第百四十七話
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第百四十七話
その日、俺は配下であるエトと共にソサエティにやってきていた。馬車はソサエティの外れにある店の前で停車した。
「マダラメ様、足元にお気を付けください」
「俺は大丈夫だが、お前こそ気を付けろよ」
エトの十二の頭の内、丑の頭が俺に注意した。先に馬車から降りたエトが俺をエスコートしようとするが、十二もある頭を重そうにして足取りが怪しいのはエトの方である。
エトは頭脳労働担当として生み出したモンスターなので、頭は十二個もあり、それぞれが知性化してある。しかし体は戦闘用ではないため、体力は俺とそれほど変わらない。戦闘用ではないにしても、もっと体力をつけさせるべきだったと後悔する。
俺が手を貸してやりエトを支えながら前を見ると、そこには一つの洋館が建てられていた。
この洋館は、あるダンジョンマスターが別荘にと建築したものだ。しかしそのダンジョンマスターは、すでにダンジョンを攻略されておりこの世にはいない。残された別荘は人の手に渡り、現在ではサロンとして貸し出されている。
サロンというのは、本来は客間という意味だ。だがソサエティでは、ダンジョンマスターが密談を用いる時に使う部屋のことだ。今日はここでダンジョン連結をするための話し合いが行われる予定だ。
「しかしマダラメ様。話し合いをサロンで行うのはいいとして」
「我々が所有する物件でやればよかったのでは?」
「その方が防諜対策もそうですが、警備も万全で安心して話し合えるのに」
エトの中の寅、午、申の頭が口々に話す。
「そういうな、先方の指定だ。ここがいいんだとさ」
「そこです! なぜマダラメ様が相手に合わせてやらねばならぬのです!」
「向こうは我らに多額のマナを借りており、我々が提案する救済策が無ければ、早晩滅びるのですよ?」
「本来なら連中は泣いて慈悲を乞い、我らの元に足を運ぶべきです」
「にもかかわらず、会談場所を指定するなど、何様のつもりですか!」
巳、辰、酉、卯がそれぞれに語気を荒げる。
「まぁ許してやれ。少しでも主導権を取りたいのさ」
エトは納得がいかない様子だが、俺は気にしていなかった。
交渉相手のダンジョンマスターは、このままでは滅びを待つばかりの弱小ダンジョンだ。俺は救済の手を差し伸べたが、弱いが故に差し出された俺の手が信用できないのだ。
「強いのは俺達だ。どれだけ粋がっても、連中はこちらの言い分を呑むしかないんだ。少しばかり相手の条件を呑んでやって、いい気にさせてやればいいのさ」
「しかし、ここに敵の刺客がいたらどうします。マダラメ様は今日も生身なのですよ」
子の頭が、小さな額にしわを寄せる。
この言葉に俺は笑いそうになった。連中にそんな財力はない。シルヴァーナをはじめ、敵対勢力と接触した形跡もない。何よりこのサロンの内部には、すでに透明化した配下が何十人も乗り込んでいる。隅から隅まで安全は確認済みだ。ケラマが偏執的なまでに、俺の安全を第一に考えた結果だ。
「その時はあれだ。お前が助けてくれるのだろう?」
俺は笑ってエトに目を向けると、エトが二十四の瞳を大きく見開く。
「私がですか?」
子の頭がふらつく自分の体を指差す。
「ああ。信頼できる護衛として連れてきたつもりだったのだが? 違うのか?」
俺が言ってやると、エトは十二の口で笑声を上げた。
「これは責任重大」
「各々方、どうやらこれまで与えられた中で、最大最高の仕事の様ですぞ」
「我らの無駄に多くある頭で、全ての包囲を見張るのだ!」
亥が声を張り上げ、未が笑う。戌が四方に目を配る。
「おう、頼んだぞ」
俺は気をよくしたエトと共に、洋館の中に足を踏み入れた。
ちょっと今回は短めで申し訳ありません。
後半部分があったのですが、どうにもまとまり切らず、ちょっと時間が掛かりそうだったので、急遽前半部分だけを
近いうちに後半も上げます