第百四十六話
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第百四十六話
マリアとの視察を終えた俺はダンジョンに戻り、会議室へと向かった。会議室にはケラマが長机の上にちょこんと座っている。そしてケラマを挟むように、首に九つの頭蓋骨を下げた袈裟姿のゲンジョーと、十二の頭を持つエトが椅子に座っていた。
「おかえりなさいませ、マダラメ様。視察の方はどうでしたか?」
「まぁまぁだよ」
ケラマが俺に向けて頭を下げながら訊ねた。
「ホホホ、それはよろしゅうございましたな」
「いやはや、まったくもって。マリア殿が不機嫌なのは、ダンジョンの風紀にかかわりますからなぁ」
エトの中で蛇の頭が笑い、ゲンジョーもカタカタと顎を鳴らす。
配下に笑われる形となったが、悪いのは俺だ。マリアだけでなくエトやゲンジョーにも迷惑をかけたので、この二人にも何か埋め合わせをしなければいけないだろう。とはいえ、この二人は仕事が何より好きという様子だから、休暇や褒美より、どんどん難しい仕事を与える方が喜びそうだ。
「さて、ケラマ。頼んでおいたダンジョン再建の件はどうなっているかな?」
俺はケラマに投げておいた仕事の進捗を尋ねた。
「はい、これが経営が立ち行かなくなったダンジョンを再建する計画の草案です」
ケラマが話し、エトが書類を差し出す。
良くも悪くも、ダンジョンマスターは一国一城の主だ。破産したとしてもそれは自己責任と言うしかない。だが俺は成り行きとはいえ、ダンジョンマスターの頂点に立ってしまった。上に立つ者として、下の者の面倒は見てやらねばならない。そこで俺は経営がうまく行っていない、ダンジョンを再建する救済策を考えたのだ。
「ダンジョン再建は、うまく行けばダンジョンに革命をもたらすだろう。それだけに注意が必要だ」
今さら言うことではないのだが、俺は三人に事の重要さを確認した。
ダンジョンの経営がうまく行かない場合の多くは、ダンジョンを大きく作りすぎ、ランニングコストが維持できない場合がほとんどだ。再建するにはダンジョンを縮小することができればいいのだが、ダンジョンは基本大きくするものであって、小さくすることはできないようになっている。これがネックとなりダンジョンを再建できず、滅んでいくダンジョンマスターは多い。だが俺はこの問題を解決する裏技を思いついた。
裏技がうまく機能しダンジョン再建が可能になれば、ダンジョンマスターの在り方が大きく変わるだろう。
「お任せください。マダラメ様。ダンジョンをわざと破産させる手順は完璧であると自負しております」
ゲンジョーが自信ありげな笑みを見せた。
ダンジョンを縮小させる裏技。それはわざとダンジョンを破産させるというものだ。
ダンジョンマスター同士はマナを貸し借りすることができるのだが、借りたマナを返せなかった場合、貸主はモンスターを売り払い、ダンジョンを削ってでもマナを回収することができる。
ダンジョンを削る、それはつまりダンジョンを縮小できるということだった。
これまでこの方法を使ってダンジョンを再建した者はいない。ダンジョンを削られるほど経営が立ち行かないのであれば、立て直すことなどできないからだ。
しかし計画的に破産させたうえで、即座にマナを貸し与ええれば、ダンジョンを再構築することが可能となる。
「唯一の懸念は、再建相手であるダンジョンマスターが同意するかどうかです」
「誰もが最初の一人にはなりたくないだろうな」
これには俺も頷くしかなかった。
ダンジョンの再建は危険が伴う。もしマナを貸すタイミングが遅れたりすれば、ダンジョンマスターは自らを守るダンジョンやモンスターが無い状態となる。そうなれば冒険者にあっさりと殺されてしまう。
最大の弱点を晒す瞬間となるため、危険をと考えて再建を避けるダンジョンマスターは多いだろう。またダンジョンマスター達は自分のダンジョンに他人を入れたがらない。破産寸前であっても、俺の救済策を拒否する者が出てくるだろう。
「手抜かりはないだろうな?」
「もちろんです。すでに三千通りの状況を想定しております。破産させたダンジョンは、最速で五分以内にダンジョンの再構築が終わります。最低でも十五分以内にはダンジョンの再構築を終えることができます。また、その間は強力なモンスターを派遣し、あらゆる事態に備えることができます」
俺の問いにケラマはよほど自信があるのだろう、力強い声で答える。
「君たちが白羽の矢を立てたのは、どのダンジョンだ?」
「この三つが候補に挙がっております。我らに借金があり破産寸前の三名です」
俺の問いに、エトが資料を差し出す。
「で、その三つのダンジョンの内、どれに話を持っていくんだ?」
俺は差し出された資料を眺めた。ケラマ達が検討を重ねた後ならば、俺としては問題ない。あとはこの資料に従って、俺が破産寸前のダンジョンマスターを口説き落とし、再建の雛型とするだけだ。
「それなのですが、どれか一人を選ばず、三人と同時に交渉してみてはどうかと考えております」
「ん? 三つのダンジョンを同時に再建するのか?」
俺は書類から芽を話し、小さな毛玉のようなケラマを見る。
「いえ、再建するのは一つのダンジョンになると思います。ただ再建の交渉や手順を他のダンジョンマスターにも見せたほうが良いと判断しました」
「ああ、なるほど。合理的だな」
ケラマの考えに気付き、俺は笑って頷いた。
「はい、他の二人に、我々がどのようにダンジョンを救済するかをつぶさに見てもらえば、あとは連中が勝手に噂を広めてくれるでしょう」
「なら三人と同時に交渉しよう。それで、どのプランで再建する予定なんだ?」
俺は資料をめくりながら訊ねた。
ダンジョンを再建する方法はいろいろ考えられてある。俺が最初に考えたのは、換金アイテムを一定時間ごとに配置し、冒険者に徒競走をさせるというものだった。とはいえ、これは俺の思い付きの一つだ、交渉するダンジョンマスターに合わせられるように、再建プランは複数用意されてあった。
「ああ、再建プランは三十一番の案で進めようと思っています」
ケラマが言うので、俺は書類をめくり、三十一番のプランを確かめる。そこには驚くべき再建プランが書かれてあった。
「お前、これをやるつもりか?」
俺は少し呆れた。ケラマの考えた再建プランはなかなかひどいものだった。いや、いい意味で。
「ええ、最適と考えております」
ケラマは満面の笑みを見せる。
「悪い奴だねぇお前」
「マスターの影響かと」
ケラマは言ってくれる。
「しかしこのプランであれば、劇的に改善が見込めます。我々の試算では三ヵ月以内に、グランドエイト入りすると予想しています」
ケラマ他、ゲンジョーとエトは自信ありげにうなずく。
「破産寸前のダンジョンが、三か月後にはグランドエイト入りか。グランドエイトも安くなったもんだな」
俺としては笑うしかない。
「問題はありますか?」
「いや、このまま進めよう」
俺も楽しみになって来た。
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