第二百十五話
更新が遅くてすみません
現在マダラメの書籍化に向けて作業進行中!
書下ろしエピソード盛りだくさんだよ
第二百十五話
新しくなったカジノダンジョン。その視察を行う中、カイト達は四英雄と別行動をすることとなった。
「なら俺達はカジノフロアを見てこよう。
シルグドが夜霧に目配せをした後、右手側を見た。
アミューズメント施設がある中央部の右側には、カジノフロアが存在する。
カジノフロアは地下五階に分かれており、五つの国がそれぞれのフロアを受け持っている。
カジノには大きな変更点はないと聞いているが、配当率の変更があるらしい。
なんでもスロットだと、スリーセブンで得られる報酬がこれまでの倍になるという。他にも軒並み大当たりの配当が高くなっているらしい。
ただこれまでのカジノの様に、常にプレイヤーに勝たせてくれるわけではないらしい。買った時の報酬は大きいが、必ず胴元が勝つ様に調整されるそうだ。
これには反対意見も大きかった。だがそもそも必ず勝つという、これまでの設定がおかしかったとカイトは思う。
「今日は拳闘の試合で、いい組み合わせが多いからな。前から気になっていた」
シルグドの言葉に夜霧が頷く。
カジノフロアの地下六階は、格闘技の試合会場となっている。
特に今日は各国の力自慢が集まっている。この戦いで勝利すれば世界中に名を広めることができると、野心に燃える冒険者は多い。
「「「拳闘の後は、陸上競技大会を見に行こう」」」
夜霧が懐からパンフレットを取り出す。
パンフレットには、走る男性の姿が描かれていた。
地下七階には競馬場とスポーツ会場がある。
ただこのスポーツ会場は、当初は剣闘や馬上試合が考えられていた。だがダンジョンマスターマダラメは、血生臭い催しを嫌い却下された。
代わりにマダラメはスポーツを推奨し、徒競走や重量挙げ、槍投げや乗馬、弓術などの競技大会を開催するといった。
「「「うちのギルドを引退した者が出る予定でな。応援に行ってやりたい」」」
「ああいいな。そういえば俺の剣の館からも、参加者が何人かいるな。顔を出してやるか」
シグルドが頷く。
マダラメが主催する競技大会は、若手の冒険者達にはあまり注目されていなかった。しかし引退した冒険者や、引退を考えている冒険者達はにわかにざわついている。
冒険者は長くやる商売ではない。歳をとり肉体が衰える前に引退するべきだと、誰もが考えている。だが実際に引退できる者は少ない。
歳を取っても、まだ現役だと思い込んでいるものは多い。それに歳を取ってから、新たな生き方を探すのが難しいというのもある。
そういった冒険者達にとって、競技者としての人生は魅力的だ。
体を動かすのが仕事であれば、冒険者の仕事に近いと言える。それに競技であれば、パワーもさることながらテクニックが物を言う場面も出てくる。
熟練の冒険者の腕の見せ所と言えた。
それに転移陣で繋がっている列強各国も、この競技大会に興味を示している。
というのも、カジノダンジョンは世界各国と繋がっているため、軍事的な行動は厳しく制限されている。しかし各国の人間が顔を合わせれば、どうしても自国を誇りたくなるものだ。
武力を用いずに国威を示せる競技大会を、ちょうど良いと考えているのだ。
現在列強各国は、引退した冒険者や熟練冒険者に声をかけているという。そのうち世界各国の代表が参加した、競技大会が開かれるかもしれない。
カジノダンジョンは、いずれスポーツの聖地となるかもしれなかった。
「ああ、シグルド様。夜霧様。そちらに行くのでしたら、ついでにVIPルームも見てきてもらえますか?」
カイトは四英雄に視察を頼んだ。
カジノフロアの一部には、貴族や上流階級だけが入れるVIPルームが存在する。
こちらはギャンブルだけでなく、上流階級が集まるサロンとなっている。
「大っぴらに違法なことをしていないか、確認をお願いします」
