第二百二十九話 死
今日二月二十日に、TOブックス様よりダンジョンマスター班目の二巻が発売します。
今日はその記念更新ですが、ちょっと内容はきついかもしれません
マダラメ始まって以来の鬱回かも
第二百二十九話 死
創造神メギドスが転移した先は、青白い光を放つダンジョンコアが置かれた部屋だった。
「ここがカジノダンジョンか。思った以上に小さい」
メギドスは眉をしかめた。神に反旗を翻した愚か者が拠点とする街、その下にあるダンジョンに来たはいいが、想像以下の規模だった。天井があまりに低く、みすぼらしい。
「全く、なんというところだ。これならソサエティにいるべきだった」
メギドスは鼻の頭に皺を寄せる。だがここで地上の反逆者共を待ち受けると宣言した以上、我慢せねばならなかった。
苛立つメギドスの背後で、重い物体が落ちる音がした。肩越しに目を向ければ、体中の骨が折れた男が横たわっている。このダンジョンの主で、メギドスに大口をたたいたマダラメと言う男だ。
メギドスは罰として、マダラメを痛めつけては傷を治すと言う苦しみを与えることにした。正直、マダラメのことはもうどうでもよくなっている。だが神に大口をたたいた者を、あっさりと殺しては沽券にかかわる。二度とこのような愚か者が現れぬよう、見せしめとせねばならない。
メギドスがマダラメに手をかざすと、マダラメの傷が再生し、折れた骨が戻っていく。だが全快にはさせず、話せるところまで戻す。
「マダラメよ、なんだこのみすぼらしいダンジョンは! 貴様、一応はダンジョンマスターの頂点に立ったのだろうが!」
「し、質素倹約家でね……」
痛みに顔を顰めながらも、マダラメは減らず口を叩く。メギドスは指を突き付けると、空気の弾丸がマダラメの体にめり込み骨をへし折る。
悶絶するマダラメのさまを楽しんでいると、あわただしい足音がやって来て、部屋の扉が開かれる。やって来たのは異形のモンスター達だった。
先頭に立つのは白骨の姿をしたスケルトンだった。手にはなぜか黒い毛玉を掲げている。その背後には金色の頭巾に袈裟を着たスケルトン。更に青白い顔に侍女服を着た女ゾンビに、空中に浮かぶ球体の肉。そして操り人形を手に持つ道化服の老人だった。
「むっ、このダンジョンのモンスター達か。喜べ、貴様らの神である余が復活した。喜んで仕えるがよい」
メギドスが宣言すると、やって来たモンスター達があっけにとられ固まる。
「あ、ああ……」
先頭のスケルトンが前に進み出る。スケルトンはメギドスの前を通り過ぎ、倒れたマダラメへと向かう。
「マダラメ様! マダラメ様!」
スケルトンが持つ毛玉が、叫びながらマダラメに歩み寄る。
「余を無視するとは何事か!」
メギドスはスケルトンに指を突き付けた。圧縮された空気の弾丸がスケルトンの骨を粉砕し、白い骨片が四方に飛ぶ。
「ケラマ!」
これまで不遜な態度を貫いていたマダラメが、一転して顔色を変える。何を慌てているのかと、怪訝に目を細める。すると地面で黒い物体が動く。スケルトンが持っていた毛玉だ。汚らしい物体には細い手足がついており、うごめくように起き上がると、マダラメのもとに向かおうとする。
「マダラメ様、今お助けします!」
「ケラマ、来るな!」
どうやら毛玉が本体だったようで、マダラメを助けようと這うように動く。
メギドスは慌てるマダラメを見て、口の端を歪めた。
「なんだお前、こんなものが大事なのか?」
メギドスは半笑いになりながら、マダラメと、マダラメを助けようとする毛玉のもとに歩み寄った。そして右足を掲げる。
「やめろ! メギドス!」
叫ぶマダラメに対し、メギドスは薄笑いを浮かべながら足を勢いよく下す。プチッと小さな音がして、毛玉の下半分が潰れた。
「ケラマ! ケラマ!」
絶叫するマダラメが、這いずるように毛玉のもとに向かおうとする。一方で、毛玉はまだ生きていた。もちろんわざとだ。即死しないように計算して踏みつぶした。
「ケラマ、無事か! すぐに!」
這いずりながら毛玉を掴もうとするマダラメに対し、メギドスは再度足を掲げる。
「やめろー!!」
マダラメが絶叫するが、メギドスは心地よいと唸りながら、毛玉を完全に踏みつぶす。
「ん? 何か踏んだかな?」
メギドスは踏みつけた右足を、ぐりぐりと地面にこすりつける。そしてゆっくりと上げた。床には黒い毛玉がペシャンコになって潰れていた。もちろん生きてはいない。
三度マダラメの絶叫が響いた。その声が聞きたかったと、メギドスは頷いた。
「ふん、つまらん奴だ」
紙のように薄く潰れたモンスターの死骸を、マダラメは両手で掬い上げ見つめていた。その目には涙が流れている。
「そんな毛玉の死に悲しむとは、頭がおかしいとしか言いようがないな」
メギドスには、高々モンスターの死に涙するマダラメが理解できなかった。
「うるさい。少し黙れ」
絶叫するマダラメに対し、メギドスは三発の空気弾を放つ。骨が折れて肉がひしゃげるも、マダラメは毛玉の死骸を離さなかった。