第二十話 カジノホテル近日開店
今日の分です
第二十話
『カジノホテル、近日開店予定。予約受付中』
そんな張り紙が出されたのは、カイトがダンジョンマスターから手紙を受け取り、幾度かやり取りをした後のことだった。
ギルド長が手配した料理人ガララさんはここで働くことに意欲的で、やってきた三日後には店を開き、給仕係も十分にそろっていない中で開店記念の催しを行い、無料で料理がふるまわれた。
催しは大盛況で終わり、翌日からはレストランが稼働し、遅れて三日後にはバーも開店した。
冒険の行き帰りに立ち寄り、食事をしたがっていた冒険者は多かったし、カジノで勝った者がゆっくりと飲む場所も欲しがっていたので、利用者は多かった。
かくいうカイトもその一人だったわけだが、そこに来て先ほど見た張り紙が張り出されていた。
「カジノホテルねぇ、また何かやるつもりなの? このダンジョンは」
メリンダは張り紙を見ながら呆れた声を出した。
「ホテルって宿泊所のことなのね、一ヵ月借りて一人部屋で九万? 三人部屋で一室二十五万?! 高っか!」
値段を見てメリンダが声を上げる。
確かにこれは少し割高だ。三人で割れば一人頭は八万ちょっと。ロードロックなら一ヵ月の家賃は五万からが相場だ。これまで安値が売りのカジノだったのにどうしたのだろう。
「部屋の内覧ができるみたいだな」
張り紙には、見学ができることが書かれている。
「借りるかどうかは別として、見に行こうじゃないか」
高額すぎるので借りることはないだろうが、このダンジョンの変化は見ておきたい。
仲間たちも異論はないらしく、簡易ホテルがある区画へと足を延ばすと、新たな通路が出来ており、区画が拡張していた。
近づくと新ホテルの入り口の脇では一体のスケルトンが立っており、恭しくお辞儀をする。
「これはカイト様。ようこそいらっしゃいました」
スケルトンは俺を見てあいさつをしてくる。
おそらくダンジョンマスターが操っているのだろう。ほかのスケルトンとは動きが違うのでわかる。
しかしダンジョンマスターとは手紙のやり取りを仲介したが、名前を憶えてくれると思うと少しうれしい。
「カイト、喜んでない?」
メリンダが目ざとく俺の内心を言い当てる。もちろん無視する。
「それで、新しいホテルの中を見られるそうだけど、見られる?」
「はい。どうぞ、こちらです」
スケルトンが案内してくれて、三人部屋を見せてくれた。
「へぇ、いいじゃない」
中を見るなり、メリンダが声を上げた。
三人部屋は大部屋と個室が三つ付いた部屋だった。
大部屋には大きな机に椅子、棚や押入れはもちろんのこと、鎧をかける鎧掛けや武具を置く棚もあった。
内装も綺麗で絨毯や絵なども飾ってある。
これまでの簡易宿泊施設は、値段は安いが狭くてあくまで簡易だった。ここならのびのびと宿泊できる。
さらに簡易だがトイレとシャワーがあり、小さいが魔導具のコンロと水が出る蛇口もついている。大部屋に集まって会議をしながらお茶を飲むぐらいならできそうだ。
個室の方は寝台に小さなテーブル。棚や服を掛ける洋服ダンスもついている。品質を考えればなかなかいい宿だ。しかも掃除付きらしく、札をかけておけば勝手に掃除をして寝具の敷布も交換してくれるのだとか。高価なだけあってサービスは良いようだ。
ロードロックでこのレベルの宿に泊まろうと思えば、八万はかかるだろう。相場に見合った価格だが、俺たちには手が出ない価格帯だ。
「ん? これは?」
机には三枚の紙が置かれていた。
朝食券と書かれている。
「この部屋に宿泊のお客様には朝食が付いてきます。レストランで朝食をご用意させていただきますので、その券をお持ちになってください」
朝食付き、しかしこれは別に珍しくもない。大抵の宿なら昨日の残り物とパンぐらいは出してくれる。量が少なくて困るけれど。
「当ホテルの朝食はビュッフェスタイルとなっておりますので、一度ご利用ください」
「ビュッフェ? なんだそれは?」
聞いたことのない単語だった。そしてわくわくする。このダンジョンで馴染みのない言葉は決まっていいことの前触れだからだ。
「自分で食べたいものを取っていただく形態の食事方法です。大きなテーブルにお食事をご用意させてもらいますので、それをお客様が好きなものを好きな分だけお取りください」
「ちょっと待て、それは食べ放題ということか?」
仲間たち、とくにガンツやトレフがざわつく。
「はい、そうなります」
てらいもなくスケルトンはうなずく。
「どんな食事なの?」
食べ放題でもまずい食事ばかりだと困ると、メリンダが問う。
「数種類のパンに卵料理と肉料理。サラダに果物。スープとジュースが付いてきます」
肉料理と聞いて男性陣が、果物と聞いて女性陣がざわついた。
「味の方に関しては、口で説明することはできませんが、レストランで提供している品質と同程度を保証いたしますよ」
さらりと言ってのけるが、レストランの食事は品質が良いことで有名だ。値段は高いが、普段口にすることのできない高価な食材も多く、値段以上だとロードロックの商人たちも噂していて、食道楽の商人の中には、通う者も出てきている。
「その朝食、ホテルの宿泊客以外は利用できないの?」
もし泊まれなくても利用したいと、メリンダが訊ねる。
「ご利用になれますよ。その場合は一律千クロッカとさせていただきます」
食べ放題と言え、一回の朝食に千クロッカは高い。しかしホテルに泊まれば無料だ。
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
「おい、どうする?」
事情が変わった。ちょっと作戦会議だ。
「八万は高いが食べ放題か」
ガンツは少し迷っているようだった。
「でも一食千クロッカの朝食がついてくるなら、差し引きすれば宿代は五万よ、これは安くない?」
メリンダは乗り気だ。ホテルの設備はいいし、ここなら毎日風呂に入れる。
ガンツやトレフは食い放題の魔力に負けた。シエルとアセルも綺麗な部屋を喜んでいる。
「部屋、空いてます?」
俺は向き直りスケルトンに尋ねた。
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