第四十二話
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第四十二話
四英雄とともに最初の問題をクリアした後も、いくつか簡単な謎解きがあった。かわいらしい動物や、戯画化された人形が問題を出してくる。
問題はよく考えられているが、簡単なものばかりで、すぐに解けた。
そして危険性は全くと言っていいほどなかった。
ある意味予想通りだった。
このダンジョンは危険性を決して表に出さない。なら扉を一枚隔てた向こう側に、モンスターがひしめいているわけがない。かわいらしい人形たちに問題を出させるのも、全ては危険の匂いを感じさせないための演出だろう。
そしてまた問題を解き、扉をくぐると四英雄が愕然としていた。
「まさかたった一日で追いつかれるなんて」
「私たちのこれまでって一体……」
どうやら四英雄はこれまでほとんど謎を解かず、総当たりで答えてきたらしい。
四英雄は戦闘力が高いが、特化した専門家ばかりで、こういった搦手は苦手なのだろう。
もちろんそれならそれで、いくらでも方法はあっただろう。もちろん空気を読んで指摘はしないが。
「なかなかやるようね、でもいい気にならないことね!」
アルタイル嬢が指を突きつける。
別にいい気になんかなってないですと、勇気があったら言いたかった。
「この次の部屋は、あんたなんか何の役にも立たないんだから」
なぜあなたが出題側の態度をとるのですか? と指摘しておく。心の中で。
適当に笑ってごまかしながら扉をくぐると、これまで続いていた小さな部屋とは違い、かなり大きな空間に出た。
廃墟を模しているらしく、崩れた塀や朽ちた家。枯れ木などが点在している。フロアの反対側には、大きな扉が見えた。次へと進む扉だろう。
俺は目ざとく、枯れ木や廃墟などの物陰に何かが隠れているのを見つけた。
おそらくスケルトン。それもかなりの数が隠れているのがわかった。
「ようこそおいでくださいました」
右から声がしたと思うと、一体のスケルトンが立っていた。手には砂時計を持っている。その右横の地面には青白く輝く魔法陣。左横には大きなテーブルが置かれ、奇妙なものが置かれていた。
筒状の金属でできているようだが、手のひらサイズのL字型のものから、長い棒のようなもの。一抱えある丸太のようなものまである。
何をするものか見当もつかなかったが、武骨な見た目から武器の類であると、なんとなく予想できた。
「すでに四英雄の方には不要ですが、今回はカイトさまもおられますので、最初からルールを説明させていただきます」
おそらくこのスケルトンはダンジョンマスターに操作されているのだろう、俺のことを知っており、わざわざ解説してくれる。
「すでにお気づきのことと思いますが、このフロアには数多くのスケルトンが隠れています」
解説スケルトンが手を掲げると、隠れていたスケルトンの一体が姿を現す。
「このスケルトンを、こちらで用意した専用の武器、この『銃』で撃ちぬいてください」
解説スケルトンがテーブルに置かれた奇妙な道具を手に取り、スケルトンに向けてクロスボウの引き金のようなものを引くと、パンと小さな音がして機械部分が動き、白い光が筒から飛び出す。
見た感じから、白い光は神聖魔法の効果であるとわかった。おそらく魔道具の一種だろう。
白い光は弱々しく、大した力を持っていないことは見てわかったが、白い光が頭に当たると、スケルトンは一瞬にしてばらばらとなる。
「この部屋のどこかに、部屋の主であるスケルトンが一体だけ存在します。そのスケルトンをこの砂時計が落ちるまでに倒すことができれば、次の部屋の扉が開きます」
ルールは単純にして明快だった。
「いくつか確認したいことがある」
俺は質問してルールを確かめた。
「普通の武器や魔法を使ってはダメなんだな」
「はい、必ずこちらで用意したもので倒してください。それ以外は無効とします」
「まったく面倒くさい。大魔法ならこんなフロア、一瞬で焼き尽くせるのに」
さすがは灰塵の魔女。俺たちが丸コゲになることを平気で言う。
「銃はいくつか種類を用意してあります。種類によって威力や性能が違いますので、試してみてください」
とりあえず小さいのを取り、先ほどの説明の通り指で引いてみると、白い光が出る。まっすぐに飛ぶので、かなり遠くの相手でも狙えそうだ。
解説スケルトンの言うように銃には種類があり、細長い銃は長距離を撃つのに適し、太くて長い銃は威力が高く連射することができるが、機械部分が激しく動くので反動がある。
