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第五十七話

すみません、予約投降失敗しました

 第五十七話


 カイトがカジノダンジョンの扉を抜けると、そこは大きな絵画や彫刻、壺や石像が置かれた貴族の邸宅のような場所だった。

 冒険者の習いとして、周囲にモンスターの姿がないことを確認してからカイトは中に入る。

 そしてカイトに続いて、五人の男が続いて中に入ってくる。五人に向き直り、カイトは手を掲げてこの部屋のことを紹介した。

「ここがカジノダンジョン、二十三層、第六の部屋です。私は美術館の間と呼んでいます」

 美術品が多く飾られた部屋を紹介すると、ついてきた五人は歓声を上げてしきりに周囲を見回していた


 普段は一人でカジノダンジョンに潜っているカイトだが、五日に一度ぐらいの頻度で、希望者にダンジョンの地下を案内するガイド業を行っていた。

 ガイド業を始めた理由は収入的な意味もあるが、それ以上にカジノの奥がどうなっているのか、実際に見てみたいという人が多かったからだ。

 その希望者はカイトやギルド長が想像するよりも多く、どうしても断り切れなかった。何より、原因の一因はカイトにあるので受けるしかなかった。


「なぁ、カイトさん。この部屋はまだ雑誌には載ってない場所だよな」

 今日の客の一人であるセルマンという中年の冒険者が、紙束を片手に掲げて尋ねる。

 セルマンが掲げている紙束は、これまでにカイトが発行したカジノダンジョンの攻略情報誌だ。ダンジョンの奥を知りたがる者は多かったし、収入の為にも試しに作ってみたのだ。


「ええ、ここはまだ情報誌には未掲載の場所ですよ、私も三日前に来たばかりです。そして人間でここに来たことがあるのは、私を入れてたったの六人。もちろん、二番目から六番目までが、貴方達です」

 カイトはここが攻略の最深部である事を請け負う。五人の客はほとんど前人未到の地にきたことに歓声を上げた。


「ここの情報に関しては、もう少ししたら攻略情報誌にも掲載されますので、そちらもご覧ください」

 カイトは商魂たくましく、宣伝もしておく。

なお、雑誌の発行に関しては、ここのダンジョンマスターの了承を得ている。ダンジョン内部の情報を外に知らしめることは、ここのダンジョンマスターの意向でもあったからだ。

 誰もが注目するカジノダンジョン。その攻略情報誌は好評で売れに売れたのだが、ただ問題が一つ。好評すぎた。


「ここから先は誰も知らない未踏の地か。気になるなぁ」

 セルマンが冒険者らしく笑う。

 よけいな好奇心を刺激しないための方法だったが、逆に好奇心を刺激する形となってしまい、こうしたガイド業を行うことになってしまった。


「それで、カイトさん。この部屋の攻略は進んでいるのかい? どうやったら次の部屋に行けるんだ?」

 セルマンが訪ねてくる。ガイドとしては答えないわけにはいかない。

「どうやらここは謎解きのようですね、あそこに、次の部屋に行く扉が見えるでしょう?」

 カイトはいいながら、通路の先にある大きな扉を指さす。

「あの扉を開ける鍵が、この部屋のどこかにあるはずなんです。それを探し出せば次の部屋に行くことが出来ます。ただ、その鍵はまだ見つけていません。鍵を見つけるにはいくつもの謎を解かなくてはいけないようです。おそらく五つか六つの謎を解けば、鍵が手に入る仕組みになっているでしょう」

 これまでの傾向から、カイトが次の部屋に行く方法を予測する。


「とっかかりはあるのかい?」

「いくつかは」

 セルマンが問うので、分かっている個所を答える。

「ここに絵がかかっているでしょう?」

 入り口のすぐ横に駆けられている絵を見せる。それはこの美術館の絵だった。入り口から、反対側にある扉が描かれている。ただし絵の中では、出口となる扉は開かれている。


「一見するとこの美術館の絵ですが、ところどころ見るとおかしなところがあります。ほら、例えば絵の中ほどにある彫刻。実際の彫刻と見比べてみてください」

 絵の中では、彫刻は槍のようなものを持っているが、実際の彫刻は何も持っておらず、手は空となっている。


「ああ、なるほど」

 セルマンはわかったとうなずいた。

「どこかにこの槍があるから、それを見つけて持たせてやればいいと」

「はい、私もそう思います。ただ、槍もどこかに隠されているらしく、まだ見つけてはいません。小さいヒントを調べてそれで場所が分かると思うのですが、まだ日が浅いので調査できていません」

 カイトはまだ調査が進んでいないことを告白した。

「はぁ、こんな謎解きがあるとはねぇ、ここのダンジョンマスターは変わりもんだ」

 セルマンは感心したようにうなずいた。


 もっとも、カイトとしては、感心するところはそこではないと考えている。この美術館そのものが、面白い試みだと思う。

 美術品というものは、どこまで行っても貴族のためのものだ。貴族が芸術家に作らせ、邸宅に飾り、貴族同士で見せ合う。

 美術品を並べ、一般に公開する美術館などというものはこれまでなかった。

カイト自身、これまで美術品を愛でるなんてことはしてこなかった。美術品なんて見ても、金にはならないし、腹も膨れないと思ったからだ。

 だがここに来るようになって、少し考え方が変わった。


 立派な絵画や彫刻を見ていると、ちょっと不思議な気分が味わえる。よい絵画や彫刻などを見ていると心が和むことが分かった。ただ遊んで楽しいだけのカジノや遊びとは違う趣がある。

