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第八十五話

 第八十五話


 ついに始まった決勝戦。その序盤で、勇者サイトウは掛け金を吊り上げて来た。

 周囲で決勝の行方を見守る観客がざわめく。

だが決勝に残った九人は静かなものだった。


「どうした? コールするか?」

 サイトウは挑発の言葉を吐く。誰も返事はせずにドロップしていく。

 多少意外ではあるが、驚きはしない。序盤に高額を賭けて相手を降ろすのはポーカーの基本戦術だからだ。

 誰もが降りたが、一人だけ降りなかった者がいた。


「コール」

 静かに宣言したのは、髭を生やした伊達男のジードだった。

 一位通過の男は、不敵な笑みを浮かべつつ勝負を続ける。

 コールしたものが出たため、三枚の共通カードが明らかになる。そして二回目のベットラウンド。ジードは最低ベット数であるコイン一枚を上乗せする。すでにジードと勇者サイトウ以外が降りてしまっているので、勇者サイトウに全員の視線が集まる。


「レイズ。百」

 勇者はさらにコインを積み重ねてみた。さらに上乗せされたコインに、観客が息をのむ。

 だがジードは臆することなくコールし、勇者を見つめながら同額を賭ける。

さらに、三回目、そして四回目のベットラウンドでも、勇者は百枚をレイズし、ジードはぶれることなくコールした。

 最後までゲームが進んだため、ショーダウン。伏せられた手札を明らかにして勝敗を決することになる。


 観客が息をのむ中、当のジードは余裕の笑みを浮かべながら伏せたカードを表にする。

 勇者の手札はJと8、最初に提示された共通カードの三枚目がJであったためワンペア。一方余裕の笑みを浮かべていたジードは役無しだった。

 掛け金の四百枚のコインが、勇者の元に移動する。序盤も序盤の一回戦で、手持ちの三分の一近いコインを失ったというのに、ジードはそれでも余裕の笑みを崩さなかった。


 カイトには、その笑みは虚勢とは思えなかった。だが感情が顔に出るようでは、ポーカーは勝てない。本当のところジードがどう考えているかは、誰にもわからないだろう。

 すぐにカードが配られ、二回戦が開始される。


「レイズ。百」

 二回戦でまたも動いたのは、勇者サイトウだった。カイトはジードを見たが、先ほどのことで懲りたのか、ジードも今回は動かない。しかし――

「コール」

 今度動いたのは、ダンジョンマスターのマダラメだった。

 使役しているモンスターのものとはいえ、自身の姿に似せたその顔には、焦りはなく余裕の笑みを浮かべていた。

 そして三枚の共通カードがさらされる。前回はここで、勇者サイトウはさらに百枚レイズした。だが今回はレイズせずに降りた。


「なんだ、来ないのか」

 マダラメがつまらなそうに口をとがらせる。勇者サイトウはライバルの挑発に何も言わない。

 サイトウの態度にわずかにほほ笑みながら、マダラメが自らの手札を明かした。

 ショーダウンにまで行かなければ、手札を明らかにする必要はない。だがあえて手札をさらしたマダラメのトランプはKと3。共通カードにKがあるため、Kのワンペアが出来ている。かなり強い手札だ。

 勇者サイトウはコインをとられはしたが、被害を最小限に抑えたと言えるだろう。


 そこからも、同じようにゲームが進んだ。

 勇者サイトウが高額にベットし、皆が降りる。ベットコインがどんどん勇者サイトウのもとに集まっていく


 カイトはマダラメとジードを見たが、二人は一度動いたきり、それ以降は沈黙を保っている。カイトとしてもどうしていいかわからず、消極的にコインを賭けて降りるしかない。


「レイズ。百枚」

「コールだ」

 ゲームが動いたのは十一回戦だった。

 カッサリア帝国代表のスカルトが、ドロップせずにコールした。

 スカルトは息をのみながら、勇者サイトウを見る。手札に自信があるのだろう。勇者サイトウは余裕の笑みを浮かべながらゲームを進める。そして二回目のベットラウンド、三回目のベットラウンドとコインを百枚ずつ上乗せしていく。だが四回目のベットラウンドでさらに大きく動いた。


「レイズ。六百」

 勇者サイトウは自身の持つコインの大半をベットした。

 大勝負に観客も技めき立つ。一方スカルトは脂汗を掻いていた。

 すでに三百枚をベットしているため、スカルトの手持ちは六百枚を少し切っている。勝負を続けるには全額をベットするオールインしかない。

 勝てば一気に手持ちが倍増するが、負ければ転落、最初の脱落者となる。

 乗るか降りるか、スカルトの頭の中で天秤が揺れる。だがすでにスカルトは三百枚を賭けてしまっている。ここで勝負せずに三百枚を失えば、この後戦い抜けない。


 勝負せずに降りるべきだ。

 カイトはたとえ手持ちのコインを失ってでも、ここは耐えるべきだと思ったが、勝負故、口出しはできなかった。


「オッ、オールインだ」

 スカルトは手持ちのコインを、押し倒すように前に突き出してベットした。

 そして伏せられたカードが明らかになる。

 スカルトの手札はQのワンペア。共通カードにQが一枚あるためQのスリーカードだ。

一方サイトウの手札は7と9。ただし二つともスペードだった。共通カードにスペードは三枚ある。フラッシュだ。

 観客からも大歓声が上がり、勇者サイトウの勝利となった。

 九百枚近いコインが勇者のもとに集められる。この勝利で勇者サイトウは二位以下と大きく差を広げた。


 ゲームが始まってからというもの、勇者サイトウの独壇場。この男を止めない限り、優勝は勇者サイトウの物だった。だがカイトには打開策が見つからない。

 カイトはダンジョンマスターマダラメとジードを見た。二人の勝負師は勇者に独走を許しているというのに、慌てる様子はない。むしろ口元には笑みを浮かべてすらいた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記の書籍化が決定しました。

小学館ガガガブックス様より六月十八日発売予定です。


これから少し、更新が遅くなるかもしれません。

週一回は更新したいと思うのですが、ちょっとわかりません。

頑張りますのでよろしくお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く面白いです 想像したより主人公が賢く楽勝世界でもなく 読みごたえがあります [一言] マダラメは嘘喰いの主人公くらいやり手だなと
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