第六話 詰んだ状況の打開の仕方
第六話
「しかしスケルトン、ゴーレムダンジョンがダメとなると、あとはなにがあるかな」
しばらく考えて思いついた。
「そうだ、蟻はどうだ。蟻の巣のダンジョン。こいつは強力ではないか?」
蟻は高い繁殖力を持ち、何でも食う雑食性。元々が迷宮のようなコロニーを形成し、巣に侵入してきた外敵には容赦しない凶暴さもある。
「確かに蟻は強力ですね。蟻型の最大種である巨大鬼黒蟻の兵隊蟻は体長三メートル。外殻は非常に硬く、顎は岩さえも噛み砕きます。強さの比較としては、一体で平均的な冒険者と互角に渡り合うことが出来るでしょう」
おおっ、かなり強力なモンスターだ。
「鬼黒女王蟻は八万ポイントと高価ですが、食料さえ与えておけば大量の卵を産み、卵は二十日ほどで成虫となります。また、働きアリは自分で外に出て、食料を調達し、巣穴も自分たちで拡張しますので、手間というものがかかりません」
聞けば聞くほど強い。二か月も戦力を蓄えれば、人類に打つ手ないんじゃないだろうか?
「ですが蟻型モンスターには、ふたつ大きな問題があります」
「なんだ?」
「まず、生み出した女王蟻はマスターを襲ったりはしませんが、女王蟻が生み出した蟻は、マスターを襲う可能性があります」
「まじか?」
「ここに入れないよう、頑丈な扉を取りつけて、近寄れないように蟻対策の罠を仕掛けておけばいいのですが」
「俺が外に出られなくなるのか」
正直それは嫌だ。
「あと、それ以上に問題がありまして、蟻型モンスターはどこの国でも特定危険生物に指定されております」
「ん? それはどういうことだ?」
あまりいい響きではないが。
「放置すると国が滅ぶ危険があるため、発見即駆除が各国の条約で決まっているモンスターのことです。吸血鬼や死者を操るリッチなども該当します」
「蟻もその中に入っているのか。まずいじゃないか」
「はい、しかも蟻はいくつか弱点が存在し、蟻の駆除を専門に扱う冒険者たちもおり、彼らがやってくるとおそらく……」
すぐに突破されてしまう、ということか。そもそもモンスターには弱点があり、単一モンスターのダンジョンには脆弱性があると考えるべきだろう。
「他のダンジョンはどうやって運営しているんだ?」
とてもうまくできると思えないのだが。
「他がどうとは一概に言えませんが、一般的な作りとしては、第一層に安くて繁殖力の高いゴブリンやコボルトなどを繁殖させ、それを餌として食べる肉食系モンスターを。そしてさらにそれらを食べる大型のモンスターを生み出します」
弱い奴から順に、ということか。
ゲームとかだと、何で弱いモンスターから順番に出してくるのか不思議だったが、こう考えてみると理にかなっているのか?
「下へと続く階段の前に扉を設置し、大型モンスターに鍵を守らせる。というのが定石でしょうか」
いわゆるボス部屋というやつか。
それが一般的なものなのだろう。本当にゲームみたいなダンジョンだ。しかしそんな攻略しやすいダンジョンが、果たして持ちこたえられるのだろうか?
「一つ聞くけど、その一般的なダンジョンとやらで、一年間冒険者の襲撃を防いで生き残っているダンジョンはどれぐらいいるんだ?」
この問いに、ケラマは目というか顔をそらした。
「三割ほど、でしょうか」
実質運頼みということだ。
「そういえば、この近くに町があるんだが、その情報は分かるか?」
近くに町があることを思い出した。
「はい、遠くのことは分かりませんが、ダンジョンの周辺の地理と一般的な知識はあります」
やはりこの知性化は、チュートリアル用の物なのだろう。ただし、俺たちに余計な知恵や知識は与えないよう制限もされている。
「四キロほど東に、ロードロックと言う城塞都市がありますね。人口は七万人。交易の街として栄えています」
人口七万。結構大きい。交易の街というのなら、それなりの防衛力があるとみていい。交易商人たちも護衛を雇うだろうし、腕の立つ冒険者が集まっているだろう。
ここから街までは四キロ。目と鼻の先の距離だ。攻略してくれと言っているような物。
よっぽど強力なダンジョンでない限り、あっという間に攻略されるだろう。
だが強すぎれば余計注目を引き、強力な冒険者を呼びよせてしまう。
あっ、ダメだ。詰んでる。
何というかもう分かってしまった。ここでダンジョンをやって行くのは無理だ。どうやっても生き残れない。場所が悪すぎる。
「どうかされましたか?」
考え込む俺に、ケラマが不安そうな目で見る。詰んでしまっていることは、ケラマも分かっているのだろう。
思案して、不意に名案が降ってきた。俺がどっぷりはまっていたものだ。
「普通にやっても簡単に攻略されるな。なら、別の物を攻略してもらおう」
「別の物、ですか?」
「ところで、街の情報があると言っていたが、それって物の価格とか相場とかも分かるか?」
「取引されている商品の情報や値段の知識はありますが、一体何をするつもりです?」
「カジノさ」
自分で分かるほど、いやらしい笑顔を浮かべた。