 そして近いうちに、この美術館は上にあるカジノでも同じものが作られるだろう。

 ここのダンジョンマスターは地下のダンジョンで試しに作り、しばらくして上のダンジョンでも追加されることが多い。

 その法則が当てはまるなら、上でも同様の美術館が作られるだろう。


 大抵の人は芸術なんて興味がないと素通りしていくだろうが、中には芸術の良さに気づく人も出てくるだろう。元から芸術の素養が高い貴族や商人なども関心の目を向けるはずだ。

 そうなれば、ここに自分の作品を飾ってもらおうと、画家や彫刻家が集まるかもしれない。遊びに来るだけの人間ではない、また新たな人達がやってくるのだ


 このダンジョンは本当に人を飽きさせない。賭博に風呂に宿泊施設、さらに転移陣に闘技場などが出来たと思ったら、今度は美術品や芸術と来た。常に予想外のものを持ってくる。

 しかも最近では、攻略された旧八大ダンジョンが変化をして、それぞれ花が咲き誇り、海ができ、キノコや山菜がとれる山や氷に覆われた雪山へと変貌したらしい。

 それぞれのダンジョンでは高価な草花や真珠、キノコや氷がとれるとあって、働きに出る労働者も集まってきた。

 ダンジョンがこのような変化をしたことはこれまでなく、おそらくここのダンジョンンマスターの仕業だろう。


 おかげでさらに人が集まるようになり、ダンジョンの上にできた新市街は巨大化の一途をたどっている。まだロードロックほどでの規模ではないが、近い将来ロードロックより巨大になることは確実だろう。

 それを手放しに喜んでいいのかわからないのが困ったところだった。


「やぁ、カイトさん。今日はいいものを見せてもらいました」

 しばらくガイドをつづけた後、ガイドも終わりとなり、客のセルマンが人懐っこい笑みを見せながら、握手を求めてくる。

「しかしこのようなダンジョンに一人挑むなんて、カイトさん、貴方は大した冒険者だ。いや、冒険者の鑑と言えるでしょう」

「いえ、そんなことはありませんよ」

 握手をしながらセルマンの過剰な言葉を否定する。

 どれだけ公平に見ても、自分は偉大な人間ではない。


「謙遜されるな。どうです、今度食事でも。良い店を知っているのですよ」

 セルマンが誘ってくれるが、やんわりと拒否する。

「お話は有難いのですが、いろいろと忙しく」

 これは嘘ではない。新市街の仕事はメリンダに頼りっぱなしだし、情報誌の発行も半分ぐらいは俺一人でやっている。合間にガイド業もしなければいけないしで、やることが多すぎる。


「そうつれないことを言われるな、時間など作ればよいではありませんか」

 セルマンは食い下がる。

「それはそうですが、時間があればダンジョンを攻略したいのです」

 これも半分は本当だ。この美術館と言い、このダンジョンは俺を飽きさせない。早く次を見てみたい。誰よりも早く、一日でも早く。


「そうか、そういわれると仕方が無いな。いや、あなたは本当に冒険者の鑑だ」

 セルマンはようやく諦めてくれた。もっとも、たとえ時間があったとしても、セルマンの頼みは断っていただろう。


 冒険者という触れ込みだったが、セルマンはカタギじゃない。ギルド長の調査では、セルマンなんて冒険者は存在しない。おそらくどこかの貴族が送り込んだ密偵だろう。

 最近こう言った連中が増えた。ガイドを求めてやってくるのも、半分ぐらいはそんな連中で、ダンジョンに詳しい俺を取り込もうと、食事の誘いや引き抜きなども多い。中には美女を使っての誘惑もあり、結婚してなかったら引っ掛かりたいぐらいだった。

 もっとも、一度誘惑にぐらついているところをメリンダにみられてしまい、それ以降二度と鼻の下を伸ばさないと神に誓った。


 セルマンの頼みを軽く断り、今日のガイドを終了する。ダンジョンには各階に地上につながる転移陣が設けられているので戻りは楽でいい。

 セルマンたちを見送ると背後に振り返り、出口で待ってくれていた支配人スケルトンにあいさつをする。

「今日もありがとうございました。また明日もお願いします」

 カイトが礼をすると、スケルトンも丁寧にお辞儀をして去っていった。


「あら? 忙しいのかな?」

 スケルトンの態度に、カイトはダンジョンマスターが操っていないことに気づいた。

 これまでの付き合いから、なんとなく違いがわかるようになったのだ。ただ、これまで入る時と出るときは、だいたいダンジョンマスターが応対していてくれた。もしかしたら何かあったのだろうか?


「カイト」

 ダンジョンマスターのことを考えていると、メリンダが声をかけて駆け寄って来た。どうやら待ってくれていたらしい。

「ただいま、メリンダ。どうした? なにかあったのか?」

 カイトはすぐに理由を訊ねた。ここで戻るのを待っているほど、メリンダは暇じゃないはずだ。つまり何かあった。


「ギルド長が来ている。すぐに向かって」

 メリンダは端的に用件を話す。ちょっと意外だ。いつもは指示があるときでも、人をやってこちらには来ないようにしているのに。

「それが、皆にはまだ内緒なんだけれど」

 メリンダが顔を耳元に寄せて、小声で教えてくれる。

「勇者が現れたらしいの」

 その言葉は驚きの稲妻となって、俺の心を貫いた。

 本当に、このダンジョンは俺を驚かせてくれる。何度驚いても驚き足りないほどだった。


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[良い点] 召喚勇者じゃねーかw 引きが上手すぎる 正体バレてそうで続きが気になる [気になる点] スキーとスケートだけど モンスターのインストラクターいるよね? 見本見せないと板だけ見せても使い方わ…
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