小さくて連射できるやつもあるが、こちらは威力が控えめだ。ほかにも連射はできないが威力の大きなものもある。
「弱い銃ですと何発か撃ち込まなければ倒すことができません。一発で仕留めるには、威力の高い銃を使うか、頭に打ち込むことで、一撃で倒すことができます」
どうやらここのスケルトンの弱点は頭らしい。銃の性能にも一長一短があり、四英雄はすでに自分好みの銃を見つけているらしく、迷わずに選んでいく。
アルタイル嬢は大きいものが持てないので、連射はできないが威力の高い銃を二つ選んだ。
力に自信のあるシグルドは。一番巨大な銃を選ぶ。威力が高く連射もできるが、重くて反動が大きい奴だ。体格が立派なシグルドにはお似合いの銃だった。
夜霧は威力が弱いが小さく連射できる銃を選んだ。動き回るために、軽くて連射の利くものを選んだのだろう。
クリスタニア様は杖のように長い銃を選んだ。連射はできないが、かなり遠くまで撃てるやつだ。動かずに遠くに隠れているスケルトンを狙い撃つつもりだろう。
「最後にギブアップをする場合は、この魔方陣の中に入ってください」
解説スケルトンは自分の隣にある、小さな魔方陣を指さした。
こちらも神聖魔法の効果があるのは見てわかった。弱いが、スケルトンをはじく結界となっている。
「この場所は陣地外となっています。スケルトンはこの中に入ることはできません。逆に言えばこの中以外は、すべてゲームフィールドと考えてください」
ギブアップする奴はいないだろうが、やめたい時の救済措置という奴だろう。
「それでは、そろそろ始めましょう。よろしいですか? では、スタート」
解説が確認し全員がうなずくと砂時計がひっくり返される。
開始が宣言されるや否や、シグルドが突撃し、夜霧が跳躍し廃墟の屋根に乗る。クリスタニア様が地面に伏せて遠くの敵を狙い撃ち、アルタイル嬢がスカートのすそを翻しながら舞うように乱射していく。
さすがは戦闘特化の黄金パーティー。シグルドは突進しながらスケルトンをなぎ倒し、夜霧は縦横無尽に駆け回り、目には追えない速度で倒していく。
後衛ながら、アルタイル嬢とクリスタニア様も負けてはいない。
特に怖いのがクリスタニア様だ。遠くにいるスケルトンを「みーつけた♪」と言いながら打ち抜き、楽しげに笑っている。
決して聖女が浮かべてはいけない笑顔だ。
「すごいなぁ」
ちょっと感心する。どれだけやりこんでいるのか。一回や二回ではないだろう。
「すでに十回目ですからね、この分だとまた討伐記録を更新されることでしょう」
隣に立つスケルトンが、俺と同じく感心した声を上げる。
四人は素晴らしい勢いで倒していくが、フロアは広大。時間制限も短いので、どんなに頑張っても半分ぐらいしか倒せないだろう。
「いつもこれぐらい倒しているので?」
「そうですね、最初は少し戸惑われておりましたが、すぐに慣れていかれました」
やはり天才なんだなと思いつつ、少し引っかかった。
「なぁ、一つ聞くが、この部屋の主。つまりアタリのスケルトンは、絶対にこの部屋にいるんだよな?」
「ええ、間違いありません。また、必ず見つかる場所にいます。土のなかや壁に埋め込んでいるといった小細工はしておりません」
公正公平であるとスケルトンは自負する。
この言葉に嘘はないだろう。このダンジョンがこういった部分でだましにかかってくるとは思えない。
だとするとおかしい。この勢いで倒しているなら、運の要素もあるだろうが、四回か五回もすればクリアできるはずだ。
「ちょっと、何さぼってんの! あんたも倒しなさいよ。記録を狙ってるんだから」
アルタイル嬢が、本来の目的を忘れた檄を飛ばしてくる。
俺はアルタイル嬢の言葉には従わず、少し考えた。
おそらく普通に倒していても、アタリは倒せないだろう。
これまでと違い、偶然や総当たりではクリアできないように、仕掛けが施されているはずだ。
そのことに四英雄は気づいているのかいないのか、目の前のスケルトンを倒し続けている。
ここまでのことを考えて、ここもクリアしてしまっていいだろう。
だが四英雄が偶然クリアしていないのだから、何かあるはず。
おそらくどこかに隠れているのだろうが、見当もつかない。
物陰に隠れている標的はシグルドが障害物ごと撃ち抜いていくし、家の中など隠れられる場所は、夜霧がしらみつぶしに殲滅していく。遠くの敵はクリスタニア様が微笑みながら射貫くし、向かってくる敵はアルタイル嬢がなぎ倒していく。撃ち漏らしがあるとは思えない。
俺は思考を別の方向に向けてみた。
スケルトンがどこにいるかではない。どこにアタリを置けば意外だろうか? ここのダンジョンマスターならどこに配置する?
