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第三十七話

昨日は更新できず申し訳ありませんでした


 第三十七話


 ソサエティ ~街はずれ~


 ソサエティの場末にある小さな酒場で、メグワイヤは酒を飲み干し、酒杯をテーブルにたたきつけた。

「くそ、くそ、くそ、なぜこうも集まりが悪い」

 酒場には数人のマスターが集う切り、人影はほとんどなかった。

 数十人のマスターを呼びつけたはずなのに、集まったのは片手にも満たない数だった。


「落ち着け、メグワイヤ」

 左にいたエンミがなだめるが、メグワイヤの怒りを買っただけだった。

「黙れ、お前たちこそ、ちゃんと呼ぶように言ったのだろうな」

「言ったさ、だがほとんどはシルヴァーナの所に行っているよ」

 ソサイエティは現在、混乱のただ中だった。


 突如現れたマダラメの策略によって、グランドエイトの支配体制が崩壊した。ほかのマスター達は誰につくか、毎日のように密談を重ねている。

 グランドエイトの支配を嫌っていたものも多いが、ぽっと出の新人を嫌うものも多い。多くはシルヴァーナのもとに集っている。しかし趨勢は明らかで旗色の悪いシルヴァーナを見限り、マダラメにつこうとする者もいる。様相は入り乱れ、だれがどちらについているのか、だれにもわからない状況だ。

 その中でメグワイヤは第三極となるべく声を上げたが、笛吹けどならず。


「今は時期が悪い。俺たちもシルヴァーナのところに合流しよう」

 それが現実的だと、右にいたソジュもとりなす。

「ふざけるな! あいつに頭を下げることなどできるか! お前たちもグランドエイトだったのだぞ! その矜持はないのか」

 一喝され、二人は顔をゆがませる。

 エンミもソジュも、かつてはグランドエイトと呼ばれていた一人だ。だがマダラメのダンジョンと連結したおかげで冒険者に攻略されそうになり、マナを工面して連結を断った。おかげでダンジョン経営はうまく行かず、マナの収入が大きく減り、弱小一歩手前にまで落ちている。


「しかし、先立つマナがない」

 以前はダンジョンから得られるマナだけではなく、ソサエティでの利権があった。しかし両方が断たれ、今は他のマスターからマナを借りて、なんとか食い繋いでいる状況だ。

「それを集めるための集会だろうが!」

 面罵され二人とも言葉がない。


 互いに同じグランドエイトではあったが、メグワイヤには逆らえなかった。

 エンミとソジュはグランドエイトと言え、自力でなったわけではない。第二席として絶大な権力を誇っていたメグワイヤが、数的有利を持つために、二人に大量のマナを貸し出しグランドエイトにしたのだ。


 だが実力無き者の悲しみ、グランドエイトでは成り上がりものと軽んじられ、メグワイヤに追従するしかできない。

 いつかメグワイヤがグランドエイトを、ソサエティを支配する時を夢見ていたが、もはや夢は覚めた。


「俺のダンジョンは、もう冒険者が来なくなった」

 エンミがつぶやくように、現状を吐露した。

 冒険者を阻む方法は実は簡単だ。宝箱を置かなければいい。

 富を求めて冒険者はやってくる。だから宝を置かなければ命懸けの割に合わないと、冒険者はやってこなくなる。

 しかし一度割に合わないダンジョン、という評判が流れれば、たとえ宝箱を再設置しても冒険者は戻ってこない。


「俺のところもだ。たまにやってきても、浅い階でモンスターを駆除するだけだ」

 モンスターを討伐するために、ギルドから派遣される冒険者はいる。だが彼らは深くにまで足を運ばず、決して危険を冒さない。一定数のモンスターを倒せばそれで帰ってしまうため、マナを獲得することが出来ない。


 マナが足りず冒険者が減り、その結果マナが減る悪循環。一度この状態に陥れば、再浮上は難しい。過去にも多くのマスターがこの形で沈んでいった。

 しかもグランドエイトのダンジョンは広大であるため、維持にもマナがかかる。マナは目減りしていくだけだ。

 今までは何とか派閥のマスターからマナを借り、いや強請っていたが、当然そんなことをしていれば、マスターは離れていく。かつては百人以上の派閥を誇っていたが、今やその数も数えるほど。


