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第百四十四話

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 第百四十四話


 マリアはダンジョンの最奥で、丈の長いメイド服を着ながら黙々と服を縫っていた。周囲には同じ顔をした二十二人の妹たちが居り、同じようにカジノの景品として交換する服飾品や化粧品のサンプルを開発していた。

 マリアを始め二十二人の妹たちは、皆が灰色の肌をしていた。その顔に生気はなく表情もまた乏しい。何故ならマリアたちはダンジョンコアによって、ゾンビとして生み出されたモンスターだからだ。


 ゾンビゆえにマリアたちは感情に乏しく会話も少ない。だが感情が無いわけではない。今も妹たちは黙々と仕事をしているが、わずかな仕草や表情、体の動きからその時の感情が見て取れた。


 十二番目の妹であるユリアは座って仕事をしているが、その足がわずかに揺れている。タップを踏むのは彼女が喜んでいる証拠だ。研究していた化粧品の開発がうまく行っているのだろう。九番目の妹であるタリアは、カジノで交換する景品を運んでいるが、その動きはいつもよりやや遅い。自分がデザインした服がカジノであまり交換されておらず、人気が無いと嘆いているのだ。近くで仕事をしていた二十番目の妹であるサリアが、タリアに視線を送り落ち込まないでと励ましていた。

 感情が乏しいながら妹たちは助け合い、楽しく仕事をしていた。


 自分を産み出してくれたのは、ダンジョンの主であるマダラメ様だった。創造主と言える相手だが、マダラメ様はかなり変わったお方だ。

 まずダンジョンマスターはダンジョンを作り、訪れた人間を殺すことを目的とする。それがダンジョンマスターの在り方だ。しかしマダラメ様は人を殺そうとはせず、ダンジョンでカジノを開いた。


 マダラメ様は狂暴なモンスターを人にけしかけたり、凶悪なトラップで人間を殺したりはしない。マリアが知る限りでマダラメ様が人を殺害したことはなく、逆に楽しく、居心地の良い場所を提供した。現在も人を殺さぬ方針でダンジョンは運営されており、その方針が変わる様子もない。


 変わった所と言えば、マリアたちの扱いもそうだ。

 マリアたちはゾンビという、弱い部類にはいるモンスターだった。だと言うのに、マダラメ様はマリアたちに服を与え、知性化までしてくれた。

 知性化された時に得た基礎的な知識では、ゾンビのような弱いモンスターは知性化どころか服や武器も与えず、ただの数合わせとしてダンジョンに放り出されるのが常のはずだ。しかしマダラメ様はマリアを手厚く扱い、妹たちまで造ってくれた。これはとてもありがたいことだった。


 知性化されたモンスターは、主に対する忠誠を義務付けられている。だがそれを抜きにしてもマリアはマダラメ様に、深い感謝と敬愛の念を持っていた。この人のために働き、この人の役に立ちたい。マリアはそう思って働いていたし、その気持ちは今でも変わらない。しかし……。


 少し前にあった、ダンジョンで行われたギャンブル大会のことを思い出すと、マリアは悲しい気持ちになった。

 ギャンブル大会において、マダラメ様は自ら試合に赴き戦った。

 下手をすれば死んでいたかもしれない状況だったが、これを非難することはできない。戦うことはダンジョンマスターの宿命である。そしてモンスターとして生み出されたマリアたちも、戦うために存在している。ダンジョンマスターが戦うと言うのであれば、マリアたちモンスターも命を賭して戦い、主を支えることが役目と心得ている。


 マダラメ様とともに戦えるのであれば、喜びこそあれ悲しむことはない。しかしマダラメ様はマリアたちを置き去りにし、ただ一人で戦いに赴いた。

 このことにはマリアだけでなく、他の知性化されたモンスターたちも衝撃を受けていた。特に副官として生み出されたケラマ様は、何度もついていかせてくださいと懇願していた。


 最初期からともにいるケラマ様は、マダラメ様に対して絶大な忠誠を捧げていた。そしてマダラメ様もまた、ケラマ様をことのほか信頼されている。二人の間には主従を越えた絆があり、マリアを始め他のモンスターたちが入り込む余地はない。にもかかわらずマダラメ様はケラマ様を置いていかれた。

 マダラメ様の戦いを見守ることしか出来ないケラマ様は、とても悲痛な表情をされ、見ているだけで胸が痛んだ。そしてマリアは自分が何のために存在しているのか、分からなくなった。


 自分は何のためにここにいるのか? 自分たちの忠誠や献身はマダラメ様にとっては顧みるに値しない、取るに足らないものでしかないのか? そう考えてしまうとどうしようもなく悲しくなり、仕事中も手が止まってしまう。


 妹たちがマリアを慰めようとしてくれるが、何日たっても心は晴れない。何とかしなければいけないと思うが、どうすることもできない。マダラメ様に会うと余計ひどくなるような気がして、顔も見ることができなかった。


 こんなことでは知性化されたモンスターとして失格である。このままではダンジョンの運営にも支障をきたしてしまうだろう。

 そうなる前に職を辞し、ここから去るべきなのかもしれない。


 マリアがそんなことを考えていると、スケルトンに乗ったケラマ様がやってこられた。

 小さな毛玉のような愛らしい姿だが、ケラマ様は上司である。それでなくともマリアはケラマ様に対して深い尊敬の念を持っていた。

 妹たちが立ち上がり頭を下げる。マリアも同じく頭を下げた。


「あーマリア。マダラメ様から伝言がある」

 ケラマ様の言葉を聞き、マリアの体は恐怖に硬直した。造られたモンスターの分際でマスターに対する不服従など許されることではない。ダンジョンからの追放。いや、処刑すらあり得た。

 マダラメ様が何を求められようと、全てを差し出そうとマリアは決めた。それが生み出されたモンスターとして、自分ができることだからだ。


「マダラメ様は今からソサエティをご視察なされる。そのお供をするように」

 求められればマリアは首を差し出すつもりだったが、続く言葉は意外なものだった。

 マダラメ様は時折、ダンジョンやソサエティを出歩かれている。しかしお供を着けることは少なく、ケラマ様とて一緒に行かれることはあまりない。なぜ自分なのか? 誰でもいいのならば、妹たちにとマリアは視線で訴えたが、ケラマ様は首を横に振られた。


「いや、それはだめだ。お前がいっしょに行くのだ。これは命令だ。いいな」

 ケラマ様にこう言われては従うほかなく、マリアはコクリと頷いた。


書いといてなんだが、マダラメはひでー奴だな。みんなにもう一回謝ったほうがいい

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― 新着の感想 ―
[良い点] それな!
[一言] もとからひどい奴だと思ってたけど他者視点だと際立つな
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