表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/237

第八十七話

 第八十七話


「コール」

 勇者のレイズに同額をかけることを宣言したカイトに、参加者だけでなく観客、そしてディーラーである四英雄の視線も突き刺さった。


「……へぇ、君が僕と張り合おうってのか?」

 勇者サイトウは、新たな獲物が出てきたと舌舐めずりせんばかりだ。

 確かに、手札が見えているのだから勇者サイトウに負けはない。すでに二人も参加者を下しているのだから、その自信は当然だろう。

 しかし手も足も出ない相手ではない。


「いいだろう、相手をしてやる」

 勇者サイトウが笑い、ほかの参加者が降りて行く。勇者とカイトの一騎討ちとなり、三枚の共通カードが場に提示される。

 カイトの手札は6のワンペア。役は出来ているが決して強い手札ではない。

 三枚の共通カードを足しても役は増えなかった

 しかしカイトは共通カードではなくただ、勇者サイトウだけを見た。

 勇者サイトウは余裕の笑みを崩さず、さらにコインを百枚レイズする。


「コール」

 勇者のレイズに、カイトはすかさずコールした。

 強気なカイトの行動に、まわりはいきをのむがサイトウの笑みはまだ崩せない。

「強気だな。僕に勝てるつもりか?」

 勇者が尋ねるが、カイトは答えない。

 カイトがコールしたため、四枚目の 共通カードが明らかとなる。

 それでもカイトの手役に変化はない。


「レイズ、百」

 カイトがコインを一枚ベットしたあと、勇者サイトウがまたいつものようにレイズする

「これでも……」

「コール」

 勇者が何かを言おうとしていたが、カイト付き合わずコールを宣言する。


「ふん、いいだろう。次だ」

 勇者サイトウがゲームを続けようとするがまだだ。

「まて、俺のレイズの権利が残っている」

 カイトは、先走る勇者を止めた。

 ベットラウンドでは、誰かがレイズした場合、コールかドロップかを選択できる。だがコールした場合、さらにレイズするかどうかの権利が発生する。


「レイズ、オールインだ」

 カイトは手持ちのコインの全てを押し出した。

 カイトの全額掛けに、勇者サイトウをはじめ観客やディーラーの四英雄も目を見開いていた。表情を一切変えなかったのは、ダンジョンマスターマダラメと優勝候補のジードだけだ。


「オール、イン……ですか?」

 現在のディーラーである灰塵の魔女ことアルタイル嬢が、確認しながらも目で本気かと尋ねる。

 もちろん言わんとする事はわかる。カイトのこの行動はどう考えても無意味な挑戦だ。たとえ勝利しても、勇者サイトウを倒せるわけではない。ほかの参加者を減らせるわけでもないし、教会の候補者であるユーリスの援護にもならない。

 リスクばかりが多くて、なんのリターンもない行動だろう。

 しかし、自暴自棄になったわけでも、暴走したわけでもない。勝算はあるつもりだ。


 カイトは勇者サイトウを見た。

 現在、カイトの所持コイン数は消耗を抑えたため九百万コインほど残っている。一方勇者は四千万コインを超えているため、このオールインを受けてなお余裕がある。

 それにまだ五枚目の共通カードが残っているため、互いの手役が変化する可能性は十分にある。

 勝敗の天秤は、まだ揺れている。

 だが――


「いや、僕は降りる」

 勇者サイトウは勝負せず、場から降りた。

 透視の力で勝敗が分かるため、余計な被害を減らしたのだ。

 三百枚のコインが、カイトの前に運ばれる。


「フン、一度勝ったぐらいでいい気になるな」

 勇者サイトウがカイトをにらむ。

 だがカイトは運良く勝てたわけではない。策があったのだ。

 カイトは自分の手が正しかったことを確信する。


「おいおい、どうする? あんな伏兵が出てきたぞ」

 突然声を上げたのは、これまでほとんどしゃべることのなかった優勝候補のジードだった。その視線はダンジョンマスターマダラメに向けられている。

「そうでもない。カイトさんは中々の腕前の持ち主だ、とはいえ、最初に気づくとは思わなかった」

 ジードとマダラメは初対面のはずだが、まるで旧来の友人のように話す。


「とは言えバレてしまったし、そろそろ動くべきだろう。もう少し吸い上げて欲しかったが、そう都合良くはいかないか」

 マダラメの言葉にジードが頷く。

「順番は持ち回りにしよう。次は君、その次に私でどうかな?」

 ジードの言葉に、今度はマダラメが頷いた。


 二人の会話の意味がわからず、勇者サイトウは疑問符を浮かべていたが、カイトだけは会話の意味が理解できた。

 二人の会話をよそに、ディーラーとなったアルタイル嬢がカードを配る。

 誰もが様子見としてコインを一枚かける中、勇者サイトウがワンパターンにもまたコインを百枚レイズした。


 ポーカーではベットラウンドは席順によって決められている。その席順は予選通過の順番で座ることになっており、シード選手であったマダラメは十番目の席だ。

 カイトは勇者のレイズにコールかドロップする権利が与えられたが、マダラメとジードを一瞥したあと顎を引いてうなずき、ゲームから降りた。


 そのカイトの行動を見て、マダラメもジードも笑って頷き返した。

 次にマダラメのベットラウンドとなり、ダンジョンマスターはコールした。それ以外の全員は降りる。

 ゲームは先ほどと同じ道筋を辿り、四枚目の共通カードが明らかになった時点で、ダンジョンマスターマダラメはカイトと同じくオールインした。


「さぁ、どうするサイトウ? 受けるか? 勝てば一撃で俺を倒せるぞ?」

 マダラメは宿敵を挑発する。しかし勇者は賢明にも降りた。

 次のゲームが始まり、カイトはここでも降りた。そしてマダラメも降りる。そして今度はジードがコールした。


 三連続のコールに勇者サイトウは眉を顰めたが、自分に自信のある勇者サイトウはなお勝負する。

 しかし四枚目の共通カードが明らかになった時、ジードはカイト、マダラメと同じくオールインを宣言する。

 この宣言に、やはり勇者サイトウは勝負してこなかった。


 三百枚のコインが勇者からジードのもとに移動し、会場がざわめく。

 カイトが動いたことを皮切りに、あれほど好調だった勇者が三連敗。九百枚のコインが勇者の手元から剥ぎ取られ、大きく目減りしていた。


「なぜだ、なぜなんだ?」

 勇者は呆然自失といった顔で声を上げた。



いつも感想やブックマーク、誤字脱字や評価などありがとうございます。

ロメリア戦記が書籍化しました。

小学館ガガガブックス様より発売中です。

よろしくお願いします。


ロメリア戦記は明日更新する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] サイトウの顔、又は仕草に手札の良し悪しが出てしまっている?
[一言] ここぞという所で透視をしないから……
[良い点] 一体何が……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