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第二巻発売中! ダンジョンマスター班目 ~普通にやっても無理そうだからカジノ作ることにした~  作者: 有山リョウ


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第百四十話

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

今日はロメリア戦記の方も更新してますので、よろしくお願いします

 第百四十話


「ああ、カイト。来てたんだ」

 シグルドと対峙するアルタイルが、カイトの存在に気づいて訓練を一時中断させる。

「よぉ、カイト。おはよう」

 シグルドが小手に包まれた左手を掲げる。灼熱していた鎧は自然冷却されて元の色に戻っていく。だが熱気は未だ冷めやらず、シグルドが近づくと熱を感じるほどだった。

「よく来てくれました。ここが私たちの訓練場です」

 クリスタニアも左手を掲げる。その腕には先ほど切断された傷跡がまだ残っていた。


「訓練、ですか……」

「ええ、午前中は軽めに流すことにしているの」

 アルタイルの言葉に、カイトは驚きに顔を硬直させた。これで軽くというのだから、本気で訓練に挑めばどうなるのか、想像もできなかった。

「あの、この白いのは?」

 カイトは周囲を覆う光の壁を見た。カイトにはこの光の壁が何なのかもわからない。


「ああ、私が張った結界です。アルタイルの魔法の余波で建物が崩れかねないので。部屋全体の空間を切り取っています。ここならよほどのことが無い限り、部屋が壊れることはありませんよ」

 クリスタニアが簡単に答えるが、空間を切り取るという言葉の意味が分からない。少なくとも結界を張ることで、そのようなことができるとは聞いたことが無かった。


「それじゃぁ、あんたの訓練を始めるわよ」

 驚くカイトをよそに、アルタイルがさらに衝撃的な言葉を放つ。

「訓練! 私もですか?」

「当たり前でしょ。あんたも私達の仲間になったんだから、ある程度強くなってもらわないと」

 驚くカイトに、アルタイルが呆れた顔を見せる。


「私達のそばにいる以上、強くないと何かあった時に、訳も分からないうちに死ぬことになるわよ」

 アルタイルに指摘され、カイトは血の気が引く思いだった。

 四英雄は世界最強だ。その隣にいれば安全だと考えていた。もちろんその考えは間違いではない。四英雄に喧嘩を売る馬鹿などまず居ないからだ。しかしそんな馬鹿がいた場合、その馬鹿は四英雄に喧嘩を売れるだけの実力者ということになる。

 四英雄と四英雄に匹敵する者との戦いに巻き込まれれば、カイトなど簡単に引き裂かれるだろう。


「まぁ、あんたのことはどーでもいいけど、メリンダさんを泣かせるわけにもいかないしね。喜びなさい。私達に稽古をつけてもらえるなんて、王侯貴族だってできないことよ」

 アルタイルが胸を張り、他の英雄たちもカイトを見る。

「はっ、はぁ」

 カイトは頷きながら、逃げ出したい気持ちだった。何せ四英雄は、軽い訓練で腕を斬り落とすのだ。とてもじゃないが尋常ではない。しかし嫌とは言えなかった。


 カイトは救済教会の聖女、クリスタニアを盗み見た。希望は彼女しかなかった。

 剣豪シグルドは武闘派で名高い。剣の館の訓練も過酷なことで知られている。夜霧は暗殺ギルドで育てられ、厳しい訓練を乗り越えたと言われている。彼が施す訓練は、暗殺ギルドの人命を無視した訓練を基準としているはずだ。そして灰塵の魔女ことアルタイルは、噂より温厚ではあるが、そもそも手加減を知らない人だ。本人は軽めのつもりでも、消し炭にされる恐れがある。唯一の希望は、聖女クリスタニアだった。


 何せ救済教会で聖女に認定されている女性である。聖女と呼ばれているのだから、慈悲と優しさで出来ていると言っても過言ではないはずだ。彼女のそばを離れなければ、そう過酷なことにはならないはずだ。


「わかりました、お願いします」

「じゃぁ私とクリスが面倒を見るから、シグルドと夜霧は二人で訓練続けていて」

 頭を下げるカイトにアルタイルが頷き、シグルドと夜霧に指示を出す。この指示を聞き、カイトは内心喜んだ。これでシグルドと夜霧の指導からは逃げられることができた。あと注意すべきはアルタイルの対応だけだ。


「それじゃぁ、始めるわよ。ミーオンは外しておいて、さすがに事故が怖いから」

「は、はい」

 カイトは神剣ミーオンを外して床に置き、普通の鋼鉄の剣を抜いて構える。


「今から私が弱めの魔法で攻撃するから、それを避けてみて」

「わかりました、弱めでお願いしますよ」

 アルタイルが提案した訓練は、常識的なものだった。遠距離攻撃を避けるのは、反射神経を鍛える訓練としては一般的だ。それにカイトは反射神経には自信があった。


「それじゃぁ、行くわよ、集中してね」

 アルタイルが十分距離を取り、カイトと対峙する。カイトは剣を構えて攻撃に備えた。クリスタニアは離れた場所で、二人の訓練を見守っている。

 カイトは呼吸を整え、アルタイルをじっと見据える。アルタイルは構えもせず、手を力なく下げていた。カイトはいつ攻撃が来るかと身構えていると、アルタイルの右手がわずかに光った。直後、猛火がカイトの顔に直撃した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 カイトは悲鳴を上げ、顔を手で覆い後ろに倒れた。顔中に激痛が走り、脳が痛みで支配される。

 熱い! 痛い! 熱い!


