第百三十三話
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第百三十三話
ワインを飲み干したシルヴァーナは、ほろ酔いとなり、わずかに顔が紅潮する。胸の動悸が酔いに紛れた頃、前菜が運ばれ会食が始まった。
ワインも出される料理も、全てが格別に美味かった。だがシルヴァーナはここに舌鼓を打ちに来たのではない。マダラメとシルヴァーナは対立する派閥の長である、交渉のためにここに来たのだ。会食ではその一挙手一投足が交渉の材料になるかもしれなかった。
シルヴァーナは食事をするマダラメを盗み見た。
伝聞ではマダラメは自らが開いたギャンブル大会で、勇者と戦い大勝利を収めたらしい。だが大会の最後で、マダラメは無名の冒険者に敗れたと聞いている。
「どうかしましたか?」
フォークで料理を口に運びながら、マダラメが唐突に問う。どうやら視線に気づいていたらしい。
「別に、ただこの間のギャンブル大会で、無名の冒険者に負けたと聞いてな」
シルヴァーナは敗北を指摘してやったが、マダラメは顔色一つ変えることはなかった。
「ええ、素晴らしい時間でした。全員の集中力が極限にまで高まりましてね、時間さえも遅く感じました」
マダラメの言葉にてらいはなく、落ち着いたものだった。
「当代の勇者ともギャンブルで戦ったと聞いたが? そちらはどうだったのだ?」
「ああ、そちらはまぁ、普通です。狙い通りの結果にはなったのですが、語るほどのことは」
マダラメは興味なさげに、勇者との勝負を振り返った。
勇者に勝利したことをおごる様子もなければ、無名の冒険者に敗北したことを悔しがっている様子もない。マダラメにとって、勝利も敗北も全ては過去なのだろう。この男は常に次しか見ていない。ではマダラメは、次に何をしようとしているのか? シルヴァーナは料理を口に運びながら、マダラメのことばかり考えた。
「さて、今回の会食の目的ですが」
食事をしながら、マダラメが本題を切り出した。
「現在、ソサエティの運営に支障が出ています。そろそろグランドエイトによる評議会を開き、再稼働していかねばなりません」
マダラメがまっすぐシルヴァーナを見る。
グランドエイトとはダンジョンマスターの上位八名からなる、ソサエティの統治機構だ。マダラメによってグランドエイトのメンバーがほぼ死に絶えた。
「確かにソサエティの運営には、グランドエイト評議会の採決が必要な事柄も多いからな」
「ええ、貴方たちが自らの地位を確固とするために、設けた制度です」
フォークを片手に、マダラメがちくりと言い返す。
ソサエティの運営は、グランドエイトがいなければ回らないように作られている。全てはシルヴァーナと他のグランドエイトが立場を守るためのものだ。だがその旧グランドエイトも、マダラメの策略によりシルヴァーナ以外の全員が失墜した。そのためソサエティの運営もうまく行っていない。
これまではマダラメとシルヴァーナが独自に問題を解決していたが、このまま放置すればいずれ大きな問題となってしまうだろう
「グランドエイトを名乗るにはいくつか条件があります。一つはダンジョンランキング首位の者、頂点に立った者は、自動でグランドエイトを名乗ることができます」
「そうだな、それでお前はグランドエイトとなった」
シルヴァーナはグランドエイトとなる条件を思い出した。
ほかの者が簡単にグランドエイトになることが無いよう、複雑な条件が設けてある。
一方でグランドエイトが全員一度に滅んだ可能性も考慮し、ダンジョンランキング一位の者は、自動的にグランドエイトとなるようになっていた。
まさか安全装置とも言うべき制度で、マダラメがグランドエイトとなるとは思わなかった。
「しかしそれ以外の者がグランドエイトとなるには、まずダンジョンランキングの上位八名であること、ソサエティに一定額以上の資産を持つこと。そしてグランドエイトの半数の賛同が必要です」
「その通りだ、だがそれを私に確認する必要があるのか? お前のところの派閥の者は、その全ての条件を満たしているではないか」
シルヴァーナは、現在のダンジョンランキングを思い返した。
ダンジョンランキング一位は、もちろん目の前のマダラメだ。そして大きく離されて二位にいるのがシルヴァーナだ。その後に続く三位から八位までは、全てマダラメの派閥が独占している。さらにソサエティの資産の多くは、マダラメとその派閥が所有している。
「現在残っているグランドエイトは、私とお前の二人だけ。お前が賛同すれば半数の同意は得たことになる。全てお前の好きにできるのだから、好きなだけグランドエイトを生み出せばいいではないか」
「やれやれ、嫌味を言われる。私がそんなことをすれば、拒否権を発動して評議会の運営を妨害する癖に」
