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第三十九話

今日の分です

 第三十九話


 幹部を集めた会議はつづき、俺はメイド服を着たショートヘアーの女性型ゾンビを見た。

「では次はマリア、報告を頼む」

 景品開発及び補充係である、ゾンビ娘の長女に声をかける。

「順調」

 メイド姿のゾンビは立ち上がり、一言しゃべるとすぐに座った。


「………姉妹たちの様子はどうだ? 足りないのなら増やすが?」

 報告があまりに短すぎるので、こちらから訊ねる。

「姉妹たちは足りている。問題ない」

 三人姉妹のゾンビ娘だったが、最近姉妹を増やした。新商品として加えた服飾品の景品が好調で、手が足りず増やす必要があったからだ。その時、スケルトンではなく同じゾンビに、顔もスタイルも同じ姉妹にしてくれないと嫌だと、珍しく主張された。

 だから現在マリアたちは姉妹が増えて、二十三人姉妹となっている。

 顔もスタイルも服装もすべて同じでないと嫌だと言われたが、全員髪型が違っており、彼女たちのアイデンティティがよくわからない。


「女性客が増えているようだから、服や化粧品の開発を頼む。アクセサリーやカバン、靴や帽子なども作ってほしい」

「現在制作中、もう少しで出せると思う」

 どうやらうちのゾンビ子さんたちは、こちらが言うまでもなくちゃんとやれているらしい。


「では次は、イベント企画、運営のギオン。報告してくれ」

 ケラマの言葉に四つの顔を持つ、宙を浮く肉団子といった風情のギオンが話し始める。

「イベントは順調ですよ、マダラメ様」「バトルチャンピオンリーグは好評で現在参加選手は二十三名を超えました」「協賛を申し込む商館は十二を超えております」

 彼らもまた四つの知性を持つモンスターだ。

ギオンにはカジノにおけるイベントなどの興行を任せている。


カジノは現在も好調だが、飽きられてはいけない。常に手を変え品を変え、新たなイベントを打って注目を集める必要がある。

 幸い前回行ったバトルチャンピオンが好評だったので、リーグ化して定期的に行うことにしたのだ。


「新たに作った劇場も連日超満員です」「来週には新設した広場でサーカス団を招く予定です」「コンサートホールを作る計画があります。資料を作成しますので、ご一読ください」

 イベントはボクシングだけではなく、劇団を招き、さらにサーカス団も呼ぶ予定だ。こちらは会場さえ作ればいいのでおいしい商売だ。

 満足度も高いらしく、リピーターは増えてくれている。ここで興行を打ちたいという申し込みも多い。

ギオンの働きには満足している。


「それじゃぁゼペッツ。報告を頼む」

 ケラマが言うと、道化服が立ち上がり、手が動くと操り人形が机の上で動き回った。

「マダラメ様。ピッキオ、ピッキオが報告するね」

 操り人形が机の上で飛び跳ねる。

「こらこら、邪魔をしてはイケナイヨ」

 ゼペッツが、口をカクカク動かしながら注意する。


「スケルトンの教育の方はどうかな?」

 道化服に声をかけるが、俺の視線は、彼が持つ操り人形に向けられていた。

「教育は順調に進んでオリマス。今週は後三体作成予定デス」

 道化の口がまたカクカク。その瞳はうつろで誰も映ってはいなかった。


 ゼペッツは一見すると人形使いだが、人形のピッキオが本体だ。道化服のゼペッツを、糸を通じて逆に操っている。彼の役目は人材育成で、スケルトンの教育が主な仕事だ。


 スケルトンは人工無能ともいえる存在だ。自身は考えることはしないが、教育することであたかも知能を持っているように見える。

 これまでは俺とケラマが何度も教え込んでいたが、さすがにやっていられないので、教育の専門家を作った。ゼペッツとピッキオのおかげで、スケルトンを大幅に増やすことが出来た。

 さらにこれまで作ったスケルトンも、アップデートできるので頑張ってもらいたい。


「ゼペッツ、ソサイエティの運営に、手が足りていない。こちらにスケルトンを回してくれ」

 エトは手が足りないと、スケルトンの補給を言い出す。

「ふざけるな、お前のところはこの間増やしたばかりだろう。次はこちらの番だ」

 ゲンジョーが文句を言う。

「お前は能無しスケルトンを操ればいいだろうが! そのための無駄な頭だろう」

「お前こそ、購入した知性化モンスターを手足にしていればいいだろう」

「あいつらは信用出来ん」

「こちらもダンジョンやホテルを広げていて、スケルトンが足りん」

 互いに文句を言いあい、会議が紛糾する。


「ゼペッツ、こちらにスケルトンを回してくれ」

「いいや、次はこちらだ」

 二人が譲らず、ゼペッツがおろおろとしだす。

「そんなことを言われましても」


「それでしたら私の所にももう一体増やしていただきたい」

 ギオンが自分の所にも足りないと言い出す。

「キャハハ、大混乱大混乱。誰も彼もが欲しがるばかり」

 ゼペッツは困ったふりをしているが、ピッキオが笑っているので本心は楽しんでいるな。


「やめよ、人手が足りないのはどこも同じだ。事前に決めた配分で我慢しろ」

 ケラマが一括し、紛糾していた会議が収まる。

 彼らが我がダンジョンの幹部たちだ。エトとゲンジョーを主軸とし、それぞれの分野に特化させてある。

 そうそうたるメンバーだと自負するが、全員が事務員であるため、戦闘能力はほとんどない。

 一対一なら俺の方が強いんじゃなかろうか?

