表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/237

第百九十七話

 第百九十七話


 竜の腹をぶち破ったサイトウに、大量の血と臓物が降り注ぐ。全身は血でぬれ、顔に腸の切れ端がかかる。

「けっ、生き延びやがったか」

 戦鎚を担いだダンカンがつまらなそうに吐き捨てる。

「ケケケッ、汚ねぇっスねぇ〜」

 小男のカスツールが肩を震わせる。


 サイトウは顔にかかった血や臓物を左手で跳ね除け、回復魔法を発動した。

 竜のブレスにより全身が焼け爛れ、痛みが限界だった。


 傷を癒すサイトウのもとに黒いブーツに足を包んだラケージが歩み寄る。ラケージが手を差し出すと、手には白いハンカチがあった。


「よかったら……使って」

 ラケージは上目遣いでサイトウを見る。その頬は赤みを帯び、内股を擦り付けてモジモジとしていた。

 サイトウは顔を背けラケージを無視する。もちろんハンカチも受け取らない。だがラケージは怯まない。


「あの……さっきはあんなこと言ったけど、今日、私の部屋に来ない?」

 憂を帯びたラケージの瞳は妖艶ですらあった。そこに嘲笑の声がかけられる。

「直々のお誘い、羨ましいっスねぇ!」

「相手してやれよ、勇者様よ!」

 カスツールとダンカンが囃し立てる。


「ねぇ、いいでしょう!」

 誘うラケージの顔はすでに欲情し、出来上がっていた。短いスカートから除く内股を見れば、僅かに濡れているのが見てとれた。

 サイトウの顔が嫌悪に歪んだ。


 ラケージは血が好きなのだ。そして血まみれのサイトウに興奮して、欲情までしている。ラケージの性癖に顔を歪めながら、サイトウはその場を離れた。


「ねぇ、待ってるから!」

 ラケージが後ろから声をかけるが、サイトウは無視して闘技場を歩く。

「相手してやればいいのに」

 ダンカンが声をかけるがサイトウはこれも無視する。目指すは闘技場の左端だ。


 闘技場の左端には、黒い物体が横たわっている。焦げた肉の匂いをあげるその物体は、よく見れば人の形をしていた。魔法戦士のカニンガムだ。体の下には黒焦げの剣が転がっている。


 サイトウは足でカニンガムの体を押す。炭化した体が崩れ、下から赤黒い肉が見える。

 死んでいることは明らかだった。


「なんだ、こいつ。死んだのか」

 ダンカンがつまらなそうに、カニンガムの死体を見下ろす。

「まぁ、こいつは死ぬと思ってたっス」

 カスツールが笑う。


 この闘技場では死は付きものだった。共に戦っていた戦友相手でも、死者を悼む感情など無縁であった。ただサイトウは一瞬だけ、生きている頃のカニンガムを思い出した。


 カニンガムは魔法と剣技を併用して戦う魔法戦士だった。特に相手の体に剣を突き刺し、体内で魔法を発動して内部から破壊する戦法を好んでいた。


 サイトウはカニンガムの戦法を盗み、その技術を自分のものとしていた。サイトウが盗んだ技術はそれだけではない。剣技は騎士のバーゼルから、光弾の魔法は魔導士レイラから、防御結界は僧侶のポルムグが使っているのを見て覚えた。


 地下で戦う者たちの技や魔法を見て覚え、サイトウは強くなっていた。

 カニンガムはサイトウの師とも言える。しかし……。


 サイトウはカニンガムの死体を蹴り飛ばして退けると、体の下にあった黒焦げの剣を手にする。


「黒焦げだな、使い物になんのかよ」

 ダンカンはサイトウが死体から奪った剣に視線を移す。

「いるのか?」

 サイトウが焦げた剣を見せる。この闘技場では、死体から奪ったものは早い者勝ちか奪い合いとなっている。


「いらねぇよ、そんなきたねー剣」

 ダンカンが吐き捨てる。

 サイトウはマジックボックスのスキルを使用し、焦げた剣を収納する。そしてカニンガムから目を離すと、カニンガムのことを綺麗さっぱり忘れた。


 技も武具も、カニンガムから奪えるものは全て奪いとった。もはや何も奪えるものはなく、サイトウにとってカニンガムは完全に無価値となったからだ。


 天井から音が響きわたる。闘技場での戦いが終了したのだ。

 サイトウは息を吐き、今日の夕食のことを考えた。


ラケージはドン引きするほどの変態だと思う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] “ラケージはドン引きするほどの変態だと思う” そこに居る連中はみんなアタオカ(頭おかしい)だと思う…です。 自業自得でしょうがね。みんなろくでもない末路を迎えそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