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第百六十二話

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 第百六十二話


 巨大な鐘の音が聞こえたのは、サイトウがラケージの部屋に囚われて三日目のことだった。

「あら、今回は早いのね。残念。もう少し楽しみたかったのに」

 ラケージは口を尖らせると、身支度を整え始めた。

 ロングブーツに白い足を通し、レザードレスを羽織る。そして黒い鞭を束ね、腰のホルダーに通した。


「それじゃぁ、また今度楽しみましょ」

 ラケージはサイトウに向けて投げキッスを送ると、踵を返して部屋から出て行った。


 残されたサイトウは床にうずくまったまま、すぐに動くことができなかった。動けるはずもなかった。

 サイトウの状態は散々だった。衣服を全てはぎ取られ、下着一枚しか身に着けていなかった。露わとなった体には、いくつもの切り傷に刺し傷が刻まれ、顔は火傷に爛れていた。脇腹や背中には青黒い打撃のアザが残っている。肋骨は何本も折れていた。


 全てラケージにやられた傷だった。

 もちろんサイトウも抵抗した。剣に魔法に打撃に組み技、できることはなんでも試した。しかし何一つ通用しなかった。

 ラケージは強かった。振るう刃は太刀筋すら見えず、魔法を使えば発動が速く、そして強力だった。打撃戦や組み技にも精通し、拳はサイトウの臓腑を打ち抜き、組みつかれては関節を決められ、体中の骨という骨をへし折られた。


 普通の人間なら、何回も死ぬ様な傷を負わされた。だがラケージは細心の注意を払い、サイトウが死なないラインを見極め、常にぎりぎりの傷を与えた。また勇者として優れた資質を持つサイトウの体は、その責め苦に耐えることができてしまった。


「おわった……のか?」

 ラケージの姿が見えなくなってしばらくして、サイトウはようやく安堵の息をついた。しかしもたもたしている暇はなかった。なぜラケージが部屋から出て行ったのかわからないが、今なら部屋から脱出することができる。


 サイトウは部屋に残されていた自分の服や武器を手にし、這い出る様に外へと出た。

 扉を開けて外に出ると、毒の霧は消え去っていた。他の部屋からも武装した男たちが出てきて、通路の奥にある広間、この間モンスターと戦った闘技場へと向かっていく。

 サイトウも服や武器を身につけて、彼らに続いた。


 闘技場に出ると、武器を身につけた男女が集まっていた。その中にはレザーコートを羽織るラケージの姿もあった。

 ラケージの瞳がサイトウを見つけると、軽くウィンクをして見せる。サイトウは背筋に寒気を覚え、慌てて視線を逸らした。


「だいぶしぼられたようだな」

 嘲笑の声がかけられ視線を向けると、禿頭に戦鎚を肩に担いだ男、ダンカンがいた。その横には、頭巾を被り腰に短剣を身につけている小男のカスツールが、口の端を歪めて笑っている。


「気をつけろ、ラケージのやつは気に入った男がいたら、しゃぶりつくしちまうからな」

 ダンカンが下品な笑みを見せる。

「三回だ。ラケージと同じ部屋を過ごして、三回耐え切ったやつはいない」

 ダンカンが三本の指を見せる。その言葉に嘘はないだろうと、サイトウは直感した。

 あの様な責め苦、何度も耐えられるわけがない。今回はぎりぎり耐えることができた。だがあれをもう一度されるなど、想像するだけで無理だ。それに二回目となれば、ラケージの拷問も激しさを増すだろう。耐えきれるわけがなかった。


「ラケージのやつは、気に入ったおもちゃは大事に扱うが、興味がなくなったらすぐ壊すからな。頑張れよ、俺はお前が四回目まで耐えるのに賭けてるんだ。しっかり耐えろ」

「ヘヘヘッ、俺っちは三回目に賭けたから、早めに諦めてくれていいぜ」

 ダンカンとカスツールが笑う。


「そうだ、一応お前に教えておいてやろう。お前も薄々気付いていると思うが、俺たちはこの闘技場でモンスターと戦わされている。そして倒したモンスターの数や強さに応じて順位づけがされている」

 ダンカンが人差し指を立てて、この闘技場のルールを語った。


「順位に応じて休める部屋のグレードが決まる。当然、順位が高い方がいい部屋で、食事も豪華だ。逆に順位が低いと部屋も飯もしょぼくなる。ただし、最下位は部屋なしだ。部屋に入れないと毒の霧でくたばる。誰かに部屋へ招いて貰えば助かるが、わざわざライバルを助けて、飯を分けてやる物好きなんていねぇ。一人を除いてはな」

 ダンカンが顎を指す。その先には長い黒髪のラケージがいた。


 サイトウは息を呑んだ。

 最下位になれば、またあの悪夢の時間が始まってしまう。それだけは絶対に避けなければならなかった。


「俺っちもいいこと教えてやんよ、あそこにいるビストルクがお前のライバルだ」

 カスツールがローブを着た男を指差す。

 ビストルクは頬がこけた、薄汚れた男だった。顔色は青白く、目は窪んでいる。


「お前が来る前まで、あいつがドベだった。少なくとも、ビストルクよりいい成績残さねーと、またラケージに絞られることになるぜ?」

 カスツールがケケケッと笑う。

「だがビストルクもラケージに二回絞られているからな、あいつも必死よ。頑張らねーとなぁ」

 ダンカンとカスツールが笑って去っていく。


 サイトウは荒い息を吐いた。

 さんざんラケージにいたぶられたせいで、ろくに眠れず疲労も蓄積している。食事も満足に取れていない。だがここが正念場だった。なんとしてでもビストルクよりいい成績を残さないと、今度こそ本当に死んでしまう。


 サイトウは回復魔法を体にかけて、残っていた傷を治癒する。

 この三日間、何度もラケージにいたぶられては自分で治療した。そのおかげで回復魔法だけは格段に上手くなった。


 体の治癒が終わると、サイトウはアイテムボックスのスキルを使い、残しているすべての武器と防具を取り出した。

 鋼鉄の剣に胸あて、兜に盾。どれも高価な品ではないが使用には十分耐えるものだった。

 これで持っている武具はすべてだ。あとアイテムボックスに残っているのは、とっておきのエリクサーが一本だけだ。

 武具を装備し、留め具がしっかり止まっているかを確認していると、闘技場に鐘の音が響き渡った。


 鐘の音が終わると同時に、閉まっていた闘技場の鉄格子が開いていく。ラケージが鞭を構え、ダンカンが戦鎚を、カスツールも短剣を握りしめる。

 サイトウも息を呑んで剣を構えた。


更新が遅れて申し訳ありません

次回更新は早めにできると思います

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