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第二十八話 マダラメからの手紙

今日の分です

 第二十八話


 宮殿のごとき壮麗さを誇る白銀のダンジョンの一室で、主たるシルヴァーナは優雅にお茶を楽しむふりをしながら、内心の苛立ちを抑えていた。

 グランドエイトの最高峰として忙しい毎日を送るシルヴァーナにとって、お茶のひと時は心休まる時間なのだが、この一ヵ月ほど落ち着けたためしがなかった。

 すべては新参者のダンジョンマスターの顔がちらつくせいだ。


 あのマダラメとかいう男は。思わぬ方法で攻略されないダンジョンを作り、一年目にして上位に食い込んできた。

 まさか扉を実質開けないようにするとは、考えもつかない方法だった。

 だがマネすることもできなかった。

 似たような方法で扉を作ろうとしてみたが、設置できなかったのだ。


 どうやら取得手段がその場に提示してあるだけではなく、地下一階に設置することも、また一つの条件だったのだろう。

 地下奥深くにあのような扉を設けた場合、冒険者を長時間拘束することとなる。

 幾多の戦闘乗り越えて、ダンジョンの奥深くに到達した冒険者を、長時間拘束する仕掛けは公平とは言えずルールに反するのだろう。それに、何度も往復させ、挑戦させるのも攻略する側に大きな負担となる。

 一方マダラメのダンジョンは、地下一階の入り口のすぐそばにあの仕掛けがある。あれならいつでもだれでも挑戦でき、時間をかければ必ず開くようになっている。


 真似をするならば、地下一階に扉を設ける必要がある。だがシルヴァーナにはそれができなかった。

 グランドエイトの頂点としてのプライドもあるが、ただ冒険者を阻んでも意味がないのだ。冒険者に長時間滞在してもらい、マナを落としてもらわなければいけない。しかしこれまで何人もの冒険者を殺してきた手前、同じような設備を作っても、信用されず、居つく者は出てこないだろう。


 それに地下一階で冒険者を足止めしては、これまで作った広大なダンジョンが無駄となってしまう。

 ダンジョンは拡大することはできても、縮小することはできない。すでに少なくない維持費がかかっており、マナが手に入らなければ破産してしまう。


 マダラメの真似ができるのは、ダンジョンマスターになりたての者だけだが、一年が経たなければソサエティに加入することはできず、一年生き延びることができたマスターは、もはや奴と同じ方法をとることはできなくなっている。


 考えれば考えるほどよくできていた。

 それだけに腹が立った。

 腹が立つといえば、冒険者たちにも腹が立った。

 せっかくシンボルの獲得条件を緩和したというのに、冒険者たちは奴のダンジョンを攻略しないのだ。


 あんなイカサマダンジョン。シンボルさえ手に入ればすぐに攻略されると高をくくっていたのだが、まさかシンボルを獲得しても攻略しないとは思わなかった。

 しかも現在シンボルは冒険者たちの手にあり、厳重に金庫の中に保管し、他の冒険者が攻略できないようにしているらしかった。


 これでは再度、査問を開くことも出来ない。

 冒険者が入手していないのであれば、さらなる条件緩和や別の要求をすることも出来たが、入手していて攻略しないのであれば、さすがに問題に出来なかった。

 おそらくあいつはこうなることが分かっていたのだ。シンボルを一つだけ、フロア内にある限り、別のシンボルを再配置しないと言う、あの時についでのように付け加えられた条件は、このことを見越しての処置だったのだ。些細なことであの時は見過ごしてしまった。


 全ては奴の思惑通り、我らが開いた査問であったと言うのに、すべて奴の手のひらの上だった言うことになる。

 だが何より腹立たしいのは、奴とダンジョンをつなげたことで、我々の収入が大幅に増えたと言うことだった。


 ダンジョンとダンジョンをつなげる。その効果のほどは未知数だったが、まさかこれほど影響があるとは思わなかった。

 それぞれのダンジョンを攻略していた冒険者たちが顔を出すようになっただけではなく、やってくる回転数が以前より早くなった。

 以前は街まで往復していたが、マダラメのダンジョンには宿泊施設があり、食事さえ出来るらしい。しかも人間どもはなにを考えているのか、ダンジョンの上に街をつくることまで検討しているとか。


 直通で往来できることで利便性が上がり、回転数の増加につながったのだ。しかもやってくる冒険者は、これからさらに増えるだろう。

 相対的に見て一番得をしているのは奴のダンジョンだろうが、こちらもこれまでの倍の収入となっているため文句は言えない。


 奴の提案で全員が得をする結果となり、グランドエイトの他のメンバーも大喜びだ。特にドゴスガラなどダンジョンをつなげることをあれほど嫌がっていたくせに、そんなことも忘れて、今は得たマナを湯水のように使って遊び呆けている。


 この状況が、マダラメの思惑通りであることなど気付いてもいない。

 それは他のグランドエイトたちも同じだ。すでに限界と思っていた獲得マナの上限が一気に倍増し、それに目を奪われている。


「わが君」

 知性化した側近モンスターの一体、クリムトがやってきて一礼した。

「いくつかのダンジョンから、転移陣を用いてダンジョンをつなげてほしいという打診が来ております」

「またか」


 このところ、こういった申し込みがあとを絶たない。

 転移陣を使ってダンジョンをつなげることの有用性が証明され、他のダンジョンマスターも連結の動きを見せている。

 今回、多くの利益を上げることとなったが、その恩恵は決してマダラメや私たちだけのものではない。

 別にマダラメでなくても同じことは出来る。必ずしも、奴のダンジョンを経由する必要もないのだ。

 すでに奴に利用価値はない。今のうちに消しておくべきか?