マダラメが顔を顰めてシルヴァーナを見た。
評議会の採決では、全会一致が基本原則だった。グランドエイトには拒否権が与えられており、一人でも拒否すれば採決できない。全員の意見を調整する必要があるのだ。
「なぜこんな制度を作ったのです? 全員に拒否権を与えるなど、信じられません」
「そう言うな、そうしなければまとまれなかったのだ」
シルヴァーナは意地悪く笑った。
シルヴァーナがダンジョンマスターの頂点に立ったころ、ソサエティではダンジョンマスター同士の抗争が横行していた。このままでは自滅するだけであると、シルヴァーナは抗争に終止符を打つべく、グランドエイト評議会を発足したのだ。
「昨日まで互いを滅ぼそうといがみ合っていた者達に、明日から仲良くやれと言ってもできない。また協力しろと言っても、相手が裏切るかもしれず、互いに信用することができなかったのだ」
シルヴァーナは自らの苦渋の決断を思い出した。あの頃は本当にひどい状況だった。誰が敵で誰が味方なのかもわからなかった。
「当時のグランドエイトを納得させて、同じテーブルにつけるには、拒否権を与えるしかなかったのだよ」
シルヴァーナは語った後、ワインを一口飲む。
誰か一人でも反対すれば、評議会が進まなくなる状況を作り出すことで、グランドエイト同士の抗争を鎮静化した。そして利益を分かち合うことで、グランドエイトの立場を盤石の物としたのだ。
「それは分かりますが、苦労の方が大きかったのでは?」
「もちろんだ、この拒否権は頭痛の種だったよ。中には拒否権を発動してばかりの者もいた」
「その場合はどうしたので?」
「もちろん、それとなく退場してもらったよ」
シルヴァーナがワインを飲みながら語ると、マダラメはおどけて肩をすくめる。
「もう面倒な調整をしなくていいのだと思うと、そこだけは清々する」
気楽な笑みをシルヴァーナが見せると、今度はマダラメが顔をしかめた。
「調整する身となっては、笑っていられませんよ。頭の痛い問題を抱え込んでしまったものです」
マダラメは嘆息を突いたが、すぐに顔を引き締めた。
「ではその調整ですが、グランドエイトの席、こちらは五つ、そちらは三つでどうです?」
マダラメは現実的な提案をしてきた。
グランドエイトの席を三つ確保できれば、派閥の長としてシルヴァーナの顔も立つ。一方、マダラメとしては半数以上を占めているので、優位は取れていると考えているのだろう。
シルヴァーナは手持ちの資産を計算した。先日マダラメが放出した資産を配下に分配すれば、グランドエイトを二人分は生み出せそうだった。そこまで思考して、マダラメはこの状況を読んだうえで、資産を放出したのだと気付く。
「わかった、それでいい。そちらが五つ、私が三つで手を打とう」
「ありがとうございます。ただ、評議会の採決ですが、拒否権を乱用されても困ります。利益や損害に偏りがある場合を除き、前向きに検討していただきたい」
「わかっている。こちらとしてもグランドエイト評議会の機能停止は問題だからな」
シルヴァーナは細い顎を引いて頷いた。
派閥のダンジョンマスター達からも、ソサイエティの機能不全による苦情が寄せられている。このまま問題が長引けば、派閥の長であるマダラメとシルヴァーナは、配下の者達から信頼を失う。たとえ敵対する派閥と言え、窒息するまで我慢大会をするわけにはいかない。
「ではそれを踏まえたうえで事前の協議なのですが、一つ話しておきたいことがあります」
マダラメはフォークとナイフを皿の上に置いて、次の話を切り出した。
「転移陣を用いたダンジョンの連結、これを再開したいと私は考えています」
やはりそう来たか。
シルヴァーナは目を細め、食事の手を止めた。
突然ですが、ダンジョンマスターマダラメ、ヒロイン決定戦を行いたいと思います。
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追記 Twitterされてない方は感想欄に書き込んでいただければ、あとで集計します
なおエントリーキャラは三名
エントリーナンバー一番 グランドエイトの紅一点、白銀のダンジョンの主、シルヴァーナ!
エントリーナンバー二番 愛すべき毛玉、マスターの隣が似合うのはこの私! ケラマ!
エントリーナンバー三番 ギャンブル大会優勝者、ここでもダークホースとなれるか、カイト!
シル「なぁ、私以外、一名は男でしかも妻帯者、残り一名は人間ですらないのだが?」
作者「種族や性別を超えてこそ真の愛だろ」
シル「これで負けたら私の立場が無いのだけど?」
ケラマ「私に合うウェディングドレスあるかな?」
カイト「メリンダに着せる前に、俺が着たら怒るかな?」
シル(こいつら、勝つ気か!)