第二十三話 グランドエイトからの召喚状
今日の分です
第二十三話
「戻られましたか、マスター」
モニタールームに戻ると、壁一面に貼られたモニターに向かっていたケラマが体ごとこちらを向いた。
ポイントには余裕があるし、ケラマの体を人型にしてもいいのだが、ケラマはこれで十分ですと言って固辞する。本人がそれでいいならいいとしているが、やはり不便ではなかろうか?
そんなことを考えていると、ケラマは居住まいを正してこちらを見る。
「実はマスターには、お話しすることがあります」
「どうした、改まって」
「おめでとうございます班目マスター。今日はあなたがダンジョンマスターとなって一年目の日です」
ケラマが恭しく頭を下げ、お祝いをしてくれる。
「おおっ! そうか、今日で一年か」
そろそろだとは思っていたが、今日がちょうど一年目とは知らなかった。
「一年目の記念日を迎えたわけですが、マスターには良いニュースと悪いニュースがあります」
「へぇ、その言い回しを実際言われたのは初めてだ」
「では良いニュースから」
どうやら選ばせてはくれないらしい。
「マスターとして一年が過ぎたことにより、マスターはダンジョンソサエティに出入りする権利を得ることができました」
「ソサエティ?」
「ダンジョンマスター同士で集まることが出来る、共用のダンジョンです。一年を生き延びることが出来たダンジョンマスターは、専用の転移陣を設けて出入りが可能となります。この転移陣は無料で設置可能ですので、おすすめです」
そんな寄り合いがあるとは知らなかった。
「それは一年経つまでは教えてもらえないのか?」
「はい、一年を生き残ることが出来ないマスターは多いですから。それに新人を食い物にするマスターもいますので、必要な措置だとご理解ください」
なるほど、ライバルを蹴落とすために新人に嘘を教えたり、囲い込んだりするやつは出てくるだろう。
「それで、そのソサエティではどんなことが出来るんだ?」
「それは様々なことが出来ます。基本的にはマスター同士の交流所なのですが、互いのモンスターを戦わせて賭けをしたり、交換や譲渡などが出来ます」
自分のモンスターを自慢したり、あるいは買い取って戦力の補強をしたり出来るということか。
モンスターがほとんどいない我がダンジョンにはあまり関係はないが、上手くやればマナを儲けることも出来そうだ。
「ほかにもマナを用いることで、ソサエティの敷地を購入できます。購入した土地では商売を始めることが出来ます。飲食店やサービス業などで稼いでいるマスターもいますよ」
「なら、カジノダンジョン二号店を開くのもありだな」
他のマスターがカジノにはまってくれるかはわからないが、別の収入の手立てとなるかもしれない。
「後はマナの貸し借りもできます。ソサエティの主だったマスターがマナを貸し出しています」
「マナを貸してくれるのか? 俺も借りられるか?」
「可能ですが、すぐには難しいでしょう。貸し出しには審査があると聞いています。ソサエティに土地を持っていることや、一定以上の大きさのダンジョンを持つこと、担保の有無などいろいろあります」
借金に審査があるのは当然か。
「しかし担保って、モンスターとかか?」
そのモンスターが殺されたらどうなるんだろうか?
