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第十八話 ギルドからの料理人

今日の分です

 第十八話


「まったく! ギランのやつめ!」

 ガララは吐き捨てながらロードロックを出て街道を歩いた。

 自分は一昔前までは名の知れた冒険者だった。ドワーフとして生を受け、屈強な体を持つガララは冒険者に向いていた。若いころは苦労もしたが、難易度の高いダンジョンに挑み、いくつか攻略したこともあった。現在ではギルド長をしているギランとも組んでいたことがある。

 しかしその名も今は昔。膝を痛め冒険者を引退してからは、若い頃に興味のあった料理の道に進んだ。

 だが冒険者であった頃の気性が災いし、自慢の料理に文句をつけた貴族をたたきのめしたため、店は廃業に追い込まれ、借金まで背負う形となった。かつてのよしみでギランが助けてくれたが、その友情も限りがあったらしい。


「ダンジョンで働けなどと、ふざけたことを言いおって!」

 借金を肩代わりしてくれて、さらに新しい仕事先を紹介してくれたが、話を聞いてみるとダンジョンの中にあるという店らしい。

 ダンジョンの中のレストラン。

 あまりにも馬鹿にしている話だった。


「まったく、最近はどうかしとる」

 妙なダンジョンの噂は聞いていた。やれ博打が出来るとか、風呂があるとか言うふざけたダンジョンだ。

 しかも多くの冒険者がそこに入り浸っているらしい。

 ダンジョンもダンジョンなら、そんなところを放置し、攻略しない冒険者も冒険者だ。自分が若い頃なら、ダンジョンと聞けば喜び勇んで駆けだし、強敵との戦いに血が沸き、最奥に眠るお宝に心躍らせたものだ。


「しかしそんなところで働かされるとは、これも時代か」

 なんとも情けない。しかしギルド長には借金を肩代わりしてもらった恩がある。少なくとも借金を返すまでは、そこで働かなければならない。

 借金を返し終われば、すぐにやめてやる。

 息巻いて歩みを強めると、例のダンジョンが見えてきた。


「ふん、ここがカジノダンジョンか。出来立てと聞いていたが、入り口だけは立派だな」

 発見されてまだ半年も経っていないはずだが、入り口は中規模のダンジョンと言ったところだ。

 この程度、伝説にも語られる八大ダンジョンを知るガララからしてみれば、どうということはなかった。しかし中に一歩踏み込んでみれば驚きの連続だった。


「これがダンジョンだと?」

 赤い絨毯が敷き詰められ、天井には煌めく照明。軽快な音楽まで流れている。

 奇妙な台に向かって座る冒険者たちや、カードに一喜一憂する者たち。サロンのようなところでは、ほのかに湯気を立ち上らせた女性冒険者が、楽しげにお喋りをしていた。


「本当にダンジョンか?」

 とてもダンジョンとは思えなかったが、ちらほらとスケルトンの姿が見えた。

 台の前ではスケルトンがカードを配り、奥では鉄格子の向こう側で、スケルトンと冒険者が商品をやり取りしている。

 異様な光景にしばし呆然としたが、本来の目的を思い出した。

 確かここには、ギルドから派遣された冒険者が詰めているはず。

 周囲を見回すと、入口のすぐ隣に詰所があった。


 壁際に佇み、槍を片手に常に周囲に目を配っている。

 油断なく警戒しているその姿に、少し感心した。時代が変わったと思ったが、腕の立つ冒険者は健在のようだ。広間を見渡しても、何人か周囲を警戒している者が見受けられた。新しい才能というものはいつの時代にもいるようだ。


「ガララという者だが、ギランから話を聞いているか?」

 警備の者に歩み寄り訊ねる。

「ああ、例の。少しお待ちください」

 警備隊はダンジョンの間を歩いている、一体のスケルトンに近づいていった。

 そのスケルトンは雑巾を手に、椅子を拭いていた。

 スケルトンが掃除をしている!


 驚きをよそに、警備隊が掃除をするスケルトンに話しかけると、スケルトンの動きが変わり、掃除用具を置いてこちらに近づいてきた。

 モンスターが近づいてくるのを見て、ガララは腰の斧に手を掛ける。抜きはしないが、油断はできなかった。


「お待ちしておりました、ガララ様ですね」

 スケルトンは流ちょうにしゃべった。

 しかしガララは驚かない。スケルトンやゴーレム。パペット系モンスターはダンジョンマスターの傀儡でもあり、自在に操ることが出来る。会話することも可能で、ガララ自身も過去に何度か声を聴いたことはあった。


「そうだ、ギルド長のギランから話は聞いている。俺を雇いたいんだってな」

「その通りです」

「一つ聞くが、お前はダンジョンマスターか?」

「いかにもその通りです。とはいっても、これは遠隔操作しているだけですので、本体ではありませんが」

 ズバリ問うと、スケルトンはあっさりと認めた。

 これまでダンジョンマスターが操る傀儡と出会ったことがあるとはいえ、たいていは一方的に主張をするだけのことが多く、こうして会話と呼べるものを交わしたのはガララとしても初めてだった。


「そうか」

 頷きつつも本当にダンジョンマスターに、モンスターに雇われるのだと思うと、泣けてくる話だった。

「では職場を見てもらおうと思いますので、ついてきてください」

 スケルトンが歩みだすので、仕方なくついていくが腰に下げた斧をいつでも抜けるようにしておく。

 ただのスケルトン。強そうには見えないが、ダンジョンマスターが操っているのだ、どんな仕掛けがあるかわかったものではない。身の危険を感じれば、この斧で真っ二つにしてくれようと、手になじんだ斧の柄を確かめた。


感想やブックマーク 誤字脱字の指摘などありがとうございます

今日は降りるにももう一話投稿できると思います

ロメリア戦記ともどもよろしくお願いします

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