第二十七話 千客万来
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第二十七話
ジェイクの姿をした俺は、人が増えたカジノをぶらつきながら、賑わいを見てうなずく。
八大ダンジョンとつなげたおかげで、大量の人が入ってきた。その数は留まることを知らず、さらに増え続けている。
「ようジェイク。今日はもう帰るのか?」
親しくしている冒険者、最近では警備隊となったダンカンが声をかけてくる。
「ああ、今日はもう帰るよ。そっちは上がりか?」
「いや、まだ仕事だ。人が増えたからな。警備隊も大忙しだ」
ダンカンは休む暇もないと嘆いている。確かに千人以上が一気に流れ込んできたのだから、大変だろう。
「まさか八大ダンジョンとつながるとはね、驚いたよ。でもいろんな話が聞けて俺は楽しいよ」
今日もコインをばらまいて、八大ダンジョンに挑んでいた冒険者の話を聞いてきたところだ。ダンジョンの様子や、有力な冒険者の話など、知りたいことは沢山ある。
「おいおい、俺たちロードロックの冒険者も忘れないでくれよ」
「わかっているさ、人が増えてもめごとも増えそうだからな。日頃の感謝も込めて今度奢るよ」
「よっしゃ、約束だぜ!」
おごる約束に、ダンカンは破顔する。
「しかしお前もそうだが、あちこちで景気のいい話が聞こえてくるな。ギルド長はすげぇ儲けているみたいだし、商人たちもここぞとばかりに金を使っているからな。どれだけ金が動いているんだか」
ダンカンがあきれた声で話す。
転移陣の効果は、八大ダンジョンの冒険者が来るようになっただけではない。流通革命が起き、瞬時に移動が可能になったことが大きい。
そもそもあの転移陣、俺の世界でも実現不可能な夢の瞬間移動装置なのだ。その経済効果は計り知れず、馬鹿でもない限りその価値に気づくだろう。
利に聡い商人たちはすぐにそのことに気づき、世界中の商品を集め売りさばく方法を考えている。
「商人たちだけじゃない。ここでもだ。昨日もスロットでスリーセブンが出たって聞くぜ」
他人の大当たりが許せないのか、ダンカンがぼやく。
「スリーセブンは、これまでも時たま出ていただろ」
一応設定として、スリーセブンは絶対に出ないようになっている。
ただし、一定の確率で出さないと周りに疑われるので、時期と相手を選んで、人目がつくころ合いに何度か出している。おかげでスリーセブンが出た翌日は大賑わいだ。
「でも三日前にも、スリーセブンが出たばっかりだ。こんなことあるか?」
「人が増えたからだろ」
スリーセブンは数ヶ月に一回だったが、最近は数日に一回のペースで出している。もちろん人目が付く時間帯を狙ってだ。
「腐るなよ。まじめに努力してればいいこともあるさ」
「どんな?」
不公平だと嘆くダンカンに俺は笑って答えた。
「次のおごりで、一番いい酒をおごってやるよ」
「その言葉、忘れるなよ!」
「ああ、今度な」
ただ酒の約束にダンカンが歓声を上げ、喜ぶ警備隊員と別れを告げる。
賑わいを見せるカジノを抜けて宿に戻り、秘密の部屋を通じて最下層に戻る。
憑依を解いて元の自分へと戻り、ケラマが待つモニタールームへと向かった。
「ただいま、ケラマ」
「おかえりなさいませ、マダラメマスター。お喜びください。昨日獲得したポイントは、差し引き二十万マナを超えました。おそらく今日も達成可能でしょう」
モニタールームの専用席でケラマが恭しく首を垂れる。
「ついにか。意外に早かったな」
グランドエイトのダンジョンとつなげてはや三週間。初日に獲得ポイントが十倍となり、二十万も目前と思っていたが、ついに昨日達成されたらしい。
「しかしうまくされましたね、査問会を切り抜けつつも、かような手を打たれるとは。うまく丸め込みましたね」
「丸め込んだとは人聞きが悪い。公正な話し合いの結果だよ」
ただし利益は公正ではなく、俺一人が飛びぬけて得をしているが。
何せ八大ダンジョン攻略中の高レベルパーティーがこちらに流れ込み、千人ほどがやってきている。しかも人はさらに増加し、周辺の国々からも続々と冒険者が集まっている。
「事前にホテルやレストランを拡張しておいて正解でしたね」
「ああ、それでも足りないけどな」
彼らは主に休息場所と食料を欲しており、事前に用意しておいた千人分の客室は即完売し、今追加で作っているところだ。
レストランも増設したが、それでも追いつかないので、こちらも追加で従業員を募集している始末だ。