カイトの頼みに、シグルドと夜霧が頷いた。
貴族達が話すだけならばそれでいいのだがここはダンジョンだ、あらゆる国の法律は及ばない。それをいいことに、違法行為を行なっているかもしれなかった。
違法薬物に人身売買、あるいは殺人などを大々的にされるとさすがに困るのだ。ダンジョンマスターマダラメは、自分のダンジョンが危険視されることを嫌う。犯罪の巣窟になりそうな気配を見たら、どうするか分かったものではない。
「分かった。貴族達が羽目を外しすぎない様に注意しておこう」
シグルドが太い顎を頷かせる。
「ならアル。私達はショッピングフロアを見に行きましょう」
「いいわね、新しい靴が欲しかったのよね」
クリスタニアが促すと、アルタイルがダンジョンの左手側に目を向けた。
中央フロアの左手側は、商店が並ぶショッピングフロアとなっていた。ダンジョンで作られた化粧品や洋服、食品などを買い求めることができる。
「他の国もいくつか店を出しているみたいだから、そっちも気になってたのよね」
アルタイルと共にクリスタニアが、ショッピングフロアにと向かう。
ショッピングフロアは商人達にもスペースを貸し出していた。各国の商人達は、自国の特産品や自慢の品を持ち込んで売り出すと言う話だ。
世界中の商品が集まるカジノダンジョンを、商人達は商業の中心地になるだろうと話していた。だがカイトは更なる発展が起きるだろうと予想していた。
世界中の商品が集まると同時に、商品を作る職人達もカジノダンジョンに集まり始めていた。
職人達は他の職人が作った商品を見ることで、大いに刺激されてライバルを研究し、新たな商品を開発するだろう。
商人達は新たな流行を生み出そうと、腕のいい職人を雇うことに躍起になる。そして女性達は流行に乗り遅れまいと、毎日のようにショッピングフロアに通うはずだ。
近い将来、ショッピングフロアは流行の発信地ともなるはずだ。
「ああ、そうだ。アルタイル様、クリスタニア様」
楽しげに話しながら歩き出した女性英雄二人を、カイトは呼び止める。アルタイルが首を返し、赤い髪越しにカイトを見る。
「そちらに行くのでしたら、銀行のフロアも少し見てきてもらえますか?」
カイトが頼むと、アルタイルが小さな顎を頷かせる。
ショッピングフロアを北に行くと、カジノダンジョンが新たに始めた銀行フロアが存在するはずだ。
庶民向けの窓口もあるが、地下には大商人や貴族向けの銀行もあるらしい。
カジノに作られたカジノ銀行を、庶民や冒険者は特に注目していなかった。だが世界各国の商人や貴族達の間で、カジノ銀行の話題が上がらない日はない。
なにせカジノのすぐ近くに銀行があるため、不法に得た金の資金洗浄が容易にできる。隠し財産や裏金の保管場所にはもってこいだった。また世界各国の人間が集うため、取引や密談にも利用できる。そして何より、為替相場の中心となるかもしれなかった。
カジノダンジョンは転移陣を通じて、世界各国と繋がっている。だが世界各国の貨幣の交換レートは、それぞれの国の経済状況により変化する。
世界中の金が集まるカジノ銀行は、貨幣相場をやり取りする金融取引所になると見られているのだ。
また世界各国の商品が入ってくることから、相場取引所になるだろうとも予想されていた。
これらが実現すれば、カジノ銀行は世界経済の中心地になるだろう。
そこまで考えて、カイトは呆れた。
カジノダンジョンは世界中の人が訪れるだけでなく、芸術や文化が集まり、スポーツの聖地でもあり、流行の発信源であり、世界経済の中心でもあるのだ。
数年前ここを発見した時は、とても小さなダンジョンでしかなかった。しかし今やその規模は世界に類を見ないほどだ。
数年前、このカジノダンジョンを発見した時の自分に教えてやりたかった。
お前は気付かないうちに、とんでもないものを発見したんだと。