第九十五話
久しぶりの更新です
今まで更新できず申し訳ありませんでした。
第九十五話
「外馬を張り、最下層に転移できる呪文書を賭ける。それはいいとして、どうやると? 一回勝てば、その呪文書をくれるのか?」
勇者サイトウが、ダンジョンマスターマダラメに勝敗のつけ方を尋ねた。
「いや、それだと勝負が付かないだろう」
マダラメの言葉にカイトも内心で頷く。
一回の勝負で決まるとすれば、勝てるときだけ勝負を挑み、負けそうなら早々に降りる選択をする。そのため永遠に勝負がつかない可能性がある。
「十回ゲームをして、その合計で勝敗を決めよう。より多くコインを稼いだ方を勝ちとする」
マダラメは直接対決ではなく、間接的な勝敗を提示してきた。
「相手より一枚でも多ければいいのか?」
「原則はそうだが、今の所持コインを基準に、現在より多い事が条件だ。二人共負けてるのに勝ちも負けもないだろう」
マラダメの提案に、話を聞いていたカイトとジードも頷く。
現在の手持ちより多く稼がなければいけないのだから、降りてばかりはいられない。必ず勝負に出なければいけなくなる。
そしてこの状況は、カイトとジードにとってもおいしい話だった。
マダラメとサイトウが大きく稼ごうとするなら、必ず隙が出来る。争う二人からコインをかすめ取ることが出来るかもしれなかった。
「……いいだろう。で、回数は? 賭けるのは一回だけか?」
マダラメの言葉にサイトウが頷き、さらにルールを確認する。
「それじゃつまらんだろう。この呪文書を十枚に分割して掛けよう。十回勝てば、全部揃うことになる」
マダラメは十回勝負を提案してきた。
「十回は多い。五回にしろ。そうでなければ受けない」
サイトウは回数を区切ってきた。
「わかった、良いだろう。五回だ」
マダラメは頷く。
「ところで、五回勝つ前に、コインをすべて失った場合はどうなるんだ?」
「その場合は不戦勝だな。自動的に残りの呪文書はそちらのものだ」
サイトウとマダラメはルールの細部を詰めていく。しかし肝心なことはまだ一つ決められていない。
「ところで、そちらは呪文書を賭けるとして、俺は何を賭ければいいんだ?」
サイトウはルールのすべてを決めてから、自分の賭け代を尋ねた。
本来はまず先にそれを決めておくべきものだが、マダラメは決めずに話を進めていた。
転移の呪文書は、言い換えてしまえばマダラメの命を懸けるような賭け代だ。その対とするからには、同じだけの価値を持つ物でなければいけない。だがミーオンを失ったサイトウに、転移の呪文書に匹敵する持ち物があるとは思えなかった。
「五回勝負だから、この指でも賭けようか?」
勇者サイトウが、五本の指を掲げて見せる。
「そんなものはいらんよ。さっきも言ったが血なまぐさいやり取りはごめんだ。それよりも、お前が持っている物を賭けてもらう」
マダラメはサイトウを見た。
「俺が持っているものだと? ミーオンどころか、身包みすべてはいでおいて何を言う!」
サイトウが怒鳴ったが、マダラメは首を振った。
「おいおいサイトウ。嘘をつくな。確かに俺はお前からミーオンを奪い、身包みを剥いだ。だがもっとたくさん持っているはずだろ? 聖遺物、願いの卵のように?」
マダラメは、偽りは許さないとサイトウに指を突きつける。
「知っているぞ、歴代の勇者は神から多くのスキルを与えられていると。その中には必ずアイテムボックスの能力が含まれていると。俺は確かにミーオンを含めお前の所持品を全て奪ったが、アイテムボックスの中身までは、手を付けることが出来なかった。つまりお前はまだ多くのお宝を手元に残している。それを賭けてもらおう。持っていないとは言わせないぞ」
マダラメの言葉を、サイトウは否定しなかった。
その態度にカイトは震えた。
勇者サイトウはこのギャンブル大会に勝つために、聖遺物である願いの卵を使用している。
願うだけで、スキルを一つ得ることが出来る神代のアイテムだ。この力を賭け事に勝つために使うなど、馬鹿げていると言っていい。
だがサイトウが他にも、聖遺物クラスのアイテムを多数保持しているとするならば、この大盤振る舞いも頷ける。
そして確かに、これは転移の呪文書に匹敵する賭け代と言えた。
勇者サイトウはマダラメを倒す際に、それらのアイテムを切り札として使うつもりでいたはずだ。ここでその切り札を失ってしまっては、マダラメを倒せなくなってしまう。
「どうだ、賭けるか?」
ダンジョンマスターマダラメが挑発的な目で見る。
「いいだろう」
勇者サイトウは受けて立った。
出来るだけ更新していこうと思いますので、よろしくお願いします。