第百十七話
第百十七話
「では次のゲームを始めます」
ディーラーであるクリスタニアが、次のゲームの開始を告げる。
カイトは気を取り直して次の勝負に挑んだ。
新たに配られたカイトの手札は4と7。弱い手札だった。
「ベット、十枚」
カイトからのベットラウンドだったが、手札が悪いため最低額を賭ける。
「レイズ、五十枚」
ジードがまたもレイズする。
「降りる」
マダラメがドロップし、カイトの順番となる。コール、レイズ、ドロップの三つが選べたが、カイトはジードと勝負する気にはなれなかった。
「降りる」
カイトは共通カードも見ぬままドロップした。
すぐにまた次のゲームが始まる。
カイトのカードはQと10。悪くない手札だった。
「降りる」
ジードが早々にドロップを選択する。ジードのドロップにカイトは胸を撫で下ろしつつ、マダラメを見た。
「ベット、三十枚」
マダラメが少額をベットする。
「コール」
カイトはコールしゲームを進めた。
場に三枚の共通カードが提示される。あきらかになったカードは8と4、それにJだった。
カイトに手役は完成していない。しかし9がくればストレートが完成する。
「ベット、四十枚」
マダラメが新たにベットする。
カイトの現在の手役はQ。悪い手ではない。しかもストレートの可能性があるため、挑むべきだろう。
「コール」
マダラメのベットに、カイトはコールしてゲームを進める。
四枚目の共通カードが場に出される。四枚目のカードはKだった。
惜しい。しかしこれでAと9のどちらが来ても、ストレートが成立する状況となった。
「ベット、六十枚」
「コール」
マダラメのベットに対し、カイトはコールで答えた。
そして五枚目のカードが明らかとなる。
五枚目の共通カードは6。ストレートはならず、カイトの手役はQのみとなった。
「ベット、六十枚」
マダラメが先程と同額をベットする。
カイトは少し考えた。ベットの様子から、マダラメの手札はそれほど強そうには見えない。一方、カイトの手も役が出来ていない以上、それほど良くはない。しかしQは強いカードであるため、マダラメに役が出来ていなければ、勝つ可能性は高い。
「コール」
Qならば十分賭けに値すると、カイトはコールした。
最後までゲームが進んだため、互いの手札が明らかとなる。
カイトの手札はQ。一方マダラメは5と5だった。
「なっ!」
最初からマダラメの手札に役が入っていたことを知り、カイトは自分の不覚を悟った。
マダラメは小刻みに賭け金を釣り上げていた。カイトはマダラメの手札がよくないのだと思ったが実際は違った。
マダラメが小刻みに掛け金を吊り上げた理由はただ一つ、カイトの許容範囲を見切っていたのだ。
ポーカーはただ手が強ければ勝つという遊戯ではない。たとえ手札にロイヤルストレートフラッシュが入っていたとしても、相手がすぐに降りてしまえば意味がない。
賭け金を釣り上げるためには、相手に『自分は勝てる』と誤った確信を持たせなければ、掛け金は吊り上がらない。
マダラメが強気にベットしていれば、カイトは警戒して降りていたかも知れなかった。マダラメはカイトの心理を計算し、警戒しない程度に賭け金を釣り上げ、最大の利益を引き出したのだ。
先程のゲーム、カイトはマダラメの手の中にいた様なものだった。
たとえどんなクズ手であっても、ロイヤルストレートフラッシュだと思わせてくるジード。
そして例えロイヤルストレートフラッシュが手にあっても、それを感じさせてないマダラメ。
最高の勝負師達がカイトの前に立ちはだかっていた。
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