが口笛を吹く。
「おいおい、格下が食いつき始めたぞ」
サイトウがうすら笑いを浮かべてマダラメを見る。
前半戦ではカイト達に利用されていたサイトウに、格下呼ばわりされるのは不愉快だったが、マダラメと比べればカイトは確かに格下だ。同じテーブルについているとは言え、そこを勘違いするつもりはない。
「やれやれ、人の勝ち馬に乗って小銭稼ぎとは、お前も恥ずかしくないのか?」
サイトウが蔑みの目でカイトを見るが、恥じるつもりはなかった
「別に何とも思わない。弱った方から食う。それだけだ」
カイトが答えると、話を聞いていたジードが珍しく感情を見せ、口の端を歪ませた。
ポーカーで勝つ方法は、カモを見つけろだ。
これまではワイズマンやエクストといった、他の参加者がそうだった。それが今はマダラメに変わったというだけだ。
弱みを見せれば即座に食われる。それが生き馬の目を抜く勝負の世界だ。
次のゲームが始まる。
運の悪いことに、カイトの手札は弱かった。そのため早々に降りたが、ジードの手札が良かったらしく、コインを積み上げる。
マダラメは降りず、勝負をしてまたしてもコインを失った。
九回目と十回目のゲームでは、マダラメは挽回を諦め、早々に降りた。そして外馬の勝負は、一回目はサイトウが勝利し、呪文書の一部がサイトウの手元に渡る。
「まずは一勝」
サイトウは勝利を誇り、客席にも笑顔を見せる。
「何すぐに取り返すさ」
マダラメは負けたばかりだが、不敵に笑う。
しかし次の勝負も、サイトウが優勢となった。
原因はカイトとジードだった。
序盤、マダラメが降りるのを見届けた後、カイトとジードは少額のコインをレイズしたあとわざと降りて、サイトウにコインを差し込んだのだ
マダラメとサイトウの勝負は、序盤でどれだけ優位を作れるかが分かれ目であり、わざとサイトウを勝たせて優位を作ってやれば、あとはマダラメからカモれる。
カイトとジードの戦術に気づき、サイトウが笑う。
テーブルの上では、マダラメに対する包囲網が出来上がっていた。
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