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第三十四話 カイトの役職

今日の分です

 第三十四話


 カジノの中を歩きながら、カイトは静かに息を吐いた。

 このところ疲れがたまっていた。仕事が多すぎて息抜きができない。息抜きの本場であるカジノにいるというのに、なぜだろうか?

 一人ため息をついていると、ガンツが薄ら笑いを浮かべて声をかけてきた。


「よう、支部長代理補佐殿」

 かつての仲間の嫌味に、顔をしかめざるを得ない。

 ついにダンジョンの上にギルドの支部が完成した。そこで俺は支部長代理補佐という、わけのわからない役職に就くこととなった。


「なんだよ、その代理補佐って」

「俺だって訳が分からん」

 この肩書がつくに至っては、様々な紆余曲折があったのだ。

 まず問題として、完成したギルドの支部長をだれが務めるかという話だった。

 当初の計画ではギルド長か副ギルド長のポレット女史が兼任する予定だったが、商人連合と自治を認める東クロッカ王国が待ったをかけた。

 すでにギルド長は様々な権益を得ており、ロードロックの街どころか、領主に匹敵する富や権限を勝ち得ていた。

 もはや王国でさえその発言力を無視できず、これ以上権力を与えるのは危険であると、商人連合や貴族たちが利害を超えて団結し反対工作を行ったのだ。


「支部長になれなかった、ギルド長の顔ったらなかったよな」

「笑ってる場合か、叔父さんに殺されるぞ」

 ギルド長は苦虫をつぶしながら支部長になることを断念した。だがただでくれてやるつもりはないと抵抗し、商人連合や王国も、互いにけん制し合い、支部長はなかなか決まらなかった。

 膨大な数の陰謀と取引の応酬があり、だれにも把握できないほど紆余曲折を経て、最終的に玉虫色の判断が下された。

 つまり名ばかりの貴族を支部長とし、さらに名ばかりの商人を代理とした。ただし二人とも実務には一切かかわらず、その補佐に仕事を全て丸投げした。つまり俺だ。


「正直やってられないよ、権限はほとんどないのに実質責任者は俺なんだぜ?」

 このダンジョンの上に作られた街には、今のところ俺より偉い人間はいない。俺より偉い人は全員がロードロックの会議室にいて、操り人形のように糸を伸ばして、それぞれの傀儡を操作しているのだ。


「まぁ、そう腐るな。給料はいいんだろ? メリンダも今の仕事を喜んでいる」

 ガンツが肩を叩く。確かにそれはそうだ。面倒ばかりだが給料は格段に良くなった。出世したと言えなくもない。


「で、ガンツ警備隊長。支部長代理補佐としては警備隊の訓練状況を知りたいのだが、どうかね?」

 これまでは冒険者に警備を依頼した臨時の警備隊だったが、権限が増えたことで本格的に警備隊を発足することにしたのだ。初代隊長は知り合いのよしみでガンツとなった。副隊長がトレフだ。


「ええっと、訓練に関しまして現在努力中であります」

 ほほう、面白い答えだ。

「知り合いだから隊長に推薦したが、その地位が盤石のものと思うなよ。怠慢を見つけたら即座に降格するからな」

「わかっているよ、新人たちにもちゃんと訓練を施している。でもそこまでする必要あるのか?」

 警備隊を強化することにガンツは懐疑的なようだ。


「必要になった時に練度が足らなければ問題になるだろ。ちゃんとやってくれよ。頼むからな」

 表向きはダンジョンや街の秩序を守るための警備隊だが、俺としては、ダンジョンが牙をむいた時のための防衛戦力として、外よりも中に対しての防衛を重きにおいている。

 以前感じた、ダンジョンに対する危機感がそうさせた。

 これまで俺たちは、無邪気にこのダンジョンを使ってきたがもっと警戒すべきだ。何かあってからでは遅い。


「ギルド長もこれには賛同してくれた。そっちもしっかりやってくれ」

 商人連合や貴族の代表はダンジョンの危険性について懐疑的だったが、ギルド長は理解を示してくれた。

「ここはいい所だし俺も好きだ。でもやっぱりダンジョンなんだ」

カジノを利用するのは大賛成だし、俺もしている。だが、油断すべきではない。

 だから警備隊には毎日訓練させ、さらに腕の立つ者には私服警備隊として、ダンジョンの中に客のふりをしてひそませている。

 本当はモンスターがあふれ出た時のために、陣地を作り堀や壁なども欲しかったが、代理補佐の権限ではそこまで出来なかった。


「わかったよ、確かに、最近のここを見ていると、そんな気はしてくる」

 ガンツがカジノの中を見回す。行きかう人のほとんど冒険者のはずだ。しかしまるで冒険者に見えなかった。

 皆が仕立てのいい服やドレスを着ており、まるで貴族の晩餐会の様だ。

 これもまたこのカジノのせいだ。


 最初の変化はここで働くスケルトンたちだった。

 これまで裸だったスケルトンたちが、白いシャツに黒のベスト、蝶ネクタイなどを身につけた。


 おかげで高級感がさらに上がり、使い古しの革鎧やボロボロの服を身に着けている冒険者の方が恥ずかしくなるほどだった。

 そう言った冒険者側の気おくれを感じ取ったのか、景品に貴族が着るような絹の服や、きらびやかなドレスが追加された。


 女性冒険者は飾られているドレスを羨望のまなざしで見つめ、有り金をはたいてドレスを買い求めた。

 女性がドレスアップしているのだから、男の方がみすぼらしい鎧姿では格好がつかない。男たちも鎧を脱ぎ棄ててこぞって、仕立てのいい服を買い求めた。

 さすがに剣やナイフは手放さないが、これは小さな堕落だ。


「犯罪組織の暗躍も気になるし、人が増えたせいで、馬鹿をする奴も多くなった。先週のようなことは二度とごめんだ」

「わかってる。でもすぐに取り押さえただろ?」

 つい三日ほど前のことだ。勘違いをした冒険者のパーティーが、換金所と景品交換所を襲撃すると言う事件が起きたのだ。

 鉄格子が破られ、働いていたスケルトンが破壊されたが、襲撃犯たちは金も景品を手に入れることが出来なかった。


 よく調べればわかることなのだが、交換所には一定以上の景品や金はおかれておらず、不足した場合はスケルトンが別の所から運んでくる。おそらく地下の金庫から転移陣を用いて運ばれてくるのだろう。

 下調べという発想ができなかった馬鹿は、大した景品や金を手に入れることが出来ず、逃げる間もなく警備隊に逮捕された。

 捕まった連中はダンジョンなのだから、何をしてもいいはずだとのたまっていたが、それは俺たちのセリフでもあった。ここがダンジョンの中である以上。俺たちが連中に何をしてもいいのだ。

 あとはギルド長に任せて、そのあとは知らない。少なくとも明るい未来はないだろう。


「代理補佐、すみませんいいでしょうか?」

 警備兵の一人が駆け寄ってくる。どうやらまた問題があったようだ。

 俺はため息交じりに返事をした。


いつも感想やブックマーク、誤字脱字の指摘などありがとうござい

ロメリア戦記ともどもよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話が新局面に入ってワクワク
[良い点] ダンジョンで盗みを働くと大抵怖い奴がでてくるよねwよっぽど条件が重ならないとうまくはいかんお
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