第二百二十二話 異変
ダンジョンマスター班目 一巻発売記念更新
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第二百二十二話
祝賀会が催されるソサエティの広場で、マダラメの所持ポイントが十億に到達した。それは入念に計画された、シルヴァーナの武装蜂起の合図でもあった。
今だ!
シルヴァーナは懐から、転移の呪文書を取り出そうとした。だがその瞬間、突如としてソサエティが暗闇に包まれた。
ソサエティの天井には空が映し出され、昼夜が存在する。しかしこれは疑似的なものであるため、悪天候は存在しない。当然日食なども存在しないため、昼に空が暗くなるなどありえなかった。
「なんだ、これは!」
シルヴァーナは突然の暗闇に驚き、転移の呪文書の使用を中断して周囲を見回した。
空からは光が消え去り、漆黒の闇となっている。だが周囲には僅かばかりの灯りがあった。
広場にある会場の飾りつけや、中央に置かれたポイントを表示する球体からは淡く光が漏れている。空の光りだけが消えていた。
シルヴァーナは、即座に目の前にいるマダラメに顔を戻した。
マダラメの策だと思ったからだ。しかしほぼ同時に、マダラメもシルヴァーナを見る。その目には驚きと疑いがあった。
マダラメの仕込みではない?
シルヴァーナは、直感的にこの現象にマダラメがかかわっていないことを察した。だがならばこの現象はいったい何なのか?
会場では居合わせたダンジョンマスター達が、突然の暗闇に驚きざわつき始める。だがすぐに魔法の心得がある何人かが、魔法で明かりを灯し周囲を照らす。
会場には別段変化はない。周囲にはシルヴァーナが配置したモンスターがおり、転移の呪文書を持たせている。だが予想外の事態に、誰も転移の呪文書を使わなかったようだ。
会場では何も起きていない。だがそれが妙だ。タイミング的に見て、明らかに十億を突破した瞬間に明かりが落ちた。十億の突破が引き金になったことは間違いない。ではなぜ? いったい何が?
何かが起きているはずだと、その兆候をシルヴァーナは探そうとした。その時、会場にいたダンジョンマスター達がざわつき始める。彼らが見ているのは、会場の中央に置かれた球体だった。
表面にはマダラメが所持しているポイントが表示されており、十億を突破してなお増え続けていた。だがその数字が、急速に減り始めていたのだ。その勢いはすさまじく、瞬く間に十億もあったポイントが九億、八億と減っていく。
大量のポイントが消費されているのだ。
「なんだ、これは、何が起きている!」
叫んだのはほかの誰でもない、マダラメ本人だった。その顔は演技には見えず、本当に驚いている。マダラメの知らないところで、何者かが大量のポイントを使用しているのだ。だがそんなことはありえなかった。
モンスターやアイテムの複製であれば、知性が与えられた副官モンスターでも代行が可能だ。しかし副官モンスターは生み出したマスターに忠実で、決して意に反した行動はとらない。マダラメの知らぬところで、大量のポイントを使用できるはずがないのだ。しかしポイントはさらに減り続け、ついにすべてのポイントが消費される。
十億もあったポイントがすべて亡くなった瞬間。暗闇に覆われていたソサエティの空に光が戻る。だが空に映し出されるのは、すがすがしい青空ではない。黒と紫がまだらに入り混じった、毒々しい空であった。そして空の中央に、金色の光りが集まり始める。光は徐々に大きくなっていく。
光りが集まるこの光景を、シルヴァーナはどこか見たことがあった
「これは! まさか!」
「シルヴァーナ! 何か知っているのか!」
マダラメがシルヴァーナに問う。
シルヴァーナにも核心はない。だがこの光景は、ダンジョンマスターであれば見たことがあるはずだ。
「アイテムだ! ポイントを使ってアイテムを作った時、こうなるだろう? あれに似ている!」
シルヴァーナは空の光りに注視した。
ダンジョンコアでアイテムを生み出そうとした瞬間、わずかに光が放たれ、直後アイテムが生み出される。その瞬間の光りに似ているのだ。
「アイテム? アイテムだと! 俺のポイントを利用して誰が? いや十億ものポイントを使って、何を作ろうとしている!」
マダラメが叫ぶ。だがそんなこと言われても、シルヴァーナにも分かるはずがなかった。そもそもダンジョンコアで造ることができる最高額のアイテムは、神々が作ったとされる金属、オリハルコン製の武具のみ。それらが一億ポイントと決まっており、一億以上の武具やアイテム、モンスターは存在しないはずだ。
シルヴァーナですら知らない何かが、生み出されようとしていた。
空中に集まる光がさらに大きくなり、人の形をとる。直後光りが弾けた。そして光の下から白い衣を着た、金髪の男が現れた。