このダンジョンの主ならどう考えるか? その思考を知る事こそ、自分がここに挑んだ意味なのだ。
透明なスケルトンや、小さなスケルトンがいるとか?
我ながら面白い発想だが、これはないだろう。
それならそれで事前に申告してくるはず。答えがわかった後で、文句をつけられるような事はしないはずだ。
人間は意外に上を見ない。天井に張り付けてあるとか?
首を傾けて真上を見てみるが、もちろんいなかった。
当然だった。確かに凡人には死角だが、ここにいるのは歴戦の強者ぞろい。特に夜霧は自身が疾走跳躍するため、四方への目配せを怠らない。
「あっ」
目配せと考えて、閃きが起きた。
そう、視線だ。四英雄は視線に入ったスケルトンを片っ端から打ち抜いている。それでも見つけられないということは、四英雄が見ていないところを探せばいいのだ。
四英雄が見ていないところ……その答えは意外だった。俺だ
四英雄は全員が前を向き、後ろを見ない。
当然だ。後ろにスケルトンがいないことはすでに確認している。つまり、確認しているが故の死角。
だが違う。そうではない。すぐそばにスケルトンがいる。しかもそのスケルトンは隠れてすらいない。
「わかった」
俺は小型の銃を持ち、解説スケルトンの額に向けて引き金を引いた。白い光線が発射され、解説スケルトンは一瞬でバラバラになる。
「大正解」
転がる頭蓋骨が、笑ったようにあごの骨を動かす。
それと同時に、全てのスケルトンがばらばらになり、動きを止めた。そして奥の扉が開いていく。
「やっぱりお前か」
ルールを解説するためにいると思い込んでいたが、彼も立派なスケルトンだ。倒してはいけないというルールはなかった。そしてこの部屋は、魔法陣以外の場所はすべてゲームフィールド。事前にすべてのヒントは提示されていた。やはりこのダンジョンの主は、公正なゲームを好むのだろう。
「ええ、終わり? 倒しちゃったの?」
アルタイル嬢を始め、他の英雄たちが非難の目で俺を見る。
だがここはうまく調子を合わせよう。
「安心してください。多分上で追加されますよ。そうだろ?」
足元の頭蓋骨に向けて尋ねる。
するとばらばらになったスケルトンの骨が組みあがり、元に戻っていく。
簡単に倒せる分。元に戻るのも早いようだ。
「ええ、そうです。これと似たような施設を、上のカジノに追加しようと考えております」
「本当か!」
スケルトンの言葉に、四英雄が詰め寄る。おそらく上のぬいぐるみなども、今後追加する演目だろう。俺たちはその試験に付き合わされたようなものだ。
「はい、近日オープン予定ですので、よろしければ遊んでいってください」
スケルトンの言葉に四人が喜ぶ。
おそらく四人は、もう明日からダンジョンには潜らないだろう。
噂では四人は、ここに居を構える段取りさえつけているらしい。
これまで遍歴を重ねていたシグルドは、ここに道場を構えると言っている。アルタイル嬢も別荘が欲しいと言い、大きな土地を購入したと聞く。クリスタニア様も教会設立を考えて寄付を募っているらしい。さすがに夜霧の動向までは知らないが、彼もここに住み着くのではないだろうか?
四英雄がここに腰を据える。ならば俺のすべきことは? 俺だけが出来ることは?
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
和気あいあいとする四英雄をよそに、俺は解説スケルトンに、今後も挑戦させてくれと頼み込んだ。
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