 とはいえ、彼らがいれば我がダンジョンは安泰。おかげで俺がすることがほとんどなくなった。


「最後に俺の方からも報告を上げておこう」

 カジノの運営からはほぼ手を放したが、俺の仕事がないわけでもない。ソサイエティでほかのマスターとの渉外交渉は俺の仕事になるだろうし、新たに立ち上げる新事業などは、俺が主導すべきだろう。

「マナを投資して俺たちのものにした、旧グランドエイトの四つのダンジョンだが、リゾート化することを考えている」

 手に入れたはいいが、馬鹿みたいに広大なダンジョンは使い勝手が悪い。そこでフロアをぶち抜いて広場にして、海水浴が楽しめる夏フロアや、スキーやスケートが出来る冬フロアを作ってみようかと考えている。


「ただ、相応の費用がかかることから、まずは小さく試してみるつもりだ」

 リゾート事業はあてることが出来れば大きいが、失敗すると命取りとなる。それにこの世界の住人が、海水浴やスキーなどを楽しむかどうかも未知数だ。

 まずはプールやスケートなど、簡単なアクティビティを作って、受け入れられるかどうかを検討すべきだろう。

 今後の展望を話すと、幹部たちがうなずく。彼らにも異存がいないのなら、試しても問題はないだろう。


「ケラマ、君からはどうだ?」

 俺とは別に、ケラマにも仕事がある。主な仕事は幹部たちの仕事を監督し、俺に報告を上げることだが、いくつか事業を任せている。

「ソサイエティでカジノ二号店を出店予定ですが、周りの様子が芳しくありません。またモンスターを貸し出すレンタル業ですが、こちらもうまく行っていません」

 二つとも俺が提案した事業だったが、難航している様だった。

「努力はしているのですが、どうもマスターの間で不信感があるらしく、敬遠されています」

 俺提案した事業がうまく行っていないことに、ケラマが謝罪するが、謝る事ではない。


「仕方ないさ、軌道に乗るには時間がかかる」

 そもそも俺は、他のマスター達に好かれていない。

 グランドエイトの支配を嫌っていたものは多いが、俺の提案に乗ったがために、難攻不落と思われていたグランドエイトの牙城があっさりと崩れ落ちたのだ。俺が始めた新事業を警戒するのは当然だ。


「いずれ不信感もぬぐわれる。気長にやっていこう」

 昨日今日出てきた俺を、信じろと言う方が無理だ。

「レンタル業も引き続き頼む」

 俺が考えたレンタル業は、今後必要となる仕事だと考えている。

 モンスターを売り買いすることは広く行われているが、強いモンスターはまず出品されない。

 強力なモンスターは防衛戦力として、自らのダンジョンに必要だからだ。


 モンスターを繁殖させてブリーダー業をしているマスターもいるが、たいていは自軍で余ったモンスターを売りに出すのが一般的だ。購入するマスターも戦力としては期待しておらず、自軍のモンスター軍団を鍛えるための、対戦相手として購入している。


 しかしこれではダンジョンが攻略され、王手がかかった時には役に立たない。そのため、鍛えたモンスター軍団を貸し出すことにしたのだ。

 いずれ必要になると考えて導入したが、受けがよろしくない。自らの配下ではないモンスターを抱え込むことに抵抗があるのだろう。


「それはいいのですが、費用がかさんでおります」

 ケラマが費用を提示すると、確かに収益の半分を食いつぶす勢いだ。とはいえ、どんな冒険者も撃退できる強力なモンスターとなると、生半可なモンスターではいけない。惜しみなくポイントをかける必要がある。

「それでも頼むよ。マナを惜しまず強化してくれ」

 初めはダンジョンマスターに対する救済策だったが、今となっては別の目的が出来た。ポイントをケチっている場合ではない。


「わかりました、育成を続けます」

 ケラマがうなずく。我が副官も必要なことと理解はしてくれている。


「ところでマダラメ様。例の四人はどうなったので?」

 事情を知らないエトが俺に訪ねた。

 そういえば俺にはもう一つだけ仕事があった。毎日一日一回だけ扉を開き、四英雄を奥へと通す仕事だ。

「それなんだがな、少し困ったことになっている」

 このダンジョンに現れた四人の英雄。グランドエイトの置きみやげだ。


 どうせ助からないのならば俺も道連れにしようと、手勢のモンスターを全て売り払い、得たポイントで、強力なアイテムを渡しただけでなく、俺のダンジョンを攻略するようにそそのかしやがった。

 まぁ、収入が増えてけっこうなのだが、やつらは想像以上の連中だった。


「イレギュラーの連発でな。当初の計画がだいぶ狂っている」

「それほどまでですか」

 エトが驚き、ゲンジョーとケラマが頷く。

 奴らのことを思うと頭が痛い。



いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうござい

ロメリア戦記ともどもよろしくお願いします

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