「それとわが君。実はダンジョンマスターマダラメからも手紙が届いております」

「奴から?」

 琴線に触れ、わずかに声が跳ね上がる。

 クリムトが銀の盆の上に手紙を乗せて差し出す。受け取ろうとしてやめた。


「お前が読め」

 自分では読まず、クリムトに読ませることにした。

 あいつに関しては少し過敏になっている所がある。自分で読まずクリムトに読ませたほうがよい様な気がした。


「分かりました、では失礼して」

クリムトが手紙を開封して一読する。読むと堅物のクリムトの口元がほころばせた。

「なんだ? どうかしたか?」

「ははっ、こ奴め、わが君に泣きついてきております」

「泣きつく?」

「はい、どうやらダンジョンをつなげてくれと、他のマスターから毎日の様に打診があるようです」

 それはそうだろう。私のところにも打診はきているが、全て上位のダンジョンだけだ。それ以外は恐れ多いと言っても来ない。


 しかし奴のところは別だ。いかに獲得マナが多かろうが、しょせんは新参者。歴史も浅く格も足りない。

 だが奴とダンジョンを結べば、それはグランドエイトとダンジョンを結んだに等しい。

 ほとんどのダンジョンマスターが、奴のところに話を持ち込むだろう。


「多くの打診に困り果てておるようです。さらに迷宮をつなぐ際の条件や、契約の法整備など決まっておらず、このままではいずれ大きな問題になるであろうと訴えております」

「それはそうだろうな」

 マスターにとってダンジョンは不可侵の城であり、他のダンジョンマスターに犯されることはない絶対の領域だ。しかし転移陣とは言え、ダンジョン同士の連結はその不可侵の城に灰色の部分を作ってしまう。


 どこにどのようにつなぐのか? 問題があった時の対処は? つなぐのをやめた時はどうするのか?

 口約束で決めるには無理があるだろう。

 しかしマダラメの言う通り、放置は得策ではない。

 下位の者が上位のマスターと組んだ場合、下位の者の方がマナ的にはうまみがあるが、上位のマスターはそうでもない。なら上位の者はダンジョンを繋ぐ際、下位の相手にマナを要求するだろう。そうなると、下の者を食い物にするマスターが現れ、我らグランドエイトの牙城を揺るがしかねない。


「つきましては、グランドエイト主導で管理委員会を設けて、契約時の条件やガイドライン、違反や解約時の罰金、罰則の法整備などをしてみてはどうかと言ってきております」

 また何を言って来るかと思ったが、意外にまともな話だった。

 面倒ではあるが、うまみも大きい。


 委員会を通さずにダンジョンを繋げることを禁止し、申請の際に一定のマナを委員会に収めるようにすればダンジョン間の無秩序な接続を制限し、我々がコントロールできるようになる。また新たな資金と権限が生まれ、我々の地位をより確固たるものにできるだろう。


「それで、その委員会に、自分も入りたいと言ってきているのか?」

 だとすれば思い上がりもいいところだ。

 確かに奴のダンジョンとつなげることは、我らに大きな利益をもたらした。しかし知ってしまえば誰にでも出来ること、すでに奴は必要ない。


「いえ、さすがに分はわきまえているようで、そのようなことは一言も」

「ふぅん」

 少し意外だった。目ざとい奴だと思っていたが、思ったほどではないのか?

いや、油断は禁物だ、この前はそれでしてやられたのだ。奴に対して警戒を緩めるべきではない。


 いっそのこと、奴のダンジョンとの連結を切るか?

 マダラメのダンジョンにこだわる必要はない。他のダンジョンでも十分に似たような効果は発揮できる。奴を追い詰めるために接続を切り、孤立させて資金の流入を止めるか?


 いや、だめだな。


 接続を切る方向で考えたが、これはうまくいかないと放棄した。

 私がよくても、ほかのマスターが反対するだろう。

 グランドエイトは他のダンジョンマスターとの格差や地位を固定化するため、緩い連帯を組み、直接争うことはない。

 しかし水面下では常に競い合い、足を引っ張り、自分の利益と利権を拡大しようといがみ合っている。

 ここで奴との接続を切ろうと提案しても、他は難色を示すだろう。


 単独で動き、奴を排除することも考えたが、危険な綱渡りとなる。もし他のグランドエイトに察知されれば、抜け駆けしようとしているとみなされ、逆に危険な立場となってしまう。

 あいつに攻撃を加えつつ、それでいて全員の利益になるように動かないと。

 しかしそんなうまい方法は……

 ふとさっきの手紙が頭をよぎった。


「クリムト、手紙をよこせ」

 部下に読ませていた手紙を奪い、改めて読み直す。

 自然と笑いがこみあげてきた。

「あいつも意外に抜けているな」

 抜け穴を見つけた。

「グランドエイトを招集しろ。ダンジョン六法第四法に基づき、総会を開きルールの追加を行う」


いつも感想やブックマーク、誤字脱字の指摘や評価などありがとうございます

ロメリア戦記ともどもよろしくお願いします



主人公の呼び方を少し変更しました

今後表記ゆれが少しあるかもしれませんが、修正していきます。

ご迷惑をかけて申し訳ありません



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[良い点] 抜け穴ってなんじゃろ? 〉今は得たマナを湯水のように使って遊び呆けている。 一体どんな遊びなのか?想像もつかない
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