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第八十二話

 第八十二話


「カイト? どうするの?」

 メリンダが不安げな顔で尋ねた。

 もはや当初の計画は意味をなさなかった。決勝に押しあげるべきリーベが脱落したのだから、自分達は行き場がない。


「仕方ない。コインを集めてくれ。こっちも天秤ルールでやるしかない」

 カイトは苦渋の決断をした。

 サイトウと同じことをすることになるが、もはやそれしか方法がなかった。

 それに勇者サイトウを、決勝戦にあげるべきではない。あの男はやはり危険だ。何をしでかすかわからない。勇者の邪魔をして、なんとしてでも決勝行きを阻まなければならない。


「でもブラックジャックはできないわよ? どうやって勝つの?」

 メリンダの指摘通り、参加者同士の一騎打ちである天秤ルールでは、ブラックジャックはできない。あれはディーラーが不利だ。しかも天秤ルールでやるのならば、相手が了承する種目でなければいけない。こちらが得意な種目を持ちかけることが出来ない。


「種目はバカラだ。手は考えてある。あとで仲間を集めてくれ」

 カイトには勝利の秘策があった。ただし練習している暇はないため、うまく行くかどうかはわからない。

「それはいいけれどカイト、相手はどうやって募るの? 天秤ルールを受けてくれる相手なんていないよ」


 メリンダの言う通り、現時点で天秤ルールに挑むものは少ないだろう。これは大会終盤にやぶれかぶれの参加者が、一発逆転を狙って行うために設けられた物だとカイトは考えている。

まだ六時間以上を残し、リスクの大きい天秤ルールに挑む理由がない。

 勇者はそのためにコインだけでなく聖遺物を賭けているのだ。ならこちらも同じことをしなければならない。


「わかっている。こっちはコインを倍賭けしよう。俺が負けた場合は、さらに倍払うと言ってくれ」

 リスクとリターンが釣り合っていないと思うのなら、リターンを増やしてやるしかない。

 やぶれかぶれの作戦だがメリンダはうなずいてくれた。

 走っていくメリンダの背中を見送った後、カイトは勇者サイトウの隣のテーブルに付きコインをおいた。


「へぇ、僕と競おうって言うのかい?」

 隣のテーブルにいる勇者サイトウが薄ら笑いを浮かべていた。

「貴方を決勝には行かせない」

 この大会は勇者とダンジョンマスターとの決着の舞台なのかもしれないが、両者の激突は不吉な予感しかしない。

「やれるもんならやってみな」

 勇者の不敵な言葉には答えず、カイトは前を見る。メリンダが集めてくれた仲間たちがやってきてくれた。集まった仲間にカイトはいくつか指示を出す。うまく機能するかどうかわからないが、これでやるしかない。

 そしてしばらく待っていると、メリンダとともに一人の男がやってきた


「ガーダってもんだ。アンタが俺と天秤ルールで勝負したいんだって?」

「ああ。君が勝ったらさらに同額を、ポーカーか何かでわざと負けてコインを譲渡する」

「嘘じゃないだろうな?」

「もちろんだ。こんな大舞台で下手はしない。俺が約束を破れば、町中で言いふらせばいい」

 カイトはガーダに請け負った。これは口約束であるため効力は無い。だが証文も法律もないからこそ、互いの信義が問われる。


「勝負するゲームは?」

「バカラだ。胴元が存在しないから、タイ無しのバンカーとプレイヤーの一騎打ち。ミニマムベットは百からでどうだ? ベットする上限は交互に決めて、あとの方が従う」

「いいだろうやろう」

 ガーダが了承したため、ディーラースケルトンに頼んでゲームを始めてもらう。

 ディーラースケルトンがトランプの箱を開けてカードを配る。


 バカラはブラックジャックに似たようなゲームだ。

 テーブルの上に配られたカードは、バンカー(胴元役)とプレイヤー(客役)に分かれている。そして、それぞれ配られた二枚のカードの合計数が九に近い方が勝つ。

 ただし、ブラックジャックとは賭け方が少し違った。


「俺が先に選んでいいのか? ならバンカーに百コイン」

 テーブルにはバンカー(胴元役)とプレイヤー(客役)にそれぞれ二枚のカードが伏せられている。ガーダはバンカー(胴元役)にかけた。カイトは残ったプレイヤー(客役)に同額を賭けた。


 バカラがブラックジャックと違うのは、参加者はプレイヤー(客役)でもバンカー(胴元役)でもなく、第三者であると言う事。参加者はプレイヤー(客役)とバンカー(胴元役)どちらにかけてもいい。


「じゃぁ俺から」

 ガーダがカードの端をつまみ、小さく折り曲げるようにカードをめくる。絞りと呼ばれる行為だ。

 祈りながら、ちょっとずつカードを見て手札を明らかにする。すでに配り終えられているのだから、どんなめくり方をしたところで変わらないのだが、これがバカラを盛り上げる行為の一つだ。


「ちっ」

 端をめくって見えたのは絵札だったため、ガーダはすぐに一枚目を明らかにした。バカラでは十、十一、十二、十三は零と計算される。二枚目は六だったためガーダの手役は六だ。

 次にカイトがカードをめくる。手早く絞りをすると、一枚目はA。これは一と計算する。二枚目は四だった。カイトの手役は五だ。これだとカイトの負けだが、この条件だと、プレイヤー(客役)は三枚目のカードを引くことになる。

 プレイヤー(客役)の三枚目は九。場合によってはバンカー(胴元役)も三枚目のカードを引かなければならないのだが、プレイヤーが九の場合は引かなくてもよいルールなのでバンカー側の勝利だ。


「へへっ、幸先のいいスタートだ」

 ガーダが手元に来たコインを嬉しそうに眺める。

 これがバカラだ。カードをめくる前に賭けるため、駆け引きの要素は皆無と言っていい。

行ってしまえばただの運勝負。だがこの勝敗の分かりやすさや単純さが受けて、カジノでは人気の遊びだ。特に連勝している者の尻馬に乗って賭けることもできるので、大人数でやれば白熱して、大金が動くことも多い。


 初戦で負けたが、これは織り込み済みだ。カイトは序盤、消極的な戦法に従事した。

 損害をできるだけ少なくする作戦だ。そのせいで徐々に天秤が相手側に傾き始める。大勝負を聞き付けて人が集まったが、カイトはそれでも作戦を変えなかった。


「へへっ、これは勝負着いたな」

「それはどうかな?」

 カイトは高額コインをプレイヤー(客役)にベットした。

「やけくそか? 今更挽回しようとしても遅いだろう」

 ガーダが話すが、カイトにそんなつもりはない。


 カイトはカードを絞り手札を明らかにする。プレイヤー(客役)の手役は五。バンカー(胴元役)が六だったためプレイヤー側が三枚目を引く。

 引いた数は四だったため手役は九。最強の手札だ。

 ガーダが顔をゆがめる、プレイヤー(客役)の三枚目でバンカー側が三枚目を引くかどうか決まるので、この場合は引かなければいけない。しかし三枚目がAだったため手役は七。カイトの勝利だ。

 高額コインを賭けていたため、一気にコインがこちらに戻ってくる。


「ま、まぐれあたりさ」

「どうかな? 今の勝利で流れを掴んだ」

 ガーダの言葉にカイトは笑って返す。

 カイトはその後も強気にコインをベットした。ときには負けることもあったが、強気の姿勢が幸運を呼び込んだのか、カイトのもとには勝利が舞い込んできた。


「ばかな、そんな」

 最後に残ったコインを取られ、ガーダの顔はテーブルに沈んだ。

 カイトは勝利の笑みを浮かべたが、内心は冷や汗をかいていた。もちろん勝因は運を掴んだなどと言うものではない。実はイカサマが仕込んであったのだ。


 ガーダは気づかなかったようだが、勝負に使用したトランプはたったの一組だ。

 そしてバカラはブラックジャックによく似ている。ゲームの在り方だけではなくトランプを数える必勝法も通用するのだ。

 この店ではカードを数えられないように、バカラをプレイする際はブラックジャック同様デックの数を増やして対応している。だが今回はカイトが提案したゲームであるため、一組のトランプを使用した。

 一組の数はたった五十二枚。数えることなどたやすい。あとは有利な状況を待って賭ければいいだけだ。

 負けたガーダには悪いが、勇者を阻むためと思ってもらおう。


 勝利したカイトが周りで観客のふりをして見ていた仲間にうなずく。仲間たちはこれでやり方は覚えたと、うなずき散っていった。自分一人ではいくらも稼げないため、仲間達にも分散して同じことをしてもらうのだ。


「へぇ、やるな」

 隣で見ていた勇者が笑う。

「そっちこそ」

 カイトが勇者のテーブルを見ると、勇者サイトウもバカラをしていた。使用されているトランプの数は一組。何のことはないカイトは勇者のやっていることをまねただけだ。

「見抜いたことだけは褒めてやるよ、でも、僕に追いつけるかな?」

「追いついて見せます、必ず。さぁ、俺と勝負する相手はいないか? 誰でもいいぞ!」

 カイトは声を上げて次の対戦相手を募った。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記の書籍化が決定しました。

小学館ガガガブックス様より六月十八日発売予定です。

これからも頑張りますのでよろしくお願いします

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