表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/237

第百話

 第百話


 テーブルの上にはいくつものコインが積み上げられ、参加者や観客の視線はマダラメの一挙手一投足に注目していた。

 マダラメがコールするのかドロップするのか、その選択に誰もが息を呑んでいた。

 勝負に挑み、敗北すればマダラメはギャンブルに負けるだけでなく、自らのダンジョンにも王手を掛けられることとなる。

 テーブルの上に賭けられているのはチャチなコインなどではない、文字通りマダラメの命がかかっている。


「……コールだ」

 マダラメは降りず、勝負を受けた。

 サイトウが息を呑み、目を見開く。


 互いの手札が明らかとなる。

 サイトウの手札は不揃い。しかしマダラメの手札はワンペアが成立していた。


「マダラメ様の勝利です」

 ディーラーである聖女クリスタニア様が、マダラメの勝利を告げた。

 テーブルに掛けられた千枚近いコインが、マダラメの前に移動する。マダラメはこれまでの負け分を、一気に取り返す形となった。


「どういうことだ!」

 サイトウの怒鳴り声が会場に響き渡った。

 怒りのあまり席を立ったサイトウが、客席にいるトクワンを睨む。

 サイトウは透視能力でこの勝敗が見えていた。それでもなお大量のコインを賭けたのは、トクワンが賭け金を釣り上げれば、マダラメが降りると説得したからだろう。

 しかし目論見は外れ、マダラメは降りなかった。結果大量のコインを失い、外馬の勝負は、今回は敗北が決定したと言っていい。


「サイトウ、負けたからと言って怒るな。席につけ」

 マダラメが注意する。

 注意され、サイトウがトクワンを睨んでいた目をマダラメに向ける。


「それでサイトウ、外馬はどうする? あと二回戦あるが、このまま続けるか?」

 マダラメがサイトウに問う。

 あと二回で九百枚以上を取り返すなど不可能に近い。サイトウは分割された呪文書の一枚を手に取り、マダラメに投げつけるように渡した。


「この勝負はお前の勝ちでいい。次だ、次に行くぞ」

 サイトウは残りの二回を放棄し、新たに外馬を張りなおすつもりらしい。

「ふん、一つ取り返したぐらいでいい気になるな」

 しかし先程のゲームは負けたとはいえ、サイトウの優位は変わらない。サイトウはまだ何枚も呪文書を持っているし、準聖遺物や聖遺物をいくつも持っている。

 ここからマダラメが巻き返すのは、一見すると難しそうだった。


「そうか、ではお前のやる気を引き出すために朗報だ。最後の呪文書と、今取り返した呪文書。これを同時に賭けてやろう」

 マダラメは取り戻した呪文書を、テーブルの上に置いてあった最後の呪文書の上に重ねる。


「なんだと?」

「ああ、お前が賭けるのは一つだけでいいぞ。お前が勝てば二枚ともお前の物だ。どうだ、やる気が出るだろう?」

 眉を上げるサイトウに対して、マダラメが笑う。

 サイトウがあと一回外馬に勝てば、全ての呪文書をそろえていつでも最下層に転移出来ることとなる。


「正気か?」

 サイトウが怪訝な顔をする。マダラメにとってこれはリスクでしかない。

「さて、どうだろうな? 俺自身は正気のつもりだが、よく狂っていると言われるしな」

 本人は自覚があるのかないのか、ふざけた態度だった。

「だが、一度賭けたものをひっこめたことはないぞ。勝てばこれはお前の物だ」

 マダラメは二枚重ねられた呪文書を見た。

「ただし、勝てれば、の話しだがな」

 マダラメが不敵に笑うのを見て、サイトウは顔を赤く染めて激昂した。


「ふざけやがって、一回ぐらい勝った程度で調子に乗るな!」

 サイトウがマダラメを睨む中、ディーラーである聖女クリスタニア様がカードを配る。サイトウのベットラウンドが回ってくるが、サイトウは舌を噛むのも忘れてコインを十枚前に突き出す。