「いえ、担保はダンジョンそのものになります。返済が遅れて強制執行となった場合、ダンジョンが削られマナに変換されて奪われます」
「おいおい、取り立てキツイな」
ダンジョンを一方的に削られたら、すぐに攻略されてしまうだろう。仮に破産でもしたら死ぬのと同義だ。
「ダンジョンが攻略されて、貸し倒れすることもあり得ますからね、貸し出しと取り立ては慎重なのです。しかも取り立てられるマナは、ダンジョンの作成に用いた額の十分の一ですから、下手をするとダンジョンのほとんどを失うことになるかもしれません。借入の際にはくれぐれもよく考えて行ってください」
なるほど、ご利用は計画的にしないといけない。いや、以前借金で失敗した身としては、本気で気を付けようと思う。
「そういった点にさえ気を付けていれば、ソサエティは良い場所だと思いますよ。マスター同士の交流はよい刺激となるでしょう。友人やあるいは恋人も出来るかもしれませんよ」
「そうか、そうだな。マスター同士なら恋愛もありか」
正直に言うと人恋しかった。
ケラマと遊ぶのも悪くはないが、時には異性との関係を楽しみたい欲求がある。
冒険者相手にお喋りするのは楽しいが、さすがに肉体関係になるのは問題がある。自分の作ったモンスターなら安全だが。絶対に言いなりになる相手を抱くという行為には、いささか抵抗があった。
その点、他のダンジョンマスターなら同等同格。気兼ねなしに恋愛を楽しむことが出来るだろう。
「俺のような転移者もいるのか?」
「ダンジョンマスターは、みな別の世界の出身です。ただ、どの世界とつながるかはわかりません。同じ世界、同じ時代から来た人を探すのは難しいでしょう。むしろ、姿形が異なる相手と会うことを覚悟しておいてください。マスターからしてみれば、モンスターの一種のようにも見える相手が多いと思われます」
同胞はいないか。
俺と同じようなことをしている奴はいないみたいだから、その可能性は低いだろうとは思っていた。
「しかし、交流するのはいいかもな。情報は多いに越したことはないし、遊び相手も欲しいしね」
攻略まであと数百年はかかる。友達は必要だ。
「よし、じゃぁ早速行ってみようか」
どんな所か楽しみだ。
「お待ちください、マスター。悪いニュースがあります」
そういえばそうだった。ソサエティの話でそちらを忘れていた。
「そうだったな、悪いニュースは?」
「召喚状が届いております」
「召喚状?」
「はい、マスターは査問会に召喚されました」
「査問?」
さっきから聞き返してばかりだ。
「マスターのダンジョン運営に問題があるとして、訴えられました。訴えたダンジョンマスターは八名。グランドエイトのダンジョンマスターたちです」
どうやら友人を作る前に、敵が出来ていたようだった。
グランドエイト
俗に八大ダンジョンと言われる、世界最大級のダンジョンの総称だ。
その深さは百階にも届くと言われ、難攻不落のダンジョンとして名高い。多くの冒険者が挑戦し、その大半の者が帰ってこない。しかしそこに眠るお宝は伝説級の代物ばかりで、深層にもぐり生還することが出来れば、富と名声は確実とまで言われていた。
「で、そのグランドエイト様が、何で俺にいちゃもんつけてくるんだ?」
敵対するようなことは何もしていないはずだ。そもそも会ったことすらないのに、なぜ問題にされるのかがわからない。
「我がダンジョンに、一体何の問題がある?」
「………」
俺の言葉にケラマが一拍の間を置いた。
いや、確かに問題しかないだろう。人を一人も殺していないのだから、ダンジョンの在り方としては言語道断のような気もするが。文句を言われる筋合いはないはずだ。
「おそらく獲得マナを問題視しているのでしょう。一日に一万マナ。マスターは半年でそれを達成なさいましたが、これは過去の例を見ても異常なことなのです。現在千にも及ぶダンジョンがありますが、一日に一万マナ以上を得ているのは、五十もありません。グランドエイトの最高峰。白銀のダンジョンですら、一日の最高獲得マナは三十万ほどです」
「ダンジョンのトップでもそんなものなのか」
一日三十万ポイント。確かにすごいが、これは強力な冒険者を殺して手に入れた瞬間最大ポイントのはずだ。一年で平均すれば半分程度とみていいはず。つまりトップでも俺と十数倍程度しか離れていないことになる。
「つまり、突然現れた俺が目障りでしょうがないと」
「おそらくは」
「やれやれ、出る杭は打たれるか。これ以上伸びないっていうのに」
ポリポリと頭をかく。どうしたものか。
「それで、査問会ってのはいつだ?」
「明日です」
「早いな。無視したらどうなるんだ?」
「送られてきた召喚状は、強制能力を持ちます。時間になれば発動し、無理やり転移させられます」
「俺に準備の時間を与えないつもりか」
俺に準備の時間を与えないつもりなのだろう。
忙しくなりそうだった。
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