第二百十一話
第二百十一話
にぎわい見せるカジノダンジョンの幹部達。大きな仕事を終えたため、深い絆と一体感が俺達の間にはあった。もう少し遊んでいたいが、さすがに疲れていた。今日は解散すべきだろう。
「よし、ではそろそろ休もう。ケラマ、もう他に仕事はなかったかな?」
「ああ、一つご報告することが。アルファスとオーメルガですが、ついに強化が完了しました」
「おお、ついにか」
俺は声を跳ね上げた。
我がダンジョンには、戦闘用のモンスターがほとんどいない。作ることもあまりなく、他のマスターから買ったりしていることのほうが多い。
我がダンジョンは冒険者と争わず、攻略されないように立ち回っている。そのため戦うモンスターが不要なのだ。しかし全く無防備だと隙をつかれるかもしれない。
最後の守りとして、俺は二体のモンスターを作った。それがアルファスとオーメルガだ。
俺はこの二体を何度も他のモンスターと戦わせ、経験を積ませてきた。そしてついに強化が完了したのだ。
「そうか、では見に行こう」
「今からですか? お疲れでしょう。視察は明日でも十分かと思いますが」
ケラマが休むように進言する。しかしただ見に行くだけだ。
「なに、あいつらも我がダンジョンを支える柱だ。それに俺も見たいしな」
俺はケラマに向けて手を伸ばすと、ケラマが手に飛び乗る。俺は手を肩に向け、ケラマを肩に移した。ケラマはスケルトンに移動を補助することもあるが、スケルトンを使う以前は俺の肩に乗って移動していた。もうこうする必要もないのだが、俺は時折こうしたくなる。
「アルファスとオーメルガはどこだ?」
「玉座の間を警護しております」
肩のケラマが告げるので、俺は玉座の間へと向かった。
玉座の間は地上に繋がるダンジョン部分と、俺たちが生活や会議を行う居住区との接合部にある。
侵入者にこれ以上ダンジョンを侵されてはならず、最後の関門と言える場所だ。
俺が玉座の間に入ると、運動場ほどもある広間には二体のモンスターが待っていた。
一体は漆黒の鎧を身に包み、背に鷲の翼を持つ騎士であった。
全身を装甲に覆われているため顔はわからない。しかし兜の下には鬼火の如き双眸が光っている。
このモンスターこそアルファス、我がダンジョン最強の一角である。その腰には一振りの黒い剣が吊るされている。あれぞサイトウから奪った神剣ミーオン。そのコピーだ。
コピー品だが性能は元のものと変わらない。アルファスがミーオンコピーを振えば、断てぬ物などないだろう。
アルファスの背後には、低く唸る声が響く。俺が目を向けると、漆黒の毛皮に覆われた、巨大な獅子が姿を見せる。
黒い毛皮に炎のように逆立つたてがみ。頭には雄牛の如き太い角が生えている。
こちらのモンスターの名はオーメルガ。全てを破壊する獣である。
口から覗く牙は大きく、床を歩く爪は鋼鉄すら容易く引き裂く。体の大きさは優に三十メートルを超え、大きな広間もオーメルガがいると狭く見える。
二体とも、大きな圧迫感を放っていた。以前見た時よりも格段に強くなっていることが肌でわかる。
「見事だ。素晴らしい」
俺は両手を広げて讃えた。この二体がいれば、どんな敵でも倒し切れるだろう。
「ところで、強化は完了したと言ったが、もうこれ以上強くはなれないのか?」
俺は肩に乗るケラマに尋ねた。
アルファスとオーメルガは、倒したモンスターを吸収し、強くなる能力を付加している。そして何度も強いモンスターと戦わせて、じっくりと力をつけさせた。
この強化には大変なポイントがかかった。しかしその価値はあると思っている。問題はこれ以上強くなれないのかということだ。
「現状で入手可能な、最高額のモンスターを何度か吸収させました。しかし力の上昇を測定することはできませんでした。あとはアルファスかオーメルガ、どちらかを吸収させる以外にないでしょう。ただここが上限で、これ以上は強くならない可能性もあります」
ケラマの答えに、俺は口をへの字に曲げた。
我がダンジョンは大きくなりすぎた。敵視している勢力は当然多くいる。ダンジョンの周辺にいる四英雄もその一つ。彼らはいつか俺に挑んでくるだろう。その時の備えとして、最強の戦力を揃えておく必要がある。しかしこれ以上強くなる保証もないのなら、無理をしてやるべきではない。
「なぁケラマ。二体が戦えば、どちらが勝つのかな?」
肩のケラマに尋ねると、我が副官は糸のように細い手で自分の顎をなでる。
「ふむ、そうですね。アルファスはミーオンコピーも手にしているため攻撃力は高く、またオーメルガと比べれば小さいので敏捷で被弾面積も少ないです。一方オーメルガは巨体を生かした攻撃と体力が秀でています。ミーオンコピーがある分アルファスがやや有利ですが、オーメルガが相打ち覚悟で挑めば……」
ケラマの評に俺は頷く。あとは仮想敵である四英雄がやってきた時、倒せるかどうかだった。
戦力の上ではアルファスとオーメルガが上だろう。ただ四英雄達も伊達に英雄を名乗ってはいない。必ず起死回生の一手打ってくるはず。
その時にどうなるかだが、こればかりはその時になってみなければわからない。
「まぁ、ひとまず体制は整ったな」
呟きながら、俺は戦いの予感を感じていた。
俺の牙城は高く積み上げられ、もはや鉄壁の守りとなっている。通常ならば誰も攻めては来られないほどの盤石な守りだ。しかしだからこそ、この壁を打ち破ろうとする者達が現れるだろう。
「あとはいつくるかだ」
俺はまだ見ぬ敵を待ち焦がれた。
更新が遅くてゴメン