第三話 可愛い毛玉。その名は……
第三話
恐る恐るモンスタークリエイトの項目をタッチすると、こちらも定型のモンスターの形が出てきた。
それらの項目を見ると、少し安心する。
「これもまた分かりやすいな」
スライムの様な不定形から、ネズミ型や猫型や犬型。鳥型もあれば人型もあるし、スケルトンやゾンビといったものも作れるらしい。ゲームではおなじみのモンスターだ。
大物ではドラゴンもあったが、一番安い馬ほどの大きさのもので五万ポイントと、保有するポイントの半分を消費する。とてもじゃないが、こんなものは買えない。
こちらもいろいろと能力を付加したり、ステータスを操作したりできるらしい。
ただそれらの項目の多さは、アイテムやオブジェクトの比ではなく、基本的な耐久力や筋力。頑健さに敏捷性。知力や魔力といった、ゲームでおなじみのものから、知性や繁殖力なんて項目もあった。
他にも皮膚の強度や牙や爪の鋭さ。毒針や毒袋を持たせることもできるし、ちょっと把握しきれないほどだ。
とりあえずネズミ型の一つを選び、ステータスをいじってみる。
「なるほど、ステータスには相関関係があるのか」
ネズミ型のモンスターは、敏捷性は少ないポイントで高い数値にすることが出来るのだが、体力や筋力は逆に上げにくく、多くのポイントを必要とした。
逆に巨大なモンスターは、筋力や耐久力は上げやすいが、敏捷性は上げにくくなっている。
「当然と言えば当然か」
ネズミの様に小柄なのに、ゾウを持ち上げる筋力だとか、ゾウの様に巨大なのに、ネズミの様に素早いモンスターは作りにくく、効率が悪いと言うことだ。
「でもこれ、下手にいじらないほうがいいな」
生物は微妙なバランスの上で成り立っている。全体的に強化するならともかく、バランスが偏った生き物を作れば、へたをすれば作った瞬間に死んでしまうかもしれない。
せっかくのポイントを無駄にするかもしれず、モンスターは基本デフォルトで作り、スキルや能力を付加する程度にとどめるべきかもしれない。
ただし高価なモンスターに能力を付与しようとすると、その分必要ポイントが多くなってしまうこともわかった。
弱いモンスターに能力をたくさんつけるべきか、強いモンスターに投資すべきか、バランスが悩ましい作りとなっている。
「とりあえず、こっちも試しに一つ作ってみるか」
正直不安だった。さすがに自分が作ったモンスターに襲われることはないと思いたいが、モンスターはモンスターだ、どうなるのか分かったものじゃない。
「………オリジナルで作ってみるか」
ネズミ型はすばしっこくて怖そうだし、噛みつかれたら病気が怖い。
スライムとかスケルトンも、ゲーム同様弱いとは限らない。ここは安全を考えて、徹底的に弱い生き物を作ろう。
まず体は最小の手のひらサイズ。突起物のない、丸くて毛におおわれた感じにする。そこに針金のような細い手足を書き込む。
口は噛みつかれるといやだからつけない。灰色っぽい毛玉に、落書きの様な手足をつけた、子供の落書きのような造形だ。
襲われると困るので、ステータスも最弱にしておいた。筋力や敏捷性はすべて一だ。この一と言うのがどれぐらいのものか分からないが、これだけ弱くしておけば殺される心配はしなくていいだろう。消費ポイントは驚くことにたったの一ポイント。最安最弱のモンスターだ。
下手をしたら生きていられるのかも怪しいが、制作した後でもステータスはいじれるらしい。能力の付与もできるし、角や尻尾も後付けで追加できるらしいので、問題が出ればその都度修正すればいいだろう。それにどうせ一ポイントだ、失っても惜しくはない。
「よし、これなら大丈夫だろう」
内心ドキドキだが、これ以上弱くは作れない。
いざ作ろうとすると最後に一つの項目が現れた。
『初回につき、無料でモンスターに知性化レベル十を付与することができます。知性化しますか?』
「知性化だと?」
読んで字のごとし、知性を与えると言うことなのだろう。
そういえば知性という項目があった。いくつか調べてみると、弱いモンスターは総じて知性が低く一か二がせいぜいだ。ライオンのような獣になると、これが四ぐらいまで上がる。
人型になると六から十まであった。
ただし、知性レベル十のモンスターはどれもべらぼうに高く、最安でも八万ほどする。
ほかのスキルと比べても、格段に高い設定だ。
スキルを調べてみると、知性化を持つ魔物は意思疎通や話術と言ったスキルを持っていることも多い。どうやら話ができるようになるらしい。
「なるほど。ナビゲーション役ということか」
説明書がなくて困っていたが、おそらくこいつがダンジョンマスターを補佐してくれるアドバイザーなのだろう。
「よし、やるか」
ここは製作者の意向に従い、知性化を選択して決定ボタンを押してみる。するとアイテムやオブジェクトのとき同様、光の中からモンスターが生み出された。
「おおっ出来た」
自分で作っておいて何だが、本当にただの毛玉にしか見えない。しかしちゃんと生きているようで、細い手足を動かして立ち上がった。
「おお、動いた。で、どうだ? ちゃんと話せるか?」
問いかけてみるが、返事はない。
もしかして話せると言うのはガセか?
「聞こえるか? 聞こえたら返事をしてくれ」
いくつか話しかけてみるが、やはり返事はなかった。毛玉はきょろきょろと体を動かし、その場でこけたりしている。
まともに動くことも出来そうにない。
しばらくすると毛玉の様子に変化が起きた。細い手を動かしている。なにか身振りで伝えようとしている様子だ。しきりに手で自分の体を指差し、なぞっている。その線を追いかけると、体に顔を書いているようだった。特に口の部分を何度も書いている。
「ああ、そうか、口か。口がないからしゃべれないんだ」
襲われないために、口をつけなかった。しかし口がなければしゃべれないのも道理だ。
慌てて一ポイントを消費し、毛玉に小さな口をつける。
「どうだ、しゃべれる「ああ、よかった、しゃべれた」……るな」
ちゃんと口は機能しているようで、毛玉の声が聞こえた。
「気分は「ところでマスター様。そこにいらっしゃいますか?」どう……」
生み出したモンスターは、俺が喋っているのもかまわずかぶせてくる。
「そこにおられるのかどうか分かりませんが、目がなければマスターがどこにいるかも分からず、耳がなければご指示を聞くこともできません。どうか目と耳をお与えください」
毛玉が礼儀正しく嘆願する。
なるほど、これも失念していた。
すぐに目と三角の耳、ついでに小さい鼻もつけてやる。これも一ポイントだから安いものだ。
「ああ、これでマスターのお顔を見ることが出来ました。それではマスター。改めてはじめまして。お造りいただきありがとうございます。何なりとご命令を」
うん、礼儀正しい。作ってよかった。
「俺は班目という。よろしく頼む。所で、お前には名前はあるのか?」
自作したので特定の種族ではない。知性は与えたが、名前とかあるのだろうか?
「いえ、ありません。好きにお呼びください」
「じゃぁ名前をつけてやろう。毛玉に似ているからケラマとかどうだ」
かなりテキトーな名前だが、こういうのはインスピレーションが大事だ。
「よい名前をつけていただきありがとうございます。マダラメマスター」
どうやら気にいってくれたようだ。
「実はケラマ。君を作ったのほかでもない。俺はダンジョンマスターになったばかりでな、何も知らないんだ。どうすればいいと思う?」
「分かりました、基本的なことしか分かりませんが、できうる限り補佐させていただきます」
ようやく話が前に進み出した。