 トクワンの方を見もせず、その仕草はまるで、「トクワン、お前はクビだ」と言っているようだった。


「なんだ、もう内緒のおしゃべりは止めしたのかい?」

 自分の意思でベットしたサイトウに、マダラメが笑いながら話しかけた。

「なっ! お前、気付いていたのか?」

 サイトウは、念話のイカサマが見抜かれていたと気付き、目を見開いて驚く。


 だが気付かれていないと思っていたのは、サイトウだけだった。

 カイトですら気付いていたイカサマだ。ジードは当然気付いていたし、マダラメに至っては、おそらく勝負が始まる前から気付いていただろう。


「べ、別にいいだろう。ルールで禁止はされていなかった。イカサマじゃない」

 トクワンとグルであることを指摘され、サイトウは動揺しつつも言い切った。


 博打はイカサマの歴史である。

 勝つために勝負師は手段を選ばず、ありとあらゆるイカサマを考案してきた。

 古典的なすり替えから、大掛かりな道具と複数の仲間を使った物まで、イカサマの種類は多種多様だ。

 その中にはもちろん、スキルを使ったイカサマもある。

 当然イカサマを防止する方法が考案され対策がなされているが、イカサマを防ぐ方法が考えられれば、それを超える新たなイカサマが生み出され、際限のない、いたちごっことなっている。


 通常の賭場では、暗黙の了解としてスキルの使用はイカサマと判定される。

 本来なら大会規定に、スキルの使用を禁止する項目があるべきだった。しかし今回のギャンブル大会は、ルールにスキルの使用を禁止する記載が一切なく、大きな穴となっていた。


「そうだな、確かにルールで禁止していない以上、イカサマとは言えないな」

 マダラメはあっさりと、サイトウのイカサマを不問に付した。


「ふん、所詮は決勝にも残れなかったやつだ。全く使えない!」

 サイトウがトクワンを睨んで、憎々しげに言い放つ。ここまで勝たせてもらったくせに、たった一度の失敗でひどい言いようだ。


「そう怒るな。トクワン氏は頑張ってくれた。私のためにな」

 怒るサイトウに、マダラメが自身のイカサマを告白した。


「なっ、どういうことだ!」

「どうもこうも、そのままの意味だよ。お前が渡した十倍の金を積んで買収した。トクワン氏は快く受けてくれたよ」

 マダラメが客席に向かって手を挙げると、トクワンが親しげに手をあげて応じた。


「馬鹿な、いつの間に!」

 サイトウが驚くが、驚いていることにカイトは驚く。前を見ると、ジードが肩を震わせて笑いを噛み殺していた。


「もちろん、お前がトクワン氏と分かれたすぐ後だよ」

 半笑いのマダラメの言葉に、カイトも笑うしかない。

 ここはダンジョンの中、いわばマダラメの庭だ。どこにいても監視の目があると考えるべきだ。

 当然だが、自分の命を狙う相手の行動など、最優先の監視対象と言えるだろう。

 誰かと密会などすれば、すぐに気付いたはずだ。

 サイトウのイカサマは、後半戦が始まる前から見抜かれていたのだ。


「ズルい!」

「ことはないよなぁ?」

 サイトウの叫びに、マダラメが被せる。

「お前のやったことはイカサマじゃない。ルールに記されていない以上、スキルを使用してアドバイザーを雇うのも自由だ。なら金を積んでアドバイザーを俺の協力者にするのも、イカサマじゃないよなぁ。何せこれもルールで禁止されていないのだから」

 マダラメの言葉に、サイトウは下唇を噛む。


 先程サイトウは自分の行為をイカサマではないと言い、それを肯定された。ならこれ以上イカサマと言い張ることは出来ない。

 もしマダラメのしたことがイカサマならば、サイトウも自身のイカサマを認めることになってしまう。


「ふん、別にいい。もうあんなやついらない。自分の力だけで勝てる」

 サイトウは息巻いた。

 確かにコインの総量ではサイトウは大きくリードし、現在カイトを抜いて一位となっている。

 一方マダラメは二千枚を切っており、四人の中で最も少ない。

 サイトウの勝利は目前と言えた。


「見ていろ、すぐに勝利して吠え面をかかせてやる」

「ああ、楽しみにしているよ」

 サイトウの威勢のいい言葉に対して、マダラメが笑う。

 そしてカイトとジードも、内心で舌なめずりをした。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記Ⅱが小学館ガガガブックス様より発売中です

よろしくお願いします

ロメリア戦記のコミカライズが決定しました。来年初頭連載開始予定。こちらも併せてよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い!カイトを応援したくなるのがイイ! [気になる点] 渡久地+ワンナウツ=トクワンってコトかな!?
[一言] すっっっっごいおもしろい
[良い点] 気持ち良く決まりましたね ルール違反でもお遊びでもないから仕方ないね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