第八十三話
第八十三話
カイトがなんとか最初の一人を天秤ルールで降し、次の対戦相手を求めていると、カジノがにわかに慌ただしくなった。
何かあったのかと思って見てみると、掲示板に順位が張り出されていた。もう六時間が経過していたのだ。
一位 ワイズマン 653万4287枚
二位 ジード 594万1120枚
三位 ヴォイド 579万3094枚
四位 ダブリス 550万0034枚
五位 エクスト 509万1936枚
六位 ユーリス 497万7318枚
七位 スカルト 485万2009枚
八位 トクワン 472万0287枚
九位 サイトウ 441万1582枚
十位 カルマス 318万7139枚
掲示板の順位を見ると、やはり勇者が九位に食い込んでいた。一方で上位八人はさらにコインを増やしており、勝利は盤石と見えた。
確か十位のカルマスは、現在二位のジードの派閥だ。合計すれば九百万枚を超える。やはり予選通過の最低ラインは、一千万枚前後だろう。
カイト達の手持ちは、現在二百万枚を超えた程度。勇者サイトウの決勝進出を阻むためにも、なんとかコインを集めなければいけなかった。
そして五時間、カイトはわき目もふらずに勝負して勝ち続けた。カイトの前にはコインが積み重なり山となっていったが、嬉しいとは思わなかった。
隣で賭ける勇者サイトウは、カイトより多くのコインを積み重ねていたからだ。
「そろそろ時間よ、カイト」
カイトは必死になって競ったが、メリンダに言われて時間が無い事に気付いた。
すでに残り時間は三十分を切っている。
カイトには仲間がいる。彼らが集めたコインをカイトのもとに集約しなければいけない。
既に仲間同士で勝負し合い、わざと負けてコインの集約を始めている。カイトもその作業に参加しなければいけなかった。
すぐに仲間が待つテーブルにつき、ポーカーを始めた。
事前にいくつかのサインを決めているので、手役は分かり切っている。一度の勝負にコインを全て賭けて、一回で勝敗を決する。
そしてカイトは仲間からすべてのコインを集め終えた。それからほんの数分後、予選終了を告げる鐘の音が、カジノに響き渡った。
「いったい、いくらになったんだ? 数百万枚はあると思うが」
カイトが詰み上ったコインを眺めながら、隣にいたメリンダに尋ねた。だが全体の調整を頼んでいたメリンダにも、総数はわからないようで首を振った。
「ちょっとわからない、みんなも自分のコインを把握し切れなかったみたいだから」
「そうだな、俺も自分がどれだけ勝ったのか覚えていない」
やるだけやったとカイトは息を吐いていると、スケルトンがコインを箱に詰めていく。これから集計され結果が発表される。
「カイト、会場に向かいましょう」
メリンダに促され、カイトは結果発表が行われる会場に向かった。
会場ではすでに多くの観客が集まっていた、そのほとんどは脱落した参加者たちだ。
そして会場の前では、五十人ほどの人が集まっていた。脱落することなく予選を切り抜けた参加者達だ。この中から上位九人が選ばれる。
カイトもその列に加わり、結果発表の時を待っていると、黒いローブを着たダンジョンマスターマダラメが現れた。
「お待たせしました皆さん、ただいま集計が終わりました。では早速、結果発表に入ろうと思います。普通ですと、こういう場合は最下位から発表するものですが、今回は逆に上からの発表とさせて頂きます」
マダラメは一息のみ、観客を見る。
「では発表します!」
マダラメの声と共に小太鼓が小刻みに叩かれ、ライトが参加者の間を行き来する。音と共にライトが止まり、一人の参加者を照らす。
「一位通過者は、なんと1348万0303枚もコインを獲得されました。ジード様です」
ダンジョンマスターがライトに照らされた男を示す。選ばれたのは髭を生やし、赤いベストを着込んだ伊達男だった。
その名前はカイトも聞いていた。名うてのギャンブラーであり、腕前は世界最高とも言われている。中原の覇者オルレア公国の後援を得ており、優勝候補の一角だ。
「ジード様、檀上へどうぞ」
当然の結果に、ジードは余裕の表情で手を掲げ、誘われるままに壇上に上がって行った。
そして次々と通過者が名前を呼ばれていく。
エスパーラ国の代表であるワイズマンは、歴戦の名人として知られている。ステイヴァーレ国に雇われたエクストは、若いながらジードを超える才覚と言われた期待の新税。北海の覇者フィンドル連邦のダブリスは、犯罪組織お抱えの代打ちだ。デーン帝国の後押しを受けるヴォイドは、賭博師ではなく数学者という異色の経歴の持ち主だ。そして六位通過は教会が後援するユーリスが通過した。
「では七位通過者の発表です。おっと、これは驚き、七位通過者は、皆さん誰もが知る人物。獲得コイン枚数1066万5809枚。勇者サイトウ様です」
ダンジョンマスターは、自らのライバルの名前を呼んだ。
勇者が通過したことに、カイトは肩を落とした。
九位争いとなると思っていたが、まさか七位に食い込むとは、思ってもいなかった。勇者は自らの才覚で、国家すら超えたのだ。
「カイト」
メリンダが慰めてくれたが、全て虚しい。
勇者と競おうなどと考えたことが間違いだった。自分などとは器が違う。
「帰ろう……メリンダ」
まだ結果発表は残っていたが、もうここにいたくなった。
八位通過者の結果が発表されようとしたが、カイトは背を向けて会場から出て行こうとした。だがその時、カイトの体を眩い光が包み込んだ。
「えっ?」
光に驚くカイトが周りを見るが、周りはカイトを見ていた。
「カイトさん、どうぞ」
舞台ではマダラメが手で招く。だがカイトには何がなんだかわからない。
「聞いていなかったのですか? 八位通過者は貴方です。獲得コイン枚数1000万0001枚。キリがいいのか悪いのかわかりませんが、おめでとうございます」
マダラメが教えてくれたが、カイトはまだ信じられなかった。そばにいるメリンダも目を白黒させている。
勇者サイトウに勝つために、遮二無二戦っていたが、まさか一千万枚を超えるコインが集まっているとは思わなかった。
「壇上へどうぞ」
言われるままにカイトは壇上にあがったが、それでも信じられなかった。横を見れば国家の代表として、そうそうたるメンバーが集っている。
その時、カイトは今更だが気づいてしまった。自分がここにいるということは、七国のうち一国が脱落したということだ。
カイトが先ほどまで自分がいた会場を見下ろす。そこには東クロッカ王国の代表のトクワンと、カッサリア帝国の代表スカルトが残っていた。どちらかが脱落するのだ。
カイトが呆然とする中、九位通過者の発表がされる。
ライトは、王国と帝国の代表の間を行き来する。
誰もが固唾を飲む中、ライトはカッサリア帝国の代表、スカルトを照らした。
「おめでとうございますスカルト様。最後の一人は貴方です!」
選ばれたスカルトが手とともに歓声を上げる。一方東クロッカ王国の代表トクワンはその場で崩れ落ちた。
よりにもよって、この地を支配する国の代表が、決勝に残れなかったのだ。
会場に来ていた東クロッカ王国の者が、壇上に立つカイトを睨む。
明らかにカイトの行動が番狂わせを引き起こしてしまった。
この大会は荒れる。カイトはそう予想していたが、まさか自分がその台風の目になるとは、夢にも思わなかった。
いつも感想やブックマーク、誤字脱字の指摘などありがとうございます。
ロメリア戦記の書籍化が決定しました。
小学館ガガガブックス様より六月十八日発売予定です。
よろしくお願いします。