第十三話 カジノダンジョンへの対処、カイトの提案
お昼の分です
第十三話
「しゃべる上に人間を襲わないスケルトンだと? しかも宿屋までできただ? ふざけているのか!」
調査を終えて後発の調査隊と合流した俺たちは、ロードロックに戻りギルド長にありのままを報告した。
返ってきたのが、ギルド全体を震わせるほどの声だった。
「ふざけていませんよ、ギラン叔父さん」
俺がなだめようとすると一睨みされた。
「ああ、すみませんギルド長」
叔父さんは公私の区別をはっきりさせる人なので、ギルドで叔父と呼ぶと怒る。
「まったく、ただでさえ、若い連中がダンジョンに入り浸り、運営に支障が出ているというのに」
俺も人の事は言えないが、あそこで遊びふけっている冒険者がいることは確かだ。
「それ以上に問題なのが、あそこの景品で出てくる髪油だ。街で噂になっている。この間の競りでは金貨二十枚の値が付いた」
「そりゃすごい、俺も売ればよかった」
正直ちょっと後悔している。
「でもいくら品質が良くても、そこまでの価値はないでしょう?」
公平に見れば金貨二枚から三枚ほどの値段だろう。
十分大金だが、価値以上の値段がついている。
「商人たちの争奪戦が起きている。このままだと暴走するやつが出てくるかもしれん」
「街でもあのダンジョンの風呂が噂になっていますからね、そのうち街の住人がダンジョンに来るかもしれませんよ」
「モンスターが人を襲ってくれれば止められるんだが、危険がない分それもできん」
ギルド長は忌々し気に歯を噛みしめる。
危険がないとはいえ、ダンジョンはダンジョン。いつ人間に牙を剥くか分からない。とはいえ、ダンジョンに入るのを止める法律は無い。
「だが放置はできん。問題が起きればやり玉に挙げられるのは儂らだ」
ダンジョンで起きたことは基本自己責任だ。だがギルド長の言うとおり、何かあれば問題の矛先はこちらに向けられるだろう。
ただでさえ問題が起きそうな気配があるというのに、ここに来て宿泊施設までが出現したわけだ。このままだとダンジョンに一泊して、周辺を旅行しようなんて物好きが出てくるかも知れない。
「しかしダンジョンはダンジョンだ。攻撃してこないとはいえ、モンスターも出るようになった。このまま放っておく訳にはいかない」
叔父の言葉に、俺は慌てた。
「まさか、あのダンジョンを攻略してしまうので?」
つい非難めいた声が出てしまったが、俺の不用意な言葉がギルド長の怒りに触れた。
「それが出来れば苦労はせん!」
ギルド長がテーブルを叩く。
「……昨日だが、領主のいとこのはとこの知り合いの、まぁ、とにかくどこかの貴族の御令嬢とやらが来て、例の髪油がほしいんだと」
「直々に言われたので?」
ギルド長が苦虫をかみつぶした顔でうなずく。
そりゃ凄い。どんな顔をしていたのか見たいぐらいだ。
「もはや潰そうにも潰せん」
注目の的となっているダンジョンをつぶせば、ギルド長は人気を失いかねない。もちろん俺やメリンダも恨む。まぁ、恨むだけで何も出来ないけれど。
とはいえ、これは他人事ではない。あそこで長く楽しむためにも、できることはしておかないといけない。
「そうだ、あそこにギルドの警備隊を置いてはどうですか?」
思い付きを口にしてみる。
「警備隊?」
「はい、冒険者を募って常時武装した警備を置いて、モンスターが暴れないか見張っておくんですよ。そうなれば少しは安全でしょう?」
「その費用はどこから出す。お前らがタダでやってくれるのか?」
ギルド長は馬鹿かお前はという目で見る。
「あーそれはいやです。ただ、例の髪油ですけれど、ギルドで独占してみたらどうです」
「独占?」
「はい、ずっと人をやっているのですから、順番待ちして独占することは出来ると思います。で、金額を上乗せして販売。差額分を運営費として報酬をまかなう」
最初はただの思い付きだったが、話している間に何とかうまく行くような気がしてきた。
「商人達が文句を言ってこないか?」
「たぶん言ってくるでしょうけど、でもあそこ一応ダンジョンじゃないですか。で、ほら、確か王国法でもありますよね。ダンジョンで起きたことは罪に問わないって」
ダンジョンで起きたことは全て自己責任とされ、法律の力は及ばない。人を殺しても罪に問われることはなく、裏社会の暗殺者がたまに利用していたりするし、強盗まがいの冒険者が同じ冒険者を襲ったりもする。
「もちろん殺したりするのはやりすぎですけど、追い出すぐらいならいいはずです。そもそもダンジョンは俺たちの管轄でしょう? 商人達が出しゃばる方がどうかしている」
俺の話を聞き、叔父さんは唇を尖らせる。考え事をしているサインだ。
ギルド長の頭の中では、数字と天秤が行ったり来たりしていることだろう。
独占することに対する不満や、転売するときの上乗せする価格。貴族に対する根回しも必要となってくる。
しばらく考えた後、ギルド長は頷いた。
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