「ちょっと! 大丈夫?」

 苦しみ藻掻いていると、原因となったアルタイルがクリスタニアと共に歩み寄る。クリスタニアが治療を開始してくれるが、顔全体に追った火傷が、すぐに治るはずもない。

「ねぇ、いつまで痛いふりしているの」

 蹲るカイトに、アルタイルが呆れた声をかける。その言葉に流石のカイトも怒りの頂点に達した。


「ふりって何ですかふりって、これだけの怪我をして……って、あれ?」

 カイトは怒りとともに立ち上がり、顔を触りながら叫んだ。しかし顔に触れた手に火傷の感触はなく、痛みもすっかり引いていた。

「クリスが治療したんだから、その程度の怪我、秒で治るに決まっているでしょ」

「えっ? あっ! ほんとだ」

 カイトは顔をペタペタと触ったが、本当に傷一つなかった。


「それよりも、ちょっとは反応しなさいよ。ほとんど動けてないじゃない」

 アルタイルが腰に両手を当て、険しい顔でカイトを見上げる。

「いや、でも早すぎ速すぎて……それに弱めにするって話だったじゃないですか」

「これぐらい防げないと話にならないわよ。それに、ちゃんと弱くしてる。直撃したのに死んでないでしょ」

「いや、でもですねぇ」

「いいから、続き始めるわよ。ほら、構えて」

 アルタイルが問答無用で訓練を再開する。


「ちょ、ちょっと待って」

 カイトは止めようとしたが、アルタイルから魔法が放たれ、反応すらできず再度顔に炎が直撃する。またクリスタニアが回復してくれた。すぐに回復するのは有難いが、毎回痛すぎる。


「あんたねぇ、クリスの手を焼かせないの」

 開始早々二度の治療にアルタイルが呆れるが、その言葉は好機だった。

「そ、そうですね、聖女様の手を煩わせてはいけませんし、訓練の内容をもう少し下げた方が……」

 カイトは控えめに提案した。そして救いを求める目でクリスタニアを見る。するとクリスタニアはカイトの視線に気付き、にっこりと慈母の笑みを見せた。


「大丈夫ですよ、カイトさん。この程度の治療なら百回やっても負担にはなりませんから」

 クリスタニアはカイトの視線の意味を全く理解せず、死刑にも等しい言葉を放った。

「クリスはこう言ってるけど、気を入れて訓練しなさいよ。いくらクリスでも蘇生術は難しいんだから」

 アルタイルの言うとおり、確かに蘇生術は成功確率が低く、また一日に何度も使えるようなものではない。


「ああ、アルタイル。それも大丈夫です。最近蘇生術の方も成功率が上がってきていますから、頭さえ無事なら高確率で蘇生出来ますよ」

「いや、あの、ちょっと! クリスタニア様?」

 笑いながら話すクリスタニアに、カイトは待ったをかけた。それはもう完全な死刑宣告だった。


「ですからカイト様、頭だけはちゃんと守ってくださいね。頭さえ無事なら、聖女の名に懸けて、傷一つなく復活して差し上げますので」

「クリスタニア様、貴方は鬼ですか?」

「聖女ですよ?」

 首をかしげて問いを返すクリスタニアの瞳には、一点の曇りもなかった。


「さぁ、訓練を再開するわよ。次はちゃんと集中してよね」

 アルタイルが手を叩いてカイトに促す。もちろんカイトには、悲鳴を上げる以外できることはなかった。


ちなみに指導者適性だと

シグルド 厳しいが多くの剣士を育成して来たので、厳しくも指導力は高い。

夜霧 暗殺ギルドの育成カリキュラムを踏襲しているため死ぬほど厳しい。だがあらゆる人間を育て上げてきた育成テクニックは論理的で完成されている。

アルタイル 天才肌。一度お手本を見せてあげたのに、なぜ同じことができないのか分からない。

クリスタニア 死ななければいつか習得できると本気で思ってる。


カイトはシグルドと夜霧の指導でなくて喜んでいたが、実は残り二人の方が鬼札だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 澄んだ瞳の狂信者。 その信仰には一点の曇りも無かった。
[良い点] 痛くなければ覚えませぬ
[一言] カイト、がんば
感想一覧
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