「ファレルはシルヴァーナについたそうだ」

「ミスルトのやつはマダラメの派閥についたそうだ」

 離反者は減るどころか増えていき、もう集められるのは数人しかいない。いや、ここにいる者たちも、次に呼んだとき集まるかどうか。

 次々と離れていくマスター達に、メグワイヤが机をたたく。


「くそ、恩知らずどもめ、今までさんざん目をかけてやったというのに!」

 メグワイヤが歯ぎしりをするが、罵ったところでどうなるわけでもない。

「しかし現実問題どうするんだ? このままでは干上がってしまう」

「そうなる前にシルヴァーナのところに合流しよう」

 少なくとも、むげには扱われないとエンミとソジュは口をそろえた。

「だめだ、あの女の配下になるなど、死んだほうがましだ。それにあいつも今はグランドエイトとして残っているが、いつ落ちても不思議ではない。苦しくなれば、まず我々を使い潰すぞ」

「じゃぁ、どうするって言うんだ」

 ソジュの言葉に、メグワイヤが眼鏡を光らせる。


「停滞の楔は持ってきたか?」

「あっ、ああ、用意してきた。昔作ったやつが残っていた」

 懐から丸めた布をエンミが取り出し広げると、細い針の様な刃が十数本入っていた。


 この刃には強力な呪いがかかっており、突き刺さった周囲に停止の呪いがかかり、動けなくなる。

 使い捨ての上、効果時間は短く十分。抜けば解除されてしまうし、効果範囲も狭いため全身に突き刺すか、頭に突き刺さないといけない。

 高価な割に使用制限の多い武器だが、ソサエティでは所持することさえ許されない禁忌の武器だった。


 停滞の楔、またの名をマスター殺し。

 ダンジョンマスターは不死だが、この楔で身動きを封じてやれば抵抗できない。そのまま誘拐して監禁すれば、マスターはダンジョンに戻れない。マスターがいなければコアも使えず、ダンジョンは攻略されてマスターも死ぬ。

 何度となく行われた、ダンジョンマスターの殺し技だ。


「新人をやるのか?」

 マスター殺しの獲物は、常に警戒心の薄い新人だ。

 誘拐して拷問。一方的な契約を結び、新人からマナを搾り取る。新人狩りと称される手だった。


「しかし、難しいのではないか、いつ新人が来るかどうかわからんぞ」

「そうだな、新人狩りはタイミングが重要だ」

 グランドエイトであれば新人がいつ追加されるのかわかるのだが、席を失った今、新人がやってくる時期は読めない。

 それに、エンミとソジュはこの手段をとることに抵抗があった。

 良心や憐みではない。

 新人狩りなど落ちぶれたマスターのすることだ。文字通り落ちぶれているのだが、それを自ら認めたくはなかった。


「馬鹿を言え、だれが新人など狙うといった。新人から搾り取れる額など知れている。中堅どころのマスターを狙う」

 その言葉に、エンミとソジュは顔を見合わせる。

「だが、どうやって? 憑依してここにきている奴には意味がないぞ」

 多くのダンジョンマスターがこの楔で消されてきたが、防止法はある。アンデッドやパペット系のモンスターに憑依していればいいのだ。


「憑依を使わず、本体で来ているマスターを狙えばいいだろうが」

 簡単に言うが、狙えるのならば皆がそうしている。

 確かにメグワイヤの言うとおり、憑依を使わずに来ているマスターも多くいる。だがほぼすべてのマスターは、本体と同じ姿のパペットを持っているため、どれが本体かなど見分けがつかない。


「だから、どうやって?」

 重ねて問うと、メグワイヤが顔をしかめた。

「必ず本体で来るところを、狙えばいいだろうが」

 メグワイヤが計画を語って聞かせた。

 その話を聞き、その場にいた全員がなるほどとうなずく。たしかにこれならできる。


「見ていろ、マダラメ、シルヴァーナ。必ず返り咲いて見せる」

 ソサイエティの片隅で、メグワイヤが呪詛のような声を上げた。


いつも感想やブックマーク、誤字脱字の指摘などありがとうござい

ロメリア戦記も更新しましたので、よろしくお願いします

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