「でもまだまだ忙しくなるぞ、さっき見てきたが、人であふれていて混雑気味だ。まだまだカジノを増築しないと」
すでにカジノフロアを地下三階にまで追加し、浴場も増設したがまだ足りない。
「マリアたち三人からは、景品の補充が追いつかないと言ってきております。交換所の増設も必須でしょう」
どうやらゾンビ三人娘も大変らしい。
「わかった、複製機をもう一つ増やしてみよう。あと配下に知性化したスケルトンをそれぞれに二体ずつつけよう。交換所も増築するか」
とりあえずはそれで何とかしてもらおう。
「それと、増築案なのですが、カジノとは別に広場も設けましょう。転移陣を設置した向かいに大部屋を作り、ダンジョン攻略に向かう冒険者が、集まれる場所を作ったほうが良いでしょう」
「いいアイデアだな。適当に座れる場所や。水場。あとでかいトイレも作ってやるか」
彼らは八大ダンジョンの攻略に挑む、高レベルの冒険者たちだ。得られるポイントは普通よりおいしい。居心地のいい場所を作って、出来るだけ長居をしてほしい。
「地上に街を作る計画があるようですが、きっと今回のことで、計画が前倒しとなるでしょうね」
「ああ、来年ごろにでき始めるかと思っていたが、この分だと今年中に形になるかもな」
ロードロックの連中も馬鹿じゃなければ、このダンジョンを抑える価値に気づくはずだ。とにかく建物を建てて、ここの支配権を明確にしようとするだろう。
そうなれば地上に住む人からもポイントが得られる。その時、どれほどのポイントが得られるのか、想像もつかない。
「あとやっぱり、値下げしたシンボルには気づいてもらえなかったな」
「グランドエイトのダンジョンマスター達は、悔しがっていることでしょうね」
連中の顔が目に浮かびそうだ。
このダンジョンはロードロックにとって、もはや必要不可欠なものとなっている。たとえシンボルを無料にしても、攻略されることはなかっただろう。
「ですが、また文句を言ってくるのではありませんか?」
「かもね、でも言われても相手にする必要はないよ。一応調査の手も入ったしね」
値下げに気づいた冒険者たちは、即座にシンボルを交換した。
そして数日後、街から偉そうな髭面のおっさんを先頭に調査隊が来た。彼らはシンボルを使って奥へと足を踏み入れた。
開店して一年と少し、初めて奥の扉を人間がくぐった瞬間だった。
だが彼らはほどなくして引き返していった。その時、髭の生えたおっさんが偉く怒っていたようだったが、知ったことか。
「まぁ、あんなダンジョンを見た日には、だれだって怒るでしょうねぇ」
ケラマがあの時の光景を思い出し、あきれた声を出す。俺は聞こえないふりをした。
ひどい言い草だ。あんなに簡単なダンジョンほかにないのに。
「そういえば調査の後にシンボルをまた交換していたが、今は詰め所の金庫にあるのか?」
「はい、一応監視しておりますが、金庫に入れられたきり、持ち出されてはおりません」
下へと続くシンボルは、再度交換されて冒険者たちの手にわたり、現在は使われず金庫の中に保管されている。
鍵は髭面のおっさんが持って帰ってしまったので、もうだれも金庫を開けることが出来ない。
「なら仕方が無いな。彼らが使わないことを決めたのだから」
誰でも行けるようにしたが、冒険者たちが攻略しないことを決めたのだから、俺にはどうすることもできない。
これでこのダンジョンの安全は、冒険者である彼らが保証してくれた。
これならグランドエイトがまた文句を言ってきても、いくらでも言い返すことができる。
「ところでこの前に追加した景品はどうだ? 交換されているか?」
これまで我がダンジョンではあまり強力な武器を置いてこなかった。
しかしこの度その前例も破り、いくつか武器やアイテムを補充したのだ。
「はい、交換されています。高額の設定ですが、ちゃんと計算通り交換されています」
「よし」
俺はうなずき、手応えにこぶしを握る。
「しかしよかったのですか? あれで多くのマナを浪費しました。節約しなければいけないのでは?」
確かにこの出費は痛い。浪費を抑えなければいけないのに、下手をすれば丸損の可能性すらある大博打だ。
「わかっている。でも必要なことだ」
これからは、息をするのもきつい日々となるだろう。
「問題は俺たちが持ちこたえることができるか、そしてどこが最初に落ちるかだ」
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