第二百一話
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第二百一話
サイトウがラケージと共に部屋から出ると、丁度ダンカンとカスツールも部屋から出てきたところだった。
ラケージの部屋から出てきたサイトウを見て、二人はいやらしい笑みを浮かべた。
「おいおい。昨日はお楽しみだったようだぜ、こいつら」
「ケケケッ、羨ましいっスね」
下品な笑みを見せるダンカンとカスツールを無視して、サイトウは闘技場へと向かう。背後では二人が囃し立てていたが聞こえないふりをした。
「ん? どういうことだ? これは?」
闘技場に到達したサイトウは、怪訝に顔を顰めた。
「ん? なんだこりゃ」
「どういうことっスかね?」
サイトウに追いついてきたダンカンとカスツールも、揃って首を傾げる。ラケージも小さく唸る。
サイトウたちがいつも戦っている闘技場には、二つの出入り口が存在する。
一つはサイトウ達が先ほど歩いてきた、寝泊まりする部屋に通じている扉だ。そしてこの扉の反対側にあるもう一つの扉は、戦うべきモンスターが放たれる扉だ。
従来であればサイトウ達が闘技場に着いた後、鐘が鳴り奥の扉が開いてモンスターが押し寄せてくる。だがその扉がすでに開かれているのだ。
サイトウは素早く、闘技場の内部を観察して回った。モンスターの姿はない。サイトウはさらに魔力を四方へと放出した。
放出された魔力は、他の魔力に反応する性質がある。これにより魔法で透明化して姿を隠している場合は判別できる。
「ふむ、いない……な」
サイトウは再度闘技場を見回しながら呟いた。
魔力による探知だが、隠蔽する方法もあるため絶対ではない。ただ隠蔽された兆候や違和感もなかったので、おそらく大丈夫だと思う。
「私の探知にも引っ掛からなかった。姿を隠したモンスターはいないと思う」
「呼吸音や匂いもしないっスね」
同じように魔力を放出したラケージと、鼻と耳で周囲を探っていたカスツールが呟く。三人の探知が引っかからないのであれば、敵はいないと判断していいだろう。
モンスターが放たれていないようだが、意味がわからない。なぜ扉が開いたままになっているのか?
サイトウはしばしその場で待った。何か指示があるかも知れないと思ったからだ。だが何の音沙汰もない。
サイトウがどうすべきかと思案していると、戦鎚を肩に担いだダンカンが何も言わず正面の扉に向かって歩き始める。
「おっ、おい」
サイトウは止めた。この先に何が起きるかまだ何もわかっていないのだ。すると肩越しに振り返ったダンカンが蔑みの目を向ける。
「へっ、ここで待ってて何がわかるってんだよ。怖いんならずっとそこで立ち止まってろ」
ダンカンの物言いに怒りを覚えると、そばにいたラケージとカスツールも進み始める。
二人共ダンカンと同意見らしい。
サイトウは逡巡した。
たしかにここで待っていても、何の手がかりも得られそうになかった。
行く手に何が待ち受けているのかわからないが、危険な先頭をダンカンやカスツールに押し付けられるのなら悪くはない。
サイトウはダンカン達を追いかけ、最後尾についた。
闘技場のもう一つの扉を抜けると、広く長い通路に出た。
大型のモンスターが通れるように、道幅が広く天井も高い。広い道はまっすぐに進み、枝分かれする道は見られない。
しばらく進むと、通路の両脇に鉄格子で覆われた牢獄が十個ほど並んでいた。
巨大な牢獄で、竜さえも閉じ込められそうだった。おそらく闘技場に放つモンスターをここに押し込んでいたのだろう。
牢獄は見通しがよく、何もないことは一目瞭然だったので、ダンカン、カスツール、ラケージは見向きもしない。
サイトウもまっすぐに進む。すると通路の終点が見えてきた。
終点でサイトウたちは立ち止まった。視線の先には、幾つもの扉が並んでいた。
これまで歩いてきた通路と比べればとても小さく、人が一人がようやく入れるほどの大きさだった。そんな扉が二十ほど並んでいる。
二十ある扉のうち、四つの扉は開け放たれていた。しかし残りの扉は閉じられている。
サイトウ達は空いている扉には近づかず、閉まっている扉を調査した。
閉まっている扉には鍵がかけられており、開く気配はない。扉は木製であるため、壊すことは可能だった。しかし無理やりこじ開けた先が、正解とは限らない。というかどれを選んでも全て罠である気がする。
「空いている扉は四つ、ここには四人」
カスツールが口を開ける扉と、自分達を見回す。
「別々の扉に入れってことか」
ダンカン担いだが戦鎚の柄で、自分の肩をトントンと叩く。
目的はわからないが、分断したいのだろう。さてどうするか? 扉は小さいが一列になれば、一つの扉に全員が入れないこともない。
「どうする? 私のお尻を眺めたいっていうのなら、後ろについて来ても構わないけど?」
ラケージがお尻を振るわせ、挑発的な笑みを見せる。
「女のケツを眺める時は、裸にする時と決めててな」
ダンカンがつまらなそうに吐き捨てる。
「姐さんが裸になって尻を振ってくれるんなら、ついていきやすけどね」
カスツールがケケっと笑う。
「そう、残念ね」
ラケージがつまらなそうに呟くと、ダンカン、カスツール、ラケージは誰からともなく動き出し、それぞれが思い思いの扉を選び入っていく。
どうやら三人共、馴れ合うつもりはないらしい。
三人が小さな扉を潜ると、扉が勝手に閉まっていった。
一人残されたサイトウは、一番近かったダンカンが入った扉に歩み寄り手をかける。
扉には鍵がかかっており、開く気配はなかった。やはり一つの扉に一人らしい。
空いている扉は残り一つ。相手の思惑に乗るのは癪であったが、ここは従う他なかった。何故ならここに残っても食料がない。待っているのは飢え死にだ。相手の思惑に乗って進むしかなかった。
「仕方がない。行ってやるか」
サイトウはため息一つ。残っている扉を潜った。