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第八話 冒険者カイトの発見②

 第八話


「スロットってなんだ?」

 仲間の誰も知らず、意味が分からない。ここは意味の分からない言葉だらけだ。


「ここに何か入れられるようだぞ」

 ガンツがレバーの隣に、薄い穴を見つけた。穴の隣には一コインと書かれている。

「ここにも、これを入れろってことなのか?」

 入り口でもらったコインを一枚投入してみる。すると妙な音が箱から流れ、レバーの根元が光る。

 レバーには下に向けて矢印があるので、恐る恐る引いてみると、中央の円筒が動き出し、それぞれの絵柄が高速で回転し始めた。

 しばらくして円筒の回転が止まり、赤い果実の絵柄が三つそろった。

すると音が流れ、下の口からコインが五枚落ちてきた。


「え? 何これ? どういうこと?」

 メリンダが首をかしげる。トレフもわからないようだったが、俺はピンとくるものがあった。

「そうか、わかったぞ、この装置を使って、コインを増やすんだ」

 これは何かのゲームなのだろう。コインを入れて絵柄が揃えばコインが増える。そして十万枚コインを集めれば次の扉が開くというわけだ。


「でもコインを集めるのに、一体どれだけ時間がかかるのよ」

 メリンダが冷めた声で水を差してくれる。確かにそうだ。一回で五枚。十万コイン集めるのにどれだけかかるのか。

「でも、始めにタダでもらったやつがあるんだし、無くなるまでやってみよう」

 両替するのは馬鹿らしいが、タダで手に入った物なら惜しくはない。無くなるまでやってみて、無くなったら帰ればいい。


 全員にコインを分配し、それぞれ台に付いてみる。

 始めは恐る恐るだったが、気が付けば熱中していた。

 すぐになくなるかと思ったコインだが、意外に無くならない。よく分からずにやっていたが、 ちょっとずつだが、コインは増えていく。

 どうやら、絵柄によってもらえるコインが違うらしく、配当が機械の上部に書いてあった。いくつか種類はあるが、最大の配当であるスリーセブンが揃うと、なんと千枚も貰えるらしい。


 しかしスリーセブンはほとんど出ない。回転する絵柄の中に一つしかなく、止まることもまれだ。一番配当の安い赤い果実は三つ揃ってもコイン五枚しか貰えないが、四回か五回やれば一回はでる。時々十枚ぐらいの当たりが出るので、ちょっとずつだが、コインは確実に増えていく。


「ねぇ、もう帰らない」

 メリンダがそろそろ帰ろうと声をかけてくる。隣のシエルも退屈そうだ。どうやら女性陣には退屈な遊びらしい。

「ええ、もう帰るのか?」

 あと少しで大当たりの予感があるのだ。

「もうって、ここにきてどれだけ経っていると思ってるの?」

 指摘され、半日が過ぎていることに気づく。


「そうか、もうそんな時間か。仕方ない。みんな、そろそろ撤収しよう」

 熱中していた仲間からは非難の声が上がった。気持ちはわかるが、すでに予定の時間を超えている。今日は日のあるうちに街に戻るつもりだったのに、もう完全に日が暮れてしまっている。


「今日は切り上げて街に戻ろう」

「今日は? また来るつもり?」

 メリンダはこのダンジョンに魅力を感じていないようだ。

 確かにここならモンスターも出ないし、スロットをしない彼女達にとって、ここは退屈な場所だろう。


「ここは重要な場所だ、調査の必要がある」

 真面目に言ったつもりだが、メリンダの目は信用していなかった。

「本当だ。帰ったらギルド長に報告して、調査隊を組んでもらおうと思っている」

 スロットをまたやりたい欲求もあるが、ここが重要な場所だというのも本心だ。俺の勘が告げている。この風変わりなダンジョンは、他とは違うと。


「それに、このダンジョンは攻略しようとすれば時間がかかる。町のすぐ近くにできた攻略に時間がかかるダンジョン。ギルド長も知りたがるだろう?」

 治安上の問題は見過ごせないはずだ。報告してギルドに貢献すれば評価してもらえるはずだ。調査隊を組めば、道案内兼護衛として、自分たちのパーティーが雇ってもらえるはず。臨時収入にもなる。


「それなら、いいけど」

 メリンダはしぶしぶ同意してくれた。

「よし、それじゃぁ、コインをアイテムと交換しよう。品質を見比べたいから、できるだけみんな違うものを交換するようにしてくれ」

 ポーション類を中心に、いくつか武器や防具も交換してみる。


「なぁ、この高い酒って交換してみていいか?」

 ガンツが酒と交換したいと言い出す。女性陣からは非難の目で見られたが、自分で手に入れたコイン分なので良しとする。

 交換してみると、これまで飲んだことのない様な酒だったらしく、ご満悦。武器や防具も、そこそこの品物で、粗悪品ということはなかった。


「ここに居た時間を考えれば、儲けはそんなに、だね」

 アセルが品物を鑑定しながら答える。確かにポーション類や安い武器、ちょっと高めな酒など、普通のダンジョンを攻略した場合と比べれば、少し低いと言わざるを得ない。ちょっとした小遣い程度の稼ぎだ。

「でも危険は一切なかったからな。そういう意味では楽な仕事だ」

 ダンジョンでは命がけの戦いとなる。だからこそうま味も大きいわけだが、これでは遊んだようなものだ。それで小遣いが手に入ったのだから、おいしい仕事だ。


「ギルドに報告してまたこよう」

 たとえギルドが興味を示さなくてもまた来よう。

 カイトは心に誓った。



 最下層 ~コアルーム~


 ダンジョンの最奥では、俺はケラマと共にダンジョンの様子を見ていた。

 コアはダンジョン内の様子であればリアルタイムで映し出すことが出来、全てを見ることが出来る。

 帰っていく冒険者たちを見て、俺は満足してうなずいた。


「よし、うまくいってよかった」

 初めての冒険者が帰るのを見て、俺は一息ついた。うまく行くとは思っていたが、内心はドキドキだった。

「うまくいってようございましたね、マスター。しかしこのような方法があるとは」

 ケラマもこのアイデアには驚いているようだった。

「カジノですか。こんなものを作るとは。前代未聞でしょう」

 俺は攻略されない前提として、攻略するのがばからしい設定にすればいいと考えた。


「もう一度確認しておくが、ダンジョンルールとやらには抵触していないんだよな。これ」

 ダンジョンを作るにはいろいろ規約がある。あとでダメだと言われても困る。すでに多大なポイントを浪費しているのだ。

「ええ、もちろんです。もし抵触していた場合、作ることができません。作れたということはルールに沿っていたということです。おそらくですが、必ずシンボルを手に入れることができるように設定されていたことが、大きなカギでしょう」

 その言葉に俺は今頃気づいた。


「ああ、なるほど、そっちか」

 普通カジノは胴元が勝つようになっている。だがここでは逆に冒険者が必ず勝つように設定してある。負けると冒険者が怒り、暴れられるかもしれないと考えたからだ。

 冒険者向けの設定だったが、ダンジョンを構築する上でも重要なポイントだったのだと今頃気づく。確かに、この調整なら時間さえかければ誰でも攻略できる。

「しかし今回は赤字となりましたよ。それはいいのですか?」

「ああ、まぁ最初だからな」


 連中が半日もいてくれたおかげで、ポイントはそこそこ貯まっている。あれぐらいのレベルの冒険者だと一人一時間に十ポイント前後だった。六人パーティーだったので三百六十ポイント。大体一コイン一ポイント程度の交換レートで景品を設定し、持って行かれた景品は四百ポイントほどだ。


「最初に与えたコインがあるからな、それを差し引けばまぁこんなもんだろう」

 次に来たときからは黒字になるだろうし、さらに高レベルの冒険者がここに入り浸ってくれれば、もっとポイントが儲かるはず。

 それに、このダンジョンはランニングコストが少なくて済む。普通ならモンスターを生み出して繁殖させたり殺されたりするので、強い冒険者が来てモンスターを殺されまくると、大赤字となる。利益率は少ないが、安定はしているはずだ。


「よし、残りのポイントは少ないが、次の施設を稼働させよう」

 次に来ることを期待し、さらなる設備投資に入った。


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