表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/237

第百五話

 第百五話


 勇者サイトウが悪魔的な笑みを見せながら、配られたカードを見る。

 手札は4と10だった。


 サイトウはマダラメを見る。マダラメは一瞬だけカードを見たが、すぐに視線を前へと戻す。

 マダラメの表情からは、何も伺うことが出来なかった。

 ジードのベットラウンドから始まり、ジードは宣言通りすぐに降りた。そしてマダラメのベットラウンドとなる。


「さぁ、どうする? オールインか? それともドロップか?」

 サイトウがマダラメに挑発的な声をかける。

 テーブルにはまだ共通カードが一枚も出されていなかった。だがこの時点でオールインするかしないかを、マダラメは決めなければいけない。

 マダラメはサイトウの声にも動じず、静かに思考を巡らせ、そしてサイトウを見た。


「オールインだ」

 マダラメが手持ちのコインを、全て前へと突き出す。その宣言を聞き、観客が驚きに息を呑んだ。

 マダラメは十回のゲームの中で、六回オールインすると話した。しかし今はゲームが始まって最初の一回目だ。コインだけではなく自分の命すらも賭けているのに、一回目で全てを賭ける胆力が信じられないのだろう。

 カイトがジードと同じく降り、サイトウにベットラウンドが回ってくる。


「初っ端からオールインしてくるとはな、負けるのが怖くないのか?」

「別に? どうせ六回賭けなきゃいけないんだ。最初から降りていられないだろ? それより、お前はどうするんだ? 降りるのか、それとも勝負するか?」

 マダラメが問いに、サイトウは鼻で笑って返事はしなかった。


 五枚の共通カードが明らかになっていないため、共通カードによっては、後から役が完成してマダラメの手が強い手札になる可能性はある。だがそれはサイトウにとっても同じこと。それに手札と共通カードを含め七枚の組み合わせがあるとはいえ、役が揃うことは稀だ。駆け引きの要素がない以上、純粋に手札の運勝負と言えた。


 サイトウの手札は4と10。これはやや心許ない手札と言えた。

 トランプの札は十三枚。真ん中は7だ。ただしポーカーではAが一番強いため、真ん中は8となる。

 手札勝負で挑むのであれば、最低でも8以上でなければ話にならない。

 サイトウの手札は10。真ん中よりは強いと言える。だが同じことをマダラメも考えている。最序盤に勝負をかけたのだから、サイトウの手札には8以上のカードが入っていると考えるべきだろう。


 必勝を期するのならばワンペア。最低でもAかKは欲しかった。

 サイトウは頭を働かせる。

 勝負は十回、手札として与えられるカードは合計二十枚になる。ワンペアは無理でも、AとKが手札に入る可能性は十分にあると言えた。

 当然サイトウの戦術としては、自分の手がいい時に勝負するのが基本的な思考となる。だがこれは普通に勝負をした時の考だ。今のサイトウは馬鹿正直に勝負をする必要はない。目に宿るスキル『神眼』を使用すればいいだけのことだった。


(未来を対象にスキル発動。この手札で勝負した場合の、俺の勝率を予想しろ!)

 サイトウはスキルを発動し、自身が勝つ可能性を調べた。

『サイトウの勝率63%』

 スキルは無味乾燥に勝率を伝えた。

 六割の勝率。手札と同じく、悪くはないが良い数字とは言えなかった。


「どうした? コールかドロップか、早く選んでくれ」

 マダラメが急かすが、サイトウは相手にせず、熟考するふりをした。

 もちろん手札やスキルで予想した勝率から、今勝負するつもりはない。勝負するのならば、もっと手札の良い時に挑むつもりだ。今勝負せずとも確実に勝てる時はすぐにくる。だがそれまで簡単に済ませるつもりもなかった。


(これまで散々コケにされたんだ。限界まで気を揉ませてやる)

 サイトウは笑いながらマダラメを見た。

 マダラメはすました顔をしているが、内心は不安に震えているはずだ。


 サイトウはゆっくりと手を動かし、手前にあるコインに手を伸ばし、オールインするふりをした。観客がサイトウの手の動きに反応して大きく息を呑む。

 その間、じっとマダラメを観察したが、マダラメは眉一つ動かさなかった。


(よく耐えている。だが、いつまで続くかな?)

 表情を変えぬマダラメを見て、サイトウは感心しつつも、その表情が崩れ去る瞬間を想像し楽しんだ。

「どうしたコールするのか?」

 マダラメがコインに手を置いたまま、動かないサイトウを見る。


「……いや、ドロップだ」

 流石にこれ以上揺さぶっても意味はないかと、サイトウはドロップを宣言した。

 サイトウが勝負から降りたことに、また観客の間から息が漏れる。


 観客は一喜一憂するが、マダラメの表情は揺るがない。しかし内心息を撫で下ろしているはずだ。

 震えるマダラメの内心を楽しんでいると、ディーラーである四英雄のアルタイルが、新たにカードを配る。


 サイトウがカードを見るなり、勝利を確信した。

 配られた手札はAと3。Aは役なしの場合、最強の手札だ。後はマダラメがオールインすればサイトウの勝利だ。

 今回のベットラウンドはマダラメから。サイトウがマダラメを見るために顔を上げた。


「降りる」

 サイトウが顔を上げた瞬間。マダラメは早々に勝負から降りることを宣言した。

 マダラメの素早いドロップの宣言に、会場がざわつく。これにはサイトウも意外だった。


「降りる……のか?」

「ああ、言った通りだ。降りる。別にいいだろう? 勝負のルールで俺は四回降りる権利があるんだ。降りたい時に降りるさ」

 マダラメにこう言われては、何も言えなかった。そして同時にサイトウは自分の失策に気付いた。


(そうだった、こいつは俺の表情を読めるんだった)

 マダラメはサイトウの僅かな表情や仕草から、手札の判別を可能としていた。今のもサイトウの表情を読み、手札がいいことを瞬時に気付いて、勝てないと悟って降りたのだ。


(なんてことだ、せっかくのチャンスを)

 サイトウは勝機をふいにしたことに顔を歪めたが、すぐに気を取り直した。

 確かに表情を読まれるのは、勝負の上では大きなマイナスとなる。だが決して致命的ではない。何より現在のルールであれば、十分対処可能だ。


 新たにカードが配られ、マダラメが配られた手札を確認する。

 その時、観客席から小さなどよめきが起きる。視線はサイトウに集まっていた。カードが配られたのに、サイトウが手を付けないからだ。


「サイトウ様。カードはすでに配っていますよ?」

 アルタイルが手札を見ないサイトウに、カードを見るように促す。

「このままでいい」

 サイトウはカードに触れぬまま宣言した。

 観客からさらにざわめきが起きた。

 表情からカードを読まれるのなら、カードを見なければいい。それだけだった。


「わかりました。ではベットラウンドに参ります。カイト様。どうぞ」

 カードを見ないサイトウに、アルタイルはそれ以上言及せず、順番からカイトにベットを促す。

 カイトはすぐに降り、サイトウのラウンドとなる。サイトウはコインを最低額ベットしてジードに回す。ジードも降りてマダラメの番となった。


 オールインするかしないかの決定権はマダラメにある。サイトウはその後に、コールかドロップかの判断をする。ならばサイトウがカードを確認するのは、マダラメがオールインしてからでいい。これなら相手に情報を与えずにすむ。


(さぁ、どうするマダラメ。もはや何の情報もないぞ)

 サイトウがマダラメを見る。マダラメの顔色に変化はない。しかし内心は焦っているはずだ。

「マダラメ、オールインするのかしないのか。早く決めてくれ」

 サイトウはマダラメをせかし、そのすまし顔が崩れる瞬間を待った。


ダービー(兄)戦の承太郎ムーブをするサイトウ


気が付けば今年も年の瀬。おそらく今年最後の更新となると思います。

今年の元旦から連載を開始したダンジョンマスターマダラメも、百五話を数えることとなりました。

こうして連載を続けることが出来たのも、応援してくださった皆様のおかげです。

改めてお礼申し上げます。


次回更新は新年一月一日を予定しております。

来年もよろしくしていただけるとありがたいです。

それでは皆様良いお年を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 現状を正確に把握できる能力なのかな? なら絶対に負けるときは負けるんだな 今回の勝ちどきを逃すムーブといいダメっプリが際立つな
[気になる点] ダービー(兄)線の承太郎ムーブをするサイトウ 線→戦かな
[良い点] こちらこそ楽しいお話を読ませてくれてありがとうございます。良いお年をー!ニヤニヤしながら読んでます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