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第十一話 カジノダンジョンリニューアル①

お昼の分です

 第十一話


 一週間後、夜も明けきらぬうちからロードロックを出発した俺たちは、一路カジノダンジョンへと向かった。

 普通よりもかなり早い出発だが、足取りは早く、かなりの強行軍と言えた。

 カイトとしては、本当はダンジョンの前で野営したかったぐらいである。

 さすがに仲間に反対され、ギルド長からもダンジョンを刺激する恐れがあると止められてしまった。

 しかし叔父さんもこのダンジョンの変化は気にしているらしく、カイトたちを先遣隊とし、後発で調査団を派遣することを決定した。調査団が来るのは昼前だから、それまでにカジノについて、危険がないかどうかの下調べを依頼されているが、依頼に関係なく一番乗りするつもりでいた。


「カイト、速い」

「ああ、悪い」

 後ろのメリンダが、行軍が速いと文句をつける。謝りつつも歩調は緩めない。一刻も早くダンジョンに行きたかった。

 こんなに心が逸るのは、新人の時以来だ。

「急いでもダンジョンは逃げないわよ」

「いいや、逃げる」

 後ろで文句がうるさいので、前方を指さす。カジノダンジョンはもうすぐそこだが、ゆっくりしていられない。

「ほら、見ろ! ダンジョンが逃げ出した。追いかけるぞ。駆け足! 急げ!」

 俺はその場で駆けだした。背後ではため息が聞こえただけで、だれもついてきてくれなかった。

 仕方なくダンジョンの前で待っていると、ようやく仲間が追いついてきた。


「どう? 変わってる?」

「ああ、見ての通りだ」

 ダンジョンを見ると、もう入り口から変わっていた。

 以前はただの洞穴でしかなかった入口だが、石造りの入り口に代わっていた。

 大きく広い石畳に、巨大な柱。そびえ、石材の屋根で覆われている。遠目から見ても神殿の様な作りだ。さらに巨大な門が据えられ、今は開け放たれている。


「これはまた、広くなったわね」

 メリンダがあきれた声を出す。

 以前は幅六メートルと平均的なダンジョンの通路だったが、ざっと四倍はある。階段さえなければ馬車ごと乗り入れることが出来そうな広さだ。

 しかも出入りする人間が混雑しないように、中央を石段で区切り、登と下りの矢印まで書かれている。


「これはもう中規模ダンジョンですね」

 トレフが入り口を見ながらつぶやくように話す。

 ダンジョンの入り口は規模の指標ともなる。これだけの門構えならば、中規模クラスのダンジョンと目され、それなりの冒険者がやってくるレベルだ。

 まだ二ヵ月とたっていないのに、成長の早いダンジョンだ。


「とりあえず行ってみましょうか」

 降りる前に仲間たちが武装を確認する。ダンジョンに潜る前は、鎧の締め付けが緩んでいないか、武器に不備がないかどうかを確かめる。以前までこのダンジョンは安全だったが、今日は別かもしれない。油断はできなかった。


 武具の確認を終えて、ローグのアセルを先頭に罠を警戒しながら進む。

 広い通路を進むと、先にカジノが見えてきた。大きな扉が一つ、門が開け放たれている。

 そしてその門の両脇では、白い人影が見えた。

 直立する人骨。スケルトンだ。


「モンスター」

 隣にいたメリンダの声は、悲鳴に近いものだった。

 俺も同じ感情だった。

 ついにここにもモンスターが出るようになってしまった。ダンジョンにモンスターが出るのは当たり前のことだが、楽園がけがされた気分だった。


「どうする?」

 普段荒々しいガンツも、迷いの目を俺に向ける。

「落ち着け、俺たちは冒険者だ。モンスターを前にして戦わないわけにはいかない」

 見たところスケルトンは武器も持っていない様子だ。一撃で倒せるだろう。


「気をつけろ、何か罠があるかも知れない」

 スケルトンが二体だけ、武器も持っていないのはおかしい。警戒しながら近づくと。スケルトンはこちらに気付く。向かってくるかと思いきや、スケルトンはこちらを見るとゆっくりと上体を倒し、軽く頭を下げた後に戻した。

 仲間たちが互いに目をやる

 スケルトンの行動の意味がわからなかった。

 攻撃されたわけではない、あれではまるで……


「……おじぎ……した?」

 メリンダが懐疑的な声を上げた。

 俺も同じ感想を持ったが、まさかそれはないだろう。何かの攻撃の動作か何かだと思うが、しかし攻撃の気配はまったくない。


 一度後退し、体調に変化がないことを確かめるが、何もなかった。もう一度近づくと、またスケルトンは頭を垂れた。

 そのあとも色々試してみるが、どうやらこのスケルトンはお辞儀しかしないようだった。

 一定の距離に近づくとお辞儀をするが、触れるほど近づいても攻撃はしてこないし、触れても何もしてこない。


「ど、どうする?」

 ガンツが再度迷いの目を俺に向ける。モンスターを無視するのは不安になるが、抵抗も攻撃もしてこない相手を攻撃するのも気が引ける。


「下手に刺激するのはよそう。それがきっかけで何か起きるかもしれない。ただ、いつ襲われるかもわからないから、油断だけはするな」

 先遣隊である俺たちの仕事は危険の有無。倒すのはいつでもできるだろうから、初めは穏便に事を進めるべきだ。

 ゆっくりと警戒しながら、お辞儀スケルトンの横を通り抜けてカジノにはいる。


「中もだいぶ変わったな」

 入り口から予想していたことだが、カジノも大きく様変わりしていた。

 主に豪勢な方に。

 まずフロアが大きくなった。以前の四倍はある。スロットマシンが増え、何台あるかわからないぐらいだ。正面に次のフロアへと続く扉があるのは変わらないが、広くなったため、だいぶ遠い。


「ここにもスケルトンがいるのね」

 メリンダがつぶやきをこぼす。

 カジノの中にも、何体ものスケルトンが配置されていた。

 今まで準備中だったテーブルの前に、スケルトンが立っている。


「準備中の札がとれてるってことは、スケルトンとゲームをするのか?」

 ガンツが懐疑的な声を上げる。

 予想通り、これまで準備中だった遊戯ができるようになったみたいだが、台の反対側にはスケルトンがいる。

 スケルトンはテーブルから動かず攻撃の意思は見えない。おそらくそういうことだろう。

モンスターと遊ぶなど前代未聞だが、スケルトンは武装もしていない。危険度は低いだろう。ただし、モンスターとの遊戯が安全かはわからないが。


「ねぇ、あれ……」

 ハーフエルフのシエルが指さすと、カジノの間を動き回っているスケルトンが数体だけいた。

 抜いていた剣を構えるが、手に持つものを見て驚く。

 スケルトンは武装していることがある。たいていはボロボロの剣やメイスなどだ。しかしそのスケルトンが持っていたものは、武具ですらなかった。

「あれは、ほうき?」

 スケルトンが持っていたのは、ほうきにしか見えなかった。塵取りも持っており、カジノの床を掃いている。別のスケルトンは細い布をいくつも取り付けた棒で、スロットに積もった埃を払っている。さらに別のスケルトンは雑巾で椅子を拭いて回っている。


「スケルトンって掃除するんだ」

 掃除スケルトンを呆然と眺める。掃除スケルトンにも攻撃の意思はなく、近くによっても襲ってこない。人の近くでは掃除をしないようになっているのか、近づくと掃除をやめ、一礼して距離を取り、また掃除を再開する。しばらく試してみたが、やっぱり危険はない。


「他も調べてみよう」

 スロット台は数が増えただけで、大きな変更点はなさそうだった。

「景品交換所と両替所が変わっていますね」

 トレフが扉の脇にあった、景品交換所と両替所を見る。

 以前は交換用の箱が二つ並んであっただけだが、箱は撤去され、代わりに大きなカウンターが出来ていた。

 鉄格子で仕切られており、反対側にはスケルトンが並んでいる。

 後ろの棚には景品の見本が並べられ、色とりどりの商品が見える。


「スケルトンと交換するのか」

 これは少しなるほどと思う。以前のやり方は時間がかかり、行列が出来ていた。これなら沢山カウンターがあるし、楽でいい。スケルトンに近づくことは気になるが、鉄格子が間にあり、向こうは襲い掛かれない。


「これは俺たちにむけた鉄格子だな。あべこべだ」

 鉄格子があるのは、スケルトンに襲われないようにするためではなく、俺たちが景品を奪わないようにするためだろう。

 モンスターが人間から身を守るために用意しているのだから、いろいろ間違